狙われた街
第8話
鬼才、実相寺昭雄監督のセブン第1作。
「これはね、実相寺監督の名作です!」(森次晃嗣:談、※7)


アンヌの喪服姿が見れるぞぉ!
アンヌの私服姿が見れるぞぉぉ!
アンヌの月面クレーターニキビがアップで見れるぞぉぉぉ!


科学特捜隊のフジアキコ隊員に続き、ウルトラ警備隊の友里アンヌ隊員もまた、鬼才、実相寺昭雄監督の毒牙にかかってしまったのであった…。
フジアキコ隊員の場合は、喪服(#35:怪獣墓場)、私服(#14:真珠防衛指令)、魚眼レンズで顔アップ(#34:空の贈り物)と、3回に分けてやられたが、アンヌは1回で全部。
←う〜ん、1回で3度、オイシイぞぉ…。
ちなみに、フジ隊員は、のちに実相寺監督にATGで脱がされたが、我らがアンヌは、東映で勝手に脱ぎまくってしまったぞぉ…。←…ってオイ!





STORY



タクシー暴走事件(川崎市川崎区千鳥町)。
TOON!TOON!工場の騒音。
工場地帯に程近い埋立地の資材置き場を遊び場にする子供たち。
無造作に並べられた丸太の山は、いかにも危険である。
しかし、気にせず走り回る子供たち…。だが、子供たちは一様にマスクをしている…。
丸太や瓦礫よりもスモッグの方が、よっほど危険だった…、あの頃の川崎…・。
女の悲鳴が聞こえる。
タクシーの後部座席から女が叫んでいる。
「助けてぇ〜、誰か!」(女)
タクシーは、暴走しているのだ…。
「助けてぇ〜!助けてぇ〜!」(女)
タクシーの後部座席から、必死に叫ぶ女。
パトカーが追う。止まるタクシー。逃げる女。暴れる運転手。取り押さえる警察官。
そして、運転手は、ゼンマイの切れた人形のように、気を失った…。
TOON!TOON!工場の騒音。


旅客機墜落事件。
パイロットであるアンヌの叔父が操縦する旅客機が墜落した。
従兄弟のヒロシをポインターで迎えに来たアンヌ。
「パパがどうかしたの…?」(ヒロシ少年)
「お父さまの飛行機がね…、お父さまの飛行機が……」(アンヌ)
墜落事故でアンヌの叔父が死亡したのだ。


友里家葬儀(慶元寺:世田谷区喜多見)。
葬儀は、しめやかに執り行われた。
泣き崩れるアンヌの叔母。
「……叔母様…」(アンヌ)
叔母を気遣う黒い和服姿のアンヌ。
弔問に訪れる人々の会話。
「惜しい人を無くしたもんだ…。何しろ、日本民間航空きっての名パイロットだったそうだからねぇ…」
「しかし、可愛そうなのは130人の犠牲者ですよ…」
「最近といっても、ここ10日ばかりの間ですわ…、何か事故があったというと、必ず、この町の人間が主役なんですから……」
「そういえば、この間の列車衝突事故の運転手もこの町の人でしたね、千葉でタンカー爆発で捕まったの犯人もそうですよ……」
「私はタクシー会社をやっているものだが、30軒もの人身事故あり、会社を閉めてしまいましたよ…とてもやっていけませんからねぇ……」
口さがない弔問客の話に耳をそばだてるダン。
この街、北川町で、何か異変が起きていることは、確かのようだ。


ライフル発砲事件(川崎市多摩区登戸)。
北川町駅前のタバコ自動販売機で、パトロールの途中に、タバコを購入するフルハシ。
しかし、一服する暇も与えず、銃声が鳴り響いた…。
現場に急行する2人。
すると、ライフルを乱射している男がいるではないか…。
DAN!…DAN!…
ライフル男の目つきは明らかに尋常な様子ではない。
銃声とサイレン音が入り乱れる…。
突進するフルハシ…、が、被弾して転倒。
狙撃するソガ。吹き飛ぶライフル。
逮捕されても抵抗し、暴れる犯人。
しかしやがて、ゼンマイの切れた人形のように、気を失った…。


暗い部屋。黒い壁に、白くて丸い照明の部屋。
「その男、どこでライフルを手に入れたんだ?」(キリヤマ)
「はぁ、現場から100メートルばかり離れた銃砲店です。店員の話では、ちょいちょい姿を見せる客なんで、一服喫りながら銃の話をしてたらしいんです。すると突然、気が狂ったように陳列棚からライフルと弾を盗り、逃げたというのです」(ソガ)
画面を下手から横切るアンヌ。
「発作的な行動なのね」(アンヌ)
通り過ぎるアンヌの影に、隊員たちの姿は、一瞬隠される。
「ごくおとなしい青年だったそうだよ」(ソガ)
「職業や住所はわかっているのか?」(キリヤマ)
「はぁ、職業は平凡なサラリーマンで、住所は北川町です」(ソガ)
(またしても北川町の住人だ。これは、単なる偶然とは思えない…。何かある、きっと何かある)(ダン)
「ソガ隊員、その男が留置されている警察署は?」(ダン)
「第4分署だ」(ソガ)
何も言わず出てゆくダン。


傷の痛むフルハシの横顔から始まるこのシーンは、実はメディカルセンターが舞台なのです。壁から天井にかけての黒地に大きな白丸の照明は、これまでもメディカルセンターのカットで写しこまれていました。しかし、ここまで強調的にかつ、大胆に使った画面はありませんでした。横一線に並んだ隊員たちのシルエットは、うっすら顔がわかる程度で、左からダン、ソガ、隊長、アマギと並んでいます。影絵のようなソガが、隊長へ報告する形でライフル事件を語りますが、皆、表情もはっきりしません。きわめて、トリッキーな構図です。全体的にアンダートーンの映像設計のためか、今回、基地内は、ほとんど灯火管制状態です。作戦室のシーンも夜勤の宿直かと思うくらいの暗さなのです。


第4分署(円谷プロ)。
「運び込んでから2時間ばかり眠り続けて、やっとさっき起きたところですよ。ちょうど今、取り調べ中ですから、よろしければ…」(第4分署刑事)
「驚いた奴ですよ…。自分のやったことを覚えてないって言うんですから…」(穂積刑事)
「本当ですよ…ライフルをぶっ放したなんて、そんな恐ろしい…」(犯人)
「黙れ!君はね、ウルトラ警備隊のフルハシ隊員にキズを負わせたんだぞ」(穂積刑事)
「知りません。本当に知らないんです」(犯人)
「じゃ、話を続けよう。朝メシにトースト2枚とミルクを飲み、それからどうした」(穂積刑事)
「日曜日だし、映画でも見ようと思って…」(犯人)
「それは何時ごろだ?」(穂積刑事)
「10時ごろ、新聞とタバコを買って…」(犯人)
「新聞はどこで買った?」(穂積刑事)
「駅の売店です」(犯人)
「タバコは?」(穂積刑事)
「駅前の自動販売機。それで、映画には間があったんで、行きつけの銃砲店に寄ったんです」(犯人)
取調べは続く…。犯人が、北川町駅前の自動販売機でタバコを買ったことは判明した。


ポインターで捜査中のダン。
ダンプカーが無理にポインターを追い越すと、荷台を傾けて大量の砂利を滑り落とし始めた。
砂利に乗り上げて、ハンドルを取られるポインター。
停車したダンは、すかさずダンプカーのドアを開けるが、そこには誰もいなかった。
「何者だ!姿を見せろ!堂々と出て来い!」(ダン)
♪M51(フルート主体のあの名曲)
「モロボシダン、いやウルトラセブン!我々の邪魔をするな!これは命令だ。今すぐに手を引け!我々にとって君を倒すことは問題ではない。だが、同じ宇宙人同士で傷つけあうのは愚かなことだ。もう一度忠告しておく。北川町に近よるな、ウルトラセブン!」(男の声)
誰もいない、何の気配もない運転席から、男の声だけが流れていた…。


作戦室へアンヌの目を盗み、一服喫りにくるフルハシ。
「歩いたりして大丈夫ですか?」(ダン)
「ああ大丈夫だ。アンヌ隊員がウルさくてね…。ここで一服させてもらうよ」(フルハシ)
「どうぞ、どうぞ。コーヒーでも入れますよ」(ダン)
封を切り、タバコに火をつけるフルハシ。パトロール中に購入したタバコである。
美味そうに深く吸い込むフルハシだが、まもなく、野獣のような凶暴な目つきに変貌した。
そして突然、気が狂ったように暴れ始めた。あわてて、必死で止めに入る、その他大勢の防衛隊員。
「ソガ隊員!気でも狂ったんですか?」(防衛隊員)
←フルハシだ。
しかしフルハシは、地球防衛軍きっての怪力の持ち主である。防衛隊員5人をしても止めらきれない。
「フルハシ!止めないか!」(キリヤマ)
「BISHII!」、キリヤマ隊長の鉄拳が1発。
「paco paco」、アマギの角棒攻撃が2発。
そして、ゼンマイの切れた人形のように、気を失った…。
「おかしな奴だな…」(キリヤマ) ←おかしなセリフだな…。
運び出されるフルハシ。


メディカルセンターにフルハシを運んだソガが戻ってきた。
「フルハシはどうした?」(キリヤマ)
「死んだように眠ってます」(ソガ)
「そうか…」(キリヤマ)
「いやあ、まったく驚いたよ…、さっきのライフル魔そっくりなんだから…」(ソガ)
置きっ放しのフルハシのタバコを失敬して一服するソガ。
←作戦室は禁煙にしろって…。
美味そうに深く吸い込むソガだが、まもなく野獣のような凶暴な目つきに変貌すると、フルハシと同様に暴れ出し、やがてゼンマイの切れた人形のように、気を失った…。
「わからん…、これは一体どういうことなんだ?」(キリヤマ)
「隊長…。フルハシ隊員もソガ隊員も、ここでタバコに火をつけた瞬間…」(ダン)
何かを思いついたダンは、タバコをもみほぐした。
そしてタバコの中に、赤い結晶体があるのを発見した。
「これですよ!このタバコに原因があるんですよ」(ダン)
「よし、科学班にまわそう…」(キリヤマ)



実相寺昭雄監督は、TBS演出部に籍を置く社員ディレクターでしたが、あまりにも毛色の異なる天才肌の演出が認められず、映画部への移籍を余儀なくされました。いわば干されていた状況だったそうです。そこをウルトラシリーズに引き込んだのが、TBSの先輩にあたる円谷一氏でありました。
「ウルトラQ」では、万福寺百合のペンネームで、シナリオを書きましたが採用されず、「ウルトラマン」の#14「真珠貝防衛指令」&#15「恐怖の宇宙線」から監督になり、脚本家の佐々木守氏とのコンビで、計6本を演出しました。
実相寺監督の演出は、大胆な設定とトリッキーなカメラワークが持ち味で、佐々木守氏の問題提起型ストーリーとあいまって、ウルトラマンワールドに拡がりを与えたといわれています。
特に、#34「空の贈り物」でのスプーンとフラッシュビームを間違えるハヤタの演出は、TBSの制作プロデューサーや正統派の野長瀬三摩地監督ら、制作サイドの多くからはひんしゅくを買いましたが、視聴者の子供たちからは絶大な支持を得たのでした。


「実相寺さんの回は、よく覚えています。やたらと変なところから撮ってましたから。あと何かをなめて撮るカットとかね。何しろ、新しいセットを組んだときなんか、一さんが来て言うんですよ。実相寺はこの隙間から撮りたがるだろうから、もうちょっと開けておけとね…」(中山昭二:談、※4)


実相寺監督は、円谷一監督が大道具係に指示したような隙間から、撮っているのでしょうか…。探してみるのも一興です。



北川町駅前(川崎市多摩区登戸)。
タバコ自動販売機に近づく2人。
「売り切れか…」(ダン)
「遅かったわね」(アンヌ)
「そうでもないさ…。今にタバコを入れに来る奴がいる。そいつが来るまで張り込むんだ」(ダン)


科学班による赤い結晶体の分析結果が報告された。
「宇宙ステーションV3の隊員が、ワイ星探検をしたときに持ち帰った宇宙ケシの実がありましたが、あれとよく似たもんです。もちろん地球のものではありません」(科学班員)
「この赤い結晶体はどんな性質を持ってるんだい?」(キリヤマ)
「はぁ、それに侵されると他人はすべて敵に見えてくるという効力があるようです」(科学班員)
「他人が敵に…」(キリヤマ)
「理性や感情を失い、敵を倒す殺意だけを持った人間に変わってしまうんです。それをタバコに仕込むとは、恐ろしいことを考えたもんです。人類の約半分は、タバコを吸っているんですからね」(科学班員)
←そんなに吸っていたのか、この頃は…!


北川町駅前(川崎市多摩区登戸)。
アマギから分析報告を聞いたダンとアンヌ。
「君の叔父さんも、タンカー爆破の犯人もライフル魔も、みんなその赤い結晶体のために殺人鬼と化してしまったわけだ」(ダン)
「叔父様、そうとも知らずに、フライトの前に一服喫ったのね…」(アンヌ)
アンヌの叔父も被害者のひとりだったのだ。



ダンとアンヌが張り込んだ、小田急線向ヶ丘遊園駅の駅前広場が見通せる喫茶店は、「スナック キャンパス」という名の店でした。昼は喫茶、夜はスナックという形態の店だったようです。今ではセットバックしてビルが建て替えられたので、この店はありません。しかし、ほぼ同じ角度に建てられているKFCの2Fか隣のMACの2Fから駅前を見ると、画面とさして変わらない光景が今も目前に広がります。


それにしても、敵に見つからないように張り込んで、犯人が来ることを待っている以上、ウルトラ警備隊であることがバレては、元も子もありません。そこで、2人とも私服なのですが、コゲ茶色のタートルネックセーターの胸部を押し上げるアンヌの二子山ボインだけは隠しようがありません。宇宙人だげどやっぱり男の子のダンは、目のやり場にも困り、ノドもカラカラに渇いてしまいます。そう、その喉を潤すために、コーラを一気飲みしているのです。実相寺監督の演出は、そういうことなのです。


「いやぁ、この人はかわいかったけど、ぜんぜん色気がなかった(笑)。実相寺監督が言うんだよ、"あれをなんとかしろ"と。ロコ(桜井浩子)と比べてひどすぎると。"なんとかしろ、おまえの責任だろう"と言われたわけですよ、僕は。それも実相寺さんは冗談半分に言うんですよ。なんとか色気が出せないもんかって。ところがアンヌは若いからオッパイはこうだけど(笑)、ニキビはブツブツできてるし、すごいんだから、女優のくせして……」(山本正孝:談、※3)(本編助監督)


               


ピンボケのアンヌをナメて、ダンにピンが合っている画面から、ピントはアンヌに移ります。アップに映し出されるアンヌの横顔…。そこには確かに、クレーターのようなブツブツが……。
桜井浩子さん(フジ隊員)は、魚眼レンズで顔のドアップを撮られましたが、アンヌはブツブツニキビをドアップで撮られてしまいました…。


「このシーンを後で見て、"ワァ、顔がブツブツでひどいナァ…"と思わざるを得ませんでした。女優として、いいえ、女として見せたくない部分をバッチリと撮られてしまった気がしたものです」(ひし美ゆり子、※2)

「当時、アポロ計画前のジェミニ計画ってのがあって、月の裏側の写真を撮ってきた。ブツブツのクレーターのやつだけど、それを見て、満田監督が、"アンヌみたいだ"って言った(笑)。それだけすごかったんだね、ニキビが」(山本正孝:談、※3)



自動販売機のそばに、ライトグリーンのフォルクスワーゲン製ワゴンが停車して黒ずくめの男が降りると、タバコの補充を始める。やがてワゴン車に乗って走り去る男の尾行を開始したダンとアンヌ。
ワゴン車が未舗装のドブ道を走り抜けて、着いたところは場末の工場地であった。
男はくたびれたコンクリート塀に大小便禁止と殴り書きされた、うらぶれたボロアパートに入って行く。
太陽は傾き始め、夕焼けまでもう間のもない頃…。
「アンヌ、君はここで待っていてくれ」(ダン)
「一人で大丈夫なの」(アンヌ)
「うん、何かあったらすぐ本部にしらせるんだ、…いいね」(ダン)
「了解」(アンヌ)
ひとりアパートに潜入するダン。



今回から髪がショートになったアンヌが、逆光の夕日の中に映し出されます。アパートに潜入したダンからの連絡を待っているのです。カメラは上手からゆっくりとパンします。夕日がアンヌで隠れ、表情が影として捉えられます。ダンを心配する乙女心が伝わってくるような演出です。そして、緊張を隠せないアンヌの顔が映っているとき、ラジオの野球中継が聞こえてきます。ウルトラ警備隊に課せられた侵略者との息詰まる戦いのすぐ傍らで、何も知らずにいつもと変わらぬ日々を送る市井の人々。野球中継は、ウルトラ警備隊が守ることを義務付けられた一般市民の日常の象徴なのでしょうか。
実相寺監督は、#45「円盤が来た」でもラジオの野球中継を使用しています。こちらでは、突然発現した現実逃避に対する揺れ動く気持ちを現実に引き戻すかのように、いわば現実の象徴としての記号として、かなり長い時間にわたって使われました。また満田監督の最終回でも使われました。この頃は巨人軍黄金時代で、長嶋茂雄選手の全盛時のうえに、少年マガジンで前年から連載の始まった「巨人の星」が大ヒットした年でもあります。野球中継は時代を代表する音声がリアルタイムな現実を示唆する記号として、また、画面が現実と遊離したことを知らしめる方法論として、用いられていたようです。



アパートに潜入したダンは、うす暗い廊下をいちばん奥の部屋の前まで捜索する。
するといきなり扉が開いて部屋に連れ込まれ、眼前にはメトロン星人が待っていた。
そして…、あまりにも有名な、「ちゃぶ台を挟んで対峙する、ダンとメトロン星人」の画面。
「ようこそ、ウルトラセブン!…我々は、君の来るのを待っていたのだ…」(メトロン星人)
「なに!」(ダン)
「歓迎するぞ、アンヌ隊員も呼んだらどうだい」(メトロン星人)
ちゃぶ台の前に、あぐらをかいて座るメトロン星人。
つられたダンも思わず座ってしまう。
「君たちの計画は全て暴露された。おとなしく降伏しろ」(ダン)
「ハッハ…、我々の実験は十分成功したのさ」(メトロン星人)
「実験…?」(ダン)
「そうだっ!赤い結晶体が人類の頭脳を狂わせるのに、十分効力があることが分かったんだ。教えてやろう、我々は人類が互いにルールを守り、信頼しあって生きていることに目をつけたの
だ。地球を壊滅させるのに暴力をふるう必要はない。人間同士の信頼感をなくせばよい。人間たちは互いに敵視し傷つけあい、やがて自滅していく。どうだ、いい考えだろう」(メトロン星人)
「そうはさせん、地球にはウルトラ警備隊がいるんだ」(ダン)
「ウルトラ警備隊?恐いのは、ウルトラセブン、君だけだ!だから君には宇宙へ帰ってもらう、邪魔だからな…」(メトロン星人)


劇中使用の楽曲は、実相寺監督の指定に沿って書かれたクラシカルなオリジナル音楽です。
葬儀(M49B)、聞き込み(M51)、張り込み(M50T4)などの各シーンで使われた各曲やメトロン星人の登場時に使われたフルートの調べが印象的なM51など、クラシック愛好家として知られる実相寺監督らしく、音楽にも繊細な演出を施されています。



              夕焼けの中、夕陽を背景に向かい合うセブンとメトロン星人。
          
                     一瞬の間があり、両者とも走り出す。
          
               夕陽の中で交わる両者の影…、決着は速攻で決まった。
          
            決まり手:アイ・スラッガー、タテ1/2切り、エメリューム光線焼却。



速攻の決着は、本話の放送スケジュールが急遽繰り上がり、特撮パートが間に合わなかったためだそうですが、実相寺監督のことですから、本編も予定以上にカメラを回していたことでしょう。スケジュール通りでも特撮パートは短かったと思われます。
それにしても「椿三十郎」ばりの速さです。
円谷プロ自体が東宝の傍系のうえに、野長瀬監督を代表に、東宝所属監督が何人も応援としてウルトラシリーズの制作に関わっていました。そのため、カットやセリフの節々に、当時の最高の演出家であり、東宝の天皇ともいわれた黒澤明監督の作品の影響が、セブン制作陣に波及していても何の不思議はありません。マネとかパクリとかというレベルではなく、映像に携わるものは誰もが、一歩でも憧れの巨匠に近づきたかったのです。
また、制作費の回収のために海外輸出を前提としていた「ウルトラセブン」では、作品舞台を限定することは避けたい事象でした。なぜなら、近未来SF作品という性格上、現実の日本よりは、むしろ、無国籍的な方が、海外輸出し易いと考えられていたからです。このような背景から、セブンでは生活感が強い映像や純和風映像の禁止令が出ていました。それにもかかわらず実相寺監督は、掟破りともいえる「畳四畳半一間で、ヒーローと敵とが、ちゃぶ台挟んで2ショット」をやってしまったのです。その結果、しばらくセブンから離れ、京都へ武者修行に出ることとなりました。
予算の逼迫した後期、「着ぐるみ格闘がなくても話がつくれる監督」として、京都から呼び戻され、再びメガホンをとった実相寺監督は、#43「第四惑星の悪夢」、#45「円盤が来た」という名作を生んだのでした。


「メトロン星人の地球侵略計画はこうして終わったのです。人間同士の信頼感を利用するとは恐るべき宇宙人です。でもご安心下さい、このお話は遠い遠い未来の物語なのです…。え、何故ですって?…我々人類は今、宇宙人に狙われるほど、お互いを信頼してはいませんから…」(浦野光)
本作品はエンディング・ナレーションにすべてが語られています。
物語のすべては、このための布石だったのです。


←ちなみに、このようなつくりの物語を「寓話」といいます……。



金城哲夫氏のシナリオ集『ノンマルトの使者』中のシナリオでは、最後のナレーション部分はないそうです。

「方法論的に言うならそれは『ウルトラセブン:狙われた街』で人間の信頼感を謳った金城哲夫の意図を、自ら書き込んだナレーションひとつで逆転させた実相寺昭雄の手法に近い」(「帰ってきたウルトラマン大全」 双葉社刊より)

ということは、このラストナレーションは、実相寺監督のオリジナルということになるようです。





ALIENS&MONSTERS

幻覚宇宙人:メトロン星人
身長:2m〜50m
体重:最大1万8千t
武器:腕から発射する破壊弾
    宇宙芥子の実
特技:アグラをかいて座ることができる
    あんな腕なのに運転ができる
特徴:サイケな色彩
趣味:クラシック音楽鑑賞
弱点:信頼





ACTOR&ACTRESS



穂積隆信(吉村刑事)
言わずと知れた「積木くずし」。


伊藤久哉(カネダ科学隊員)
一昔前まで、東京では入手困難なことから「幻の名酒」と呼ばれていた越後の地酒「越の寒梅」。そのころから、「越の寒梅」がいつでも楽しめる店として人気のあった店が東京の南部にありました。東急目蒲線(現多摩川線)鵜の木駅前の割烹「ひさや」です。今は代替わりして息子さんが継いでいますが、始めたのはカネダ隊員だったのでした。


中江真司(メトロン星人の声)
のちのショッカー首領。





LOCATION



川崎市千鳥町の空地(暴走タクシー、子供たち、ポインター)
川崎市浜町(メトロンアパート)
川崎市登戸:向ヶ丘遊園駅(たばこ購入、張り込み)
世田谷区喜多見:慶元寺(葬儀)
世田谷区大蔵:円谷プロ(第四分署)









                        





              「ウルトラセブン」ストーリー再録  第8話「狙われた街」
      04/JUL/2001初版発行  24/NOV/2001第二版発行  28/JUL/2003第三版発行
              Copyright (C) 2001 Okuya Hiroshima All Rights Reserved








制作10話  脚本:金城哲夫  監督:実相寺昭雄  特殊技術:大木 淳