第31話
悪魔の住む花
松坂慶子さんの出演作として有名な一編です。
「映画『ミクロの決死圏』にヒントを得て少女の体内に宇宙細菌ダリーが入り込み、それを退治するためにウルトラセブンがミクロ化して体内に入り込む設定。ヒロインの香織役をとびきりの美少女にしてくれと鈴木監督に頼み込んでおいたのに、ラッシュを見るとやや太めの健康そうな女優だったので大いにがっかりした。その女優が松坂慶子だった。これが彼女のデビュー作で、天下の美人女優に大化けするとは思いもしなかった」(上原正三:※7)
その天下の美人女優が、大根振り回して「お得よ!」と言うとは、思いもしなかった…。





STORY



一足早く春を迎えた花畑。
「アハッハッハ」「待ってェ〜」
走り回る3人の女子学生たち。
ひとりのやや太目の娘が、珍しい花びらを見つけた…。
「まぁ…」(カオリ)
花びらに口づけをするやや太目の娘。
「カオリ、何してんの?…早くいらっしゃいよ」(若山真樹)
女子学生のひとりは、SSTのキャビンアテンダント、ラリーの方向音痴、北極のカナン星人、蒸発都市の野次馬などなど…、セブンのスーパー脇役:若山真樹嬢。
「うん…あっ…」(カオリ)
絶句し、倒れこむカオリ。


病院。
「いやぁ助かりました。特殊な血液型ですから、急患のときに困るんです」(医師)
「いつでも呼んでください」(アマギ)
特殊な血液型の持ち主だったアマギ、カオリに輸血する。
「ところで病名は何ですか?」(ダン)
「それがどうも血液中の血小板が、急激に減っていることは確かなんですがね。何が原因なのかさっぱりわからんのです」(医師)
昏睡するカオリを見守るダンとアマギ…。
すると、ダンが何かを見つけた。
「…ん?」(ダン)
カオリが握り締めている手のひらにはあの花びらが…。
(待てよ…確かどこかで見たことがある)(ダン)
何か不審を感じ取ったダン。


深夜の病院。
巡回中の看護婦が、カオリの不在に気付く。
アマギとソガが病院に急行した。
手分けしてカオリを探す、アマギ、ソガ、看護婦。
地下室にやって来た看護婦、首を締められる…。
「きゃぁぁぁぁ」(看護婦)
悲鳴を聞いて駆けつけたアマギ…。
背後から後頭部を殴られて失神…。


眠るアマギ。
「容態は…」(キリヤマ)
「後頭部をやられています。しばらく安静が必要です」(医師)
「犯人はやはり彼女なのか…」(キリヤマ)
「間違いありません」(ソガ)
「私も首を締められました」(看護婦)
「それにしても意識不明の人間が、どうやって地下室に行ったんだろう、何のために?」(キリヤマ)
「隊長、地下室には輸血用の血液が保管してあります」(ソガ)
「血液?」(キリヤマ)
「じゃあ、血が欲しくって…」(フルハシ)
アマギの首筋に傷口らしき血痕が…。
「隊長、見てください…頚静脈を狙った痕ですよ」(ダン)


カオリの病室。
アマギを襲ったあと、再び昏睡するカオリ。
「ダン、どうしたんだ?」(キリヤマ)
食い入るように覗き込むダン。
「この人が…信じられん…」(キリヤマ)
「そうよ、隊長の言うとおりよ」(アンヌ)
すると、カオリの口元から血が一筋流れ落ちた…
ダンは、ぎょっとしながらも自分に言い聞かせるように思った。
(こんな美しい顔で、血を吸うわけがない。きっと、何か原因がある)(ダン)
←ウルトラ警備隊員とは思えない差別的な発言ですネ…。醜い顔なら血を吸ってもええんかい!
「よし、アマギとカオリさんを基地に移そう」(キリヤマ)


防衛軍基地。
カオリの握り締めていた花びらを分析した。
「隊長、病気の原因がわかりましたよ。電子顕微鏡でやっと突き止めました。これです」(ダン)
写真を差し出すダン。
「左は宇宙細菌ダリーです」(ダン)
「宇宙細菌?」(キリヤマ)
「そうです。血液中のクリブゲンノーゲンを食ってる恐ろしい奴ですよ」(キタムラ博士)
「これが彼女の体内にいるわけか…」(キリヤマ)
「隣は彼女の胸部写真ですが、肺の部分に巣くっているものと思われます」(キタムラ博士)
「この細菌に血を吸い取られているのねぇ…」(アンヌ)
←ドクターのセリフではない…
「こいつのために、恐ろしい吸血鬼にされているんだ」(ダン)
「どうすれば退治できるんですか?」(アンヌ)
「…現在の医学では、恐らく…」(キタムラ博士)
「じゃあ…、一生…」(アンヌ)
「そんなバカなことがあっていいものか」(キリヤマ)
やり場のない怒り…。
「フルハシ、メデイカルセンターをみてくれ」(キリヤマ)


メデイカルセンター。
「隊長、異常ありません、良く眠っています」(フルハシ)
「そうか、良く眠っているか…」(キリヤマ)
「ええ、まさに眠れる森の美女…。恐らく今夜は大丈夫でしょう」(フルハシ)
←やはり、地球の男は可愛い娘に弱い…。
その隙を突いて、逃げ出すカオリ。
「隊長、カオリさんに逃げられました!」(フルハシ)
泣きそうなフルハシ。


基地内を彷徨するカオリ。
「カオリさん…」(キリヤマ)
発見したキリヤマ隊長とアンヌ。
「どこに行くんだ?」(キリヤマ)
無言、無表情のカオリ。
「キミには休養が必要なんだ。さあ帰りなさい」(キリヤマ)
「さっ、帰りましょ…」(アンヌ)
口を軽く開き、麻酔息を吐きかけるカオリ。
倒れこむキリヤマ隊長とアンヌ。
病室のアマギを連れ出すカオリ。
「アマギ!行っちゃいかん!…。アマギ!…アマギ戻るんだ!」(キリヤマ)
必死に立ち上がろうとするキリヤマ隊長。
しかし、身体は動かない。
「緊急連絡、ポインター応答せよ!」(キリヤマ)
残る力を振り絞って、ポインターを呼び出す。
「はい、こちらフルハシ」(フルハシ)
「アマギが連れ出された、まだそう遠くには行ってない。早く見つけださないと、アマギの命が危ないぞ!」(キリヤマ)


誰もいないはずの夜の遊園地で、回転木馬が動いていた。
いったい誰の仕業だろうか…?馬車が回ってきた、誰かが乗っている?
カオリとアマギだ。しかし、アマギに怯えの表情はない。
それどころか、幸せそうに見つめ合い、二人は微笑みあう…。
その姿は仲睦まじい恋人同士のようである。


「私もよく、彼女との共演について聞かれます。しかし、これといった印象はないのです。ロケでは同室だったので、あれこれと世話を焼き、かわいがってはいたのですが…。確か彼女は、私より5歳ぐらい年下。失礼ながら、どこにでもいる普通の新人さんといったといった感じでした。15〜6歳で、大人になり切っていない体はちょっと太めだったかしら?そういえば古谷さんが『慶子ちゃん、慶子ちゃん』と非常にかわいがっていました。古谷さんはお
となしかったので、びっくりしたことを覚えています」(ひし美ゆり子:※2)


カオリとアマギが回転木馬に乗るシーンのBGMは「メトロン星人のテーマ」ことM51に、特殊なエコー処理を加えたもので、幻想的な画とのマッチングが印象的です。セブンの名場面のひとつです。尚、このシーンは、平成セブン「1999最終章6部作」第3話にオマージュされました。



遊園地に着いたポインター。
「あれは何だ?」(ソガ)
「こんな時間に回転木馬が動いている…」(ダン)
ひとりだけ乗っているアマギ。
「アマギ、しっかりしろ!」(ソガ)
昏睡しているアマギ。
「あっ!」(ダン)
逃げるカオリ。
「追跡しましょう」(ダン)
追う、ダンとソガ。そこにフルハシも合流。
「仕方がない。ショック・ガンを撃て」(フルハシ)
DAM!
カオリとアマギは基地に収容された。


メディカルセンター。
「とにかく衰弱がひどい。このままだと生命の保証もしかねます」(医師)
「宇宙細菌を殺す方法はありませんか?」(キリヤマ)
「今のところ…」(医師)
昏睡するカオリを見守る警備隊員。
アマギがやって来た。
「アマギ、大丈夫か?」(キリヤマ)
「大丈夫です」(アマギ)
カオリを思いやるアマギ。
「それより、彼女を治してやってください。ねぇ先生、お願いします」(アマギ)
「…」(キタムラ博士)
「輸血が必要なら、僕のをいくらでもあげます。…お願いします」(アマギ)
「…」(医師)
「…隊長!」(アマギ)
「…」(キリヤマ)
「ダン、ダン!」(アマギ)
←医者に治せないものをダンに頼むとは…
しかし、ダンはアマギの要望に応えようと手段を考える。
(たった一つだけ方法がある…。ミクロ化して体内に潜り込むことだ。だがこれは、非常に危険だ。人間の体とはいえども、広大な宇宙とは変わりはない。いわば未知の世界だ。何が起きるかわからない…)(ダン)
一旦は引き上げるダン…。しかし、すぐに引き返す。
(…よし、未知の世界に挑むぞ…)(ダン)
決心するダン。 ←頼んではみるものだ…。



未知の世界へのチャレンジを決意したセブンはミクロ化して、カオリの体内に突入します。この一連のシークエンスは、つながりに不自然のない、流れるような合成が秀逸です。
変身してミクロ化したセブンは、床のラインのような模様に沿ってダッシュしてから、飛び立つのですが、このときのライン上を走る実物セブンと背景との合成が、とてもキレイにはまっていて不自然さが感じられません。そして、飛び立ったセブンは、カオリの鼻腔から体内に侵入するのですが、この鼻アップは、美空ひばりの毛穴を撮ったという実相寺監督もビックリの鼻腔ドアップです。これは間違いなく、天下の美人女優:松坂慶子さんのお宝映像です。



カオリの体内で、ミクロセブンと宇宙細菌ダリーとの戦い。
未知の世界に苦しむセブンは、ようやく、ダリーを発見した。
しかし人間の体内なので、飛び道具の使えないセブンは素手で戦うしかないだろう…、こいつは苦戦だな…、と思っていたら、いきなりのエメリューム光線。 ←外れたら、どうすんだ!
決まり手:手からシャボン玉、ダリー溶ける。なんで…?



高名なSF映画「ミクロの決死圏」にヒントを得た作品です。
映画では体内の循環器系が舞台ですが、セブンでは呼吸器系が舞台となります。宇宙細菌ダリーは肺に巣くっているという設定なのです。すると人体内、それも呼吸器系をセット化しなければなりません。何回か触れてきましたが、美術総監督の成田亨氏は前回で降板していて、今回からは池谷克仙氏が代わって独り立ちしました。新人美術総監督です。そのうえに制作予算はあいかわらず逼迫しまくっています…。時間は予算以上にありません。そこで、身近で廉価な材料とアイデアが総動員されることとなるのです。ネット、レース、風船、シャボン玉、スモーク…etc。ありとあらゆる手法を講じて、体内世界を創り上げたのでした。


放送から10年後の78年、体内世界を気軽に体験できる施設が静岡県清水市にできました。東海大学人体科学博物館です。羽衣伝説で有名な青松白砂の三保の松原につくられた同館は、館内を人体に見立てられていました。入り口は口です。口から入り、食道、胃、心臓、肺、小腸…といった具合に、体の仕組みと各内臓の機能が学習できるユニークなものでした。出口は当然肛門です。しかも出口を通るとセンサーが感知して、BOO!という音のオマケもついていました。
残念ながら同館は2000年10月をもって閉館してしまいました。カオリの体内のような手作りの体内世界が実体験できるところは、もう無いのです。



全快したカオリと話すアマギ。
「あのう…お会いしましたわ。どこかで…?」(カオリ)
「さぁ…」(アマギ)
とぼけるアマギ。
「でも…」(カオリ)
腑に落ちないカオリ。
「…ごめんなさい」(カオリ)
正義の味方は、正体を明かさないものなのです。





ALIENS&MONSTERS



宇宙細菌:ダリー
身長:1o
体重:0.1g
出身:不明
特技:寄生した人間に麻酔息を吐かせる
特徴:シュール・リアリスト
弱点:所詮バイ菌なので、除菌石鹸で一発

ダリーの名は、かのシュールリアリズムの大家、サルヴァトーレ・ダリ氏が由来だそうです。そういえば、ダリーの牙が左右にモコモコっと動くシーン、ダリ氏の特徴的なあのヒゲを連想させなくもないような気もしますが、本作品のモデルとなった「ミクロの決死圏/FANTASTIC VOYAGE」(1966、20世紀フォックス)の体内セット・デザインをダリ氏が手がけたことへのオマージュだったのでした。





ACTOR&ACTRESS



大女優:松坂慶子さま。
当時は、劇団ひまわり所属の子役でした。まれに本作品がデビュー作との著述を見かけますが、子役時代なので他にも数多く出演されています。ちなみに、初レギュラーは「忍者ハットリくん+忍者怪獣ジッポウ」の富士野たかね役で、セブン出演の前年ことでした。それにしても出演時15歳だったのに、設定が女子大生とは。お友達とのギャップがありすぎましたね…。

大女優、松坂慶子さまの足跡。
代表的なテレビドラマ
 「忍者ハットリくん」レギュラー:富士野たかね
 「奥さまは18歳」
 「水中花」

代表的な映画
 「青春の門」(1982)
 「蒲田行進曲」(1983)
 「道頓堀川」(1984)
 「死の棘」(1990)

楽曲
 「愛の水中花」(1979、日本有線大賞受賞)
 ←どう聞いても、音のスッ外れた名曲…。

最近のCM
 「日清食品 ラーメン屋さん」
 「日本テレコム マイライン」
 ←大根振り回して、「お得よ!」と絶叫…。





LOCATION



遊園地
館山(お花畑)










                        





             「ウルトラセブン」ストーリー再録  第31話「悪魔の住む花」
              06/SEP/2001 初版発行  21/JAN/2002 第二版発行
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制作31話  脚本:上原正三  監督:鈴木俊継  特殊技術:的場 徹