近藤は、眠れぬ夜を過ごした。

『観覧車っつったらチューでしょ』

あっさり、きっぱりと言い切った総悟の声が、何度も耳にこだまする。

よくよく考えれば、大問題発言である。


「――で、何だってんだよ」

土方は、不機嫌な様子で煙草に手を伸ばした。

遊園地の騒動に巻き込まれ、仕事に忙殺された土方は、まだ、布団の中にいた。

部屋に飛び込んだ近藤を一瞥し、体の向きをだるそうに変えただけで、布団から出ようとはしない。


「総悟だよ」

「だから、総悟が何だよ」

近藤は、苦悩の表情を浮かべた。

目の下には、くっきりとクマが浮かんでいる。

「あいつ・・・、『観覧車は、チューするためにつくられた』って、そう言っただろ?」

「それがどうした?」

腹這いのまま、煙草に火を点けた土方は、紫煙を吐いた。

「それを、総悟に教えたのは誰だと思う?」

土方は、咥え煙草のまま、近藤を見上げた。

「誰も何も、それが観覧車ってモンだ」

「何だと?」

「箱ん中閉じこもって、他に何をするってんだよ」

明快な答えに、近藤は打ちのめされた。


「総悟も、そうなのか?」

見る間に涙目になった近藤に、土方は溜息を吐いた。

どうやら、『四の五の』考え始めたらしい。

「・・・あいつだって、ガキじゃねぇんだぜ?」

「何を言ってるんだ、トシ」

近藤は、鼻先が付く程に顔を寄せた。

「栗子ちゃんを小さい頃から知っているように、総悟の事は、もっと小さい頃から知っているんだっ」

「だから何だよ」

「俺は、総悟の父親のようなものだろっ!?」

「父親って・・・」

「総悟は、一体誰とそんな真似をっ!お父さんの知らない内に!!」

号泣する近藤に、土方は黙り込んだ。

まさか――、『お父さん、俺が教えました』とは、口が裂けても言えない。


土方は、重い口を開いた。

「あのな、近藤さん。観覧車の事は、誰に聞いてもそう答えるぜ」

「本当か?」

「ああ。試しに山崎にでも聞いてみろ」

「よし、わかった」

近藤は、すっくと立ち上がり、部屋を出て行った。

遠ざかる足音は、山崎を呼ぶ大声に掻き消された。


「・・・ったく」

土方は、煙草の火を消した。

布団を捲れば、土方の横に、話題の主が丸くなって眠っている。

突っついた位では起きそうもない様子に、小さく溜息を吐く。

「いつもの事だが、よく寝ていられるな・・・」

土方は、形の良い唇を、親指でなぞった。

突然、その指を、小さく開いた唇が咥えた。

「・・・寝込みを襲うなんざ、卑怯ですぜィ」

総悟は、ぱっちりと目を開けている。

「起きてるじゃねぇか」


「近藤さんの泣き声には、敏感なんでさァ」

総悟は、小さく欠伸をした。

「・・・泣かした張本人が言うな」

「それを言うなら、教えた張本人が、でしょ?」

総悟は、邪気のない笑顔を見せた。

「それに、ここで俺が顔を出したら、近藤さん、ショック死しちまいますぜ」

総悟は、土方の首に抱き付き、キスをする。


「今度は、二人っきりで遊園地に行きましょうや」

土方は、首に抱き付いたままの総悟を、押し倒した。

「誘いなら、今、受ける」

身動きの取れない総悟は、眉根を寄せた。

「・・・朝からこんな真似して、『お父さん』にチクリますぜ?」





『うっかり銀魂・3』
2005.8.25
本家八巻、第六十五訓より妄想致しました

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