「沖田君、またサボリですかぁ?」

アイマスク越しにも感じる夏の陽射しが、やる気の無い声と共に、ふいに翳った。

そのまま動かぬ気配に、総悟は、気だるくアイマスクを持ち上げた。

容赦なく射る陽に目を細め、太陽を背に、覆いかぶさるように覗く男を見上げた。

光を乱反射する銀の髪が、眩しい位に輝いている。


「・・・キレーな頭」

銀の髪の男は、小さく笑った。

「沖田君の髪のがキレイだよ。光に溶けるみたいで」

逆光で表情(かお)は見えないが、ひどく優しい声のトーンに、総悟は驚いた。

この男が、こんな声を出すとは知らなかった。

「・・・旦那こそ、今日も仕事が無いんですかィ?」

「んー。今日は、オフ」

総悟は、寝転がっていた駄菓子屋のベンチから、ゆっくりと身を起こした。

陽射しにも、重力にも負けそうな体を心裡で叱咤し、背もたれに深く沈み込む。


「オフってのは、仕事のある人間が使う言葉ですぜィ。・・・それに、仕事なら、ちゃんとしてまさァ」

銀時は、笑った。

「どこら辺が?」

「市中見廻中ですぜ」

「俺には、昼寝してるようにしか見えねーけど?」

「心の目を開けているんでさァ」

総悟は、薄く笑った。


隣に腰を下ろした銀時は、前を向いたままポツリと呟く。

「・・・俺の事、好きになってくれないかな」

唐突な言葉に、総悟は視線を向けた。

「何、変態じみた事言ってるんですかィ」

「変態って・・・、じゃあ土方君も変態な訳だ」

総悟の長い睫毛が、ピクリと動いた。

微かな動揺を目の端に捉えながら、銀時は、淡々と続ける。

「・・・土方君とは、不本意ながらも、ちょっと似ているからね。好きになる子も同じみたいだ」


総悟は、笑った。

「あの人は、ただのマヨラーですぜ」

「マヨネーズより、沖田君でしょ?」

「・・・あの人は、崖っぷちに俺とマヨネーズがぶら下がっていたら、迷わずマヨネーズから助けますぜ」

ありえないシチュエーションに、銀時は、前を向いたまま笑った。

「マヨネーズから・・・、って事は、沖田君も助けちゃうんだ。愛されてるねー」


総悟は、隣の男を見つめた。

「・・・何で、俺なんですかィ?」

「好きになるのに、理由は要らないでしょ?それに、俺の事を好きになってウチに来れば、真選組の仕事より、体は全然楽になると思うけど?」

「・・・体?」

「実は、あんまり丈夫じゃないかな、と思って」

総悟は、口元を歪めた。

「豚を牛と偽るような食生活で、楽が出来るとも思えませんや」

「ちょっ待っ、何で知ってるの?」

総悟は、にやりと笑う。

「ウチの監察は優秀なんでね」

銀時は、ガリガリと頭を掻いた。

「俺のトコなんか調べて、どーすんの?」

「個人的に、興味があったもんでねィ」

「・・・俺に?」

「旦那の腕に、ですよ」

「腕かよ」と、銀時は苦笑した。



「――総悟」

往来に立っていたのは、不機嫌そうな黒髪の男。

「アララ。お迎えが来たよーだから、帰るわ」

立ち上った銀時は、手をヒラヒラさせ、背を向けた。

「沖田君、また口説くからさ。・・・そのうち、俺にも興味を持ってよ」

「考えときまさァ」

よく似た男二人は、強い陽射しの下、視線も合わせずすれ違う。

「万事屋と、何の話だ?」

「さあ」

総悟は、正面に立った土方を見上げた。

漆黒の髪が、夏の陽を強く弾く。


「・・・もし、近藤さんとアンタが崖っぷちにぶら下がっていたら、俺は近藤さんだけ助けますぜィ」

煙草を咥えた男は笑う。

「蹴落とさねぇだけ上等だ。てか、俺も近藤さんも、てめえで何とかするさ」

土方は、総悟の細腕を引き上げた。

その勢いに付いて行けず、引かれるまま、土方の胸へ抱き止められる。

「馬鹿野郎が。どうせ寝るなら、屯所で寝ろ」

(くら)んだ視界が戻るまで、頭を預けたまま、総悟は固く目を瞑った。

力強い鼓動が響く。

「・・・マヨネーズより先に助けてやるから、俺の傍にいろ」

いつもの不機嫌な声が、総悟の耳に甘く聞えた。





『うっかり銀魂・4』
2006.8.23

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