「土方さーん」副長室を覗いた総悟は、身支度を整えた土方に、部屋へ入ろうとした足を止めた。
「何か用か?」
「・・・出掛けるんですかィ?」
「松平のとっつァんに呼ばれた。お偉いさんの接待だとよ」
「近藤さんは?」
「一緒だ」
「・・・俺は?」
土方は、刀を佩びながら顔を顰めた。
「未成年のガキを、連れて行ける訳ねぇだろ?」
酒呑み放題の環境に暮らしてはいるが、公然と呑ませるのは、流石に不味い。
「とっつァんなら、許してくれると思いますがね」
「世間と俺と近藤さんが、許さねぇよ」
総悟は、部屋の入り口に突っ立ったまま、少し俯いた。「・・・ここで、土方さんの帰りを待っていても、いいですかィ?」
「待つっても、戻りは遅いぞ」
「いいですよ。明日はオフだし、待ってます」
いつになく、健気な事を言う恋人に、土方は目を細めた。
「どうした。珍しいじゃねぇか」
「俺だって、土方さんが欲しい時があります」
土方は、世にも珍しいものを見た様な顔をした。
「・・・総悟。お前、熱でもあんのか?」
「俺が、土方さんを欲しいのは、おかしいですかィ?」
悩殺ものの台詞をサラリと告げ、切羽詰ったような色を混じらせた淡い瞳が、じっと土方を見上げた。
普通なら、ここでコロリと落ちてしまう所だが、相手はこの総悟である。
「テメー、何を企んでやがる?」「ひでえや、土方さん。俺の事、そんな風に見ていたんですかィ」
総悟は、崩れるように座り込んだ。
「どんなに土方さんに悪態つこうが、命狙おうが、俺の本当の気持ちは、分かってくれてると思ってやした」
肩を震わせる総悟から、小さな泣き声が漏れた。
「おい・・・、総悟?」
「土方さんを想う気持ちを、企みだなんて・・・」
土方は、片膝をつくと、涙で潤む顔を覗き込んだ。
「・・・悪かった」
「俺は・・・、土方さんのモノですかィ?」
「ああ」
「土方さんは?」
「俺も、お前のモノだよ」
頬に、そっとキスをすると、総悟は、甘えるように抱き付いた。
「土方さんっ」
(近藤さんを置き去りにしてでも、今夜は早く帰ろう)などと、恋人を美味しく頂く算段をしていると――
「じゃあ・・・」
「うん?」
「土方さんのモノは、俺のモノって事で」
「あ?」
総悟は、すっくと立ち上がった。涙は、しっかり乾いている。
「明日朝イチで、土方さん宛に大量に届く荷物は、俺が貰ってもいいですね?」「荷物?」
「てか、一日前の今日も、結構届いてますぜ」
総悟は、ポケットから小さな箱を取り出して土方に見せた。
綺麗にラッピングされ、可愛いリボンが掛けられている。
「何だ、それ」
「バレンタインチョコ」
一瞬、総悟がくれるのかと、心躍らせた土方の目の前で、箱を開け、中のチョコを食べ始める。
「総悟君?」
「安心して下せえ。土方さんのモノは俺のモノ。責任持って全部喰いやすから」
よく見れば、廊下に、甘い匂いのする段ボール箱が積んである。
土方は、溜息を吐いた。「お前だって、チョコなら沢山貰うだろ?」
「山崎や原田。ヤローばっかりで、テンション下がりまさァ」
「それでも喰うんだろ?」
「そりゃ、チョコはチョコですからね。食堂のおばちゃん達もくれるってんで、ホットチョコをリクしときやした」
聞いただけで胸焼けがすると、土方は、げんなりした。
「おめーは、俺にチョコくれねえのか?」総悟は、指先をペロリと舐めた。
「どーせ、チョコ喰った俺を喰うつもりなんでしょ?二度手間はゴメンでさァ」
「その二度手間こそが、イベントの醍醐味だろーが・・・」
ブツブツ文句を言う背を送り、総悟は、赤いリボンを掛けたマヨネーズを、ドンと机の上に置いた。
「・・・こっちの方が、胸焼けすると思いますがね」
了
『うっかり銀魂・5』
2007.2.14
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