1 初めての外国
初めて訪れた国がどこかっていうことは案外、後々まで影響すると思うよ。それは
最初に会う「旅のお師匠様」のタイプによって、その後の旅のスタイルが決まっちまう
ようなものさ。「酒が飲めない、女も買えない、夜遊びもできない」、ナイナイ尽くしのこの国じゃ、
勢い旅人は少なからず求道派に染まっちまうみたいだ。もっともオイラのお師匠さんは
「この国のイスラムは堕落している!」
って憤慨してたな。さすがにアフガニスタンへ行った人はバリバリだぜ。
だけど、オイラにとってこの国は「アジアへの門」なんだ。嫌いになるわけにはいかないのさ。
2 国境の人々
国境てのは面白いね。いい意味でも悪い意味でも、その国の国柄ってのが滲み出てくる所さ。
ちょっと強烈なパンチを食らったりしてイヤになることもあるけど、国境てのは隣国とくっついてる
ところだから、人間が多少はシビアで殺伐としてくるのはしょうがないさ。でもそこを超えれば
いい人たちに必ず会える。またそうでないと旅なんてやってられないさ。厳しさと優しさが
織り交じってこそ旅にも味わいが出てくる、そう思ってまた国境へ向かうしかないんだよな。
でもシビアな国境もたまにだったらいい土産話にもなるし、歓迎してやってもいいぜ。
3 罪なウワサ
変なウワサのおかげで、道で男に会うたびにビクッとくるのは妙な感じだ。
実際にはいい人たちが多くて、ウワサを気にしてた自分が馬鹿らしくなるんだけど、
それはこの国にしても同じ。根拠のないイメージだけが先行しちまって、
それで損してる人や国がこの世にどれだけ多いことか。
それを思うと、世にあふれてるイメージや定評とかにはかなりのチェックが必要だと思うよ。
4 彼岸からの問いかけ
あの世に旅立った人に対しては、どんな言い訳ももう届きません。それは、弁明する者にとっての
主観的な意味合いをかすかに残すにすぎません。生きている犬には言葉は通じませんが、労わり
や親愛の情は届きます。このように生物種の違いを越えて通じるものも、この世には確かに存在します。
しかしそれさえも、死者に対して現実的な意味を持つことは決してないのです。
死とは、私たちが考えている以上に険しい分水嶺なのかもしれません。