6 遺跡の番人
喫茶店でコーヒー飲むのもいいけど、それも相手によりけりだな。
一人なら、オイラは缶コーヒーをぐびぐび飲んでた方が気が楽でいいよ。
でも、遺跡を見下ろすこんな丘の上にいたなら、もうコーヒーなんてどうでもいいさ。
景色こそが最高の嗜好品になる時だってあるのさ。旅人はそんな第一級の景色に出会える
最高の条件を得やすい立場にいることだけは確かだな。
この遺跡の入場料? 10円だよ。そう、たったの10円なんだよ。
この世の中もまだまだ捨てたもんじゃないよ。こんな大そうなぜいたくがチョコンと転がってるんだからな。
喫茶店のコーヒーもいいけど、こんなぜいたくもたまにはいいんじゃないかい?
7 インダス川の彼方
この写真は、各駅停車の列車がインダス川の鉄橋にさしかかった時にパシッと撮ったものさ。
川岸に近いとこに駅があるから、列車はゆっくりゆっくりと走ってくれて、おかげでゆっくりと
インダス川を眺めることができたよ。もっとも、この川の上を船で行けたら、なんて思うけど、
それではちょっと遅すぎて、あくびが出ちゃうかもな。鈍行列車位がオイラにはちょうどいいよ。
この川の向こう側が北西辺境州さ。今何かと話題のアフガニスタンに接してる州で、
パシュトウーン人が多く住んでる所だよ。戦争さえなければ、ホントにいいとこなんだろうなあ。
8 金融バザール
お金でお金を買うことなんて、旅人なら誰でもやってることさ。それは両替だよ。
でもペシャワールのバザールに陣取る両替商のガラスケースの中を覗いてみた時にゃあ、
ちょっとしたカルチャーショックもんだった。これは両替じゃない、お金を売ってるんだ。そう思っちゃったよ。
だって、パキスタンと関係のなさそうな国の紙幣がズラリと並んでたからさ。おっと、それはオイラが
勝手に決めつけてることで、案外パキスタン人ってのはいろんな国の人と商売してるのかもしれないな。
でも世界中の国と貿易してる日本の街中には、こんなにいろんな国の紙幣が見れる場所なんて見当たらないんだよな。
どうせ、みんな為替や電子マネーで売買してるんだ。味気ない話さ。
日本は生の形での国際化が見れない国だと前々から思っていたが、これなどその実例の一つだろうね。
9 デジャーブーの地
遺跡の裏山に登ってみたら、遺跡の反対側にはガンダーラの大平野が広がってたんだ。
木なんか黄色く黄葉してて、畑もきっちり区画整理されてて、それはそれはきれいだった。
ボーと見ているうちに、この風景を一度もう見てるような気がしてきたんだ。何か見たり、したり、
思ったりした時に、これは前にもそうであって、今二度目の体験をしてるんだ、という気になる。
確かな根拠はないんだけど、なぜだかそう思う。いや、感じるんだ。オイラにはそんな時がよくある。
だから、前世なんかちょっとだけ信じてたりする。「人間は生きているというその事実だけで、すでに宗教的存在なのだ。」
と誰か偉い人が言ってたが、それはこういうことなのかな、なんて思ってしまう。
今度デジャーブーするのはいつなんだろう。それはオイラにも分からない。神のみぞ知る、か・・・。