第2部第3章7〜12の写真


7 簡素なグルメ



オイラのイスラマバードでの昼飯はいつも、このオヤジが焼いてくれるトウモロコシだったよ。
日本の露店のとは違って、オヤジはトウモロコシを熱く熱した砂の中に入れて炒るんだ。
こうすると、水気が飛んで香ばしさが増すのさ。かなり硬いけど、本当に食ってるっていう実感があるよ。
トウモロコシは1本3ルピー、約8円だ。
オイラは食材がもとの姿に近ければ近いほど、食欲がそそられるんだ。だから、素材の旨みを生かす日本料理は結構、好きだよ。
ていっても、手の込んだのは苦手だ。その点、魚のお造りなんていいよな。結局、素朴な力強さに魅了されてるのかもしれない。
そういう意味では、パキスタンでの食事にあまり不満はなかったな。
要は気に入った料理が一つでもあれば、それだけ食べてれば不満はないんだ。
気に入った料理が一つもない国は、今までに一国としてなかった。その点、オイラは幸せ者なのかもしれないね。



8 旅ガラスの集会



人旅って言ったって、いつも一人でいるわけじゃない。同じような一人旅の人間がいて、それとつるむことだってあるよ。
また飯を食いに行くと、店の人たちが友人のように話しかけてくれることだってあるしね。
だから、旅人はそうそう孤独には陥らないものさ。
オイラは客観的な孤独はそんなにこたえないけど、主観的な孤独にはちょっと弱いね。
主観的な孤独ってのは、例えば友人の輪の中にあって、自分が受け入れられていないような気がして寂しくなったりする時のアレだよ。
それにくらべりゃ、異邦の地に一人でいる時の方が気が楽だと思うよ。
ものごとのほとんどはそうした心理面での相対性の問題であって、絶対的な尺度はこの世にはないんじゃないかな。
旅ガラスの集会は楽しいよ。みんな一人一人、背負ってるものが違うからね。
異質な者が集まって共鳴する中に、いつもオイラは豊かさを見るのさ。



9 女と酒



オイラは酒は好きだよ。でも、それがなくちゃ生きていけない、ってほどでもない。だから別に飲めなくても平気だ。
オイラは女の人は好きだよ。こっちはそれがなくちゃちょっと苦しいかもしれないが、
もしそうなっても、それはそれで生きていける気もする。
いわゆる享楽っていうやつは入り口は広いけど、奥に行くほど狭くなって、最後にはどん詰まり、って感じがする。
それに比べると、ちょっと頑張らなくちゃならないものはその逆かな。
入り口は狭くて取っ付きにくいが、我慢して続けているとだんだん楽しくなってきて、徐々に世界が広がってくる。
末広がりの世界だな。奥の深い世界っていうのは、みんなそんな感じじゃないのかな。
だから、オイラはイスラーム諸国を旅するのに特別な苦労はほとんどなかった。制約自体を楽しんでるからね。
非日常体験こそが海外旅行の楽しみの一つであると思うなら、イスラーム諸国はかなりオススメな地域だね。




10 強いられた前科

意図しないものであっても、食い逃げは軽犯罪には違いなかろう。
誰が好き好んで、自分のそんな姿を人に見せたがろうか。てなわけで、今回は写真は掲載しないよ。
でも、今でも分からないよ。どうして、あの店はオイラの支払いを受け取らなかったんだろう?
本当にもうもらっていると勘違いしていたんだろうか。もしかしたら、喜捨のつもりっだったりして。
本当に、パキスタンでは食費が浮くことが多かった。旅人と貧者には優しい国だよ、パキスタンは。




11 イラン同伴計画



これは、パキスタンの普通列車の車内だよ。
左側の席に横4人、右側に1人が座れる。4人席の上には棚があって、ここにも1人が寝っ転がっていける。
クッションは全くない。板張りだよ。だから客観的に言ったら、快適さはほとんどない。
でも、オイラはこういうのを見るとワクワクしちまう。体力は使うけど、精神的には新幹線の普通車に
乗ってるよりも気が楽だ。この場合の「楽」には、「安楽」に加えて「楽しみ」という要素が入ってるんだよね。
オイラは単なる「安楽」は年寄りの時に取っといて、今は「楽しみ」の方を取るね。
身体的に楽でなくなればなくなるほど、この精神的な「楽」は大きくなるのさ。
日本では大人も子供もみんなが身体的な楽はさせてもらえるが、精神的な「楽」の方はどうなんだろう?
オイラはこの列車に乗りながら、そんなことを考えちまったよ。




12 夜の旅立ち



これがスズキだ。全てのスズキがこうも派手なわけじゃない。コイツは特別に派手だったんだ。
ヘッドライトにまつ毛までついてんだぜ。青い目とあいまって、妙に色っぽかった。
これに比べると、日本のタクシーは無愛想だな。いや、これと比べるのは間違ってるな。
この後色んな国に行ったけど、ここまで飾られた乗り合いタクシーには出会わなかったもんな。
やっぱり、この国のセンスはズバ抜けてるよ。天井知らずの能天気さというか、とにかく明るいんだ。
100ワット電球のような直截なこの明るさに、オイラは一人旅の旅愁をずいぶん慰められたよ。
アンタもスズキに会いに、この国に行ってみないか? 親日的なこの国は、両手を広げてアンタを受け入れてくれるだろうよ。