第2部第6章6〜11の写真


6 ささやかな幸せ



この部屋は最初一人一泊15ドルでしたが、私たちは交渉の末、一人一泊4ドルにまで値切りました。
交渉には長い時間がかかりましたが、それだけの価値のある部屋だと思い、交渉の手をゆるめることはありませんでした。
この部屋にはバスタブが付いており、そこに湯を張って、4ヶ月ぶりに「温泉」気分を味わいました。
まあ、ちっぽけな幸せかもしれませんが、初めから与えられたものでなく、自分で条件闘争して勝ち取ったものだけに、
そのありがたみは大きなものに感じられました。
人間にはちょっとした欲も必要なのかもしれない。
そんなことを思ったりしました。




7 宗教の自己分裂



イランでは女性の写真を撮るのは難しいそうですが、私は幸い撮影することができました。
みんな上から下まで黒づくめのチャドルに身を包んでいるのかと思いきや、この人は肩までしかかけていませんでした。
まあ、撮影に応じたくらいだからさばけた人なんだろうけど、その彼女にしてさえ、サングラスをかけて眉間にしわを寄せ、
深刻な顔つきになっているところを見ると、結構この国では勇気のいる行為だったのかもしれません。
この国の現実は、私たちが思っているよりも重いものとなって国民一人一人の肩の上にのしかかっているのでしょう。
宗教は一概に否定すべきではありませんが、ここまで堅苦しいのもちょっと、などと考えるのは不敬なことなのでしょうか?




8 海辺への南下



ペルシア湾岸の街に朝早くに着きました。
人影少ない街中で野犬の群れに出会い、難を避けるために車を止めました。
救助を求めると、その人は私の顔に往復ビンタをかましました。
でもその時は野犬から逃れることで必死だったので、痛みとか感じる余裕もなかったですけど。
ひたすらわめき続ける私を見て、きっと、私に何か悪いものでもとりついている、とでも思ったんでしょうね。
でも事情が分かると、その人は親切にも車から降りて、野犬を追っ払ってくれました。
前日には写真のようにけっこうなご馳走を平らげていい気分だったのですが、「一寸先は闇」とはまさにこのことです。
夜行バスの中にチトラールハットは忘れてしまうし・・・。
え? チトラールハットって何かって? 
アフガニスタンの北部同盟の人たちがかぶっている帽子によく似た帽子です、私のお気に入りでした。
旅は山あり谷あり。
とはいえあの帽子、今、日本でかぶったらさぞや目立つだろうなあ、などと考えるとかなり悔しいです。グスン・・・(泣)。




9 直感がくれた宝

説教されてる姿なんてカッコ悪いから、今日の写真掲載は勘弁してください。
説教って言っても、別に怒られたわけじゃないです。
ただ、日本人のだらしなさみたいなものについてちょっと苦言を呈されたというか、ハッパをかけられたようなもんですね。
今に日本はアメリカの子分みたいになってしまう、という心配を彼はするわけです。
イランを苦しめた欧米列強を相手に日本はドンパチやったわけですし、日本軍はここまではやって来なかったから、
イラン人の対日感情はかなりいいみたいですね。
国営船会社の二等航海士で同い年でしたけど、この人は信用できると思った直感に従って正解だったようです。
穏やかで、優しい人でした。そんな人だから、説教も素直に聞けたのだと思います。
外国で人に出会った時、自分の直感を信じてみてください。
ただし、その結果については自分で責任を持つことを忘れずに。




10 酔えないビール



一般に、イスラーム教国では酒が飲めません。でも、それでは一般市民の不満もたまります。
そこで、イランではノンアルコール・ビールなるものが売られています。
味の方は批評しがたいものです。あまり味がしない、とでも言えばいいのでしょうか。
だから全然酔えません。何か気持ち悪くもなってきます。とにかく妙な気分でした。
あれなら、いっそ一切酒を飲まない方がまだましだと思うのですが。
ペルシア湾の広々とした光景に酔っていた方がずっといいです。
私は酒を飲まずとも何ら不満はないですが、酒が好きな人にはやっぱり酒が飲めないということはこたえるんでしょうね。




11 領収書の力

私はイラン出国の際、所持金を国境検査官に没収されかけました。
さすがに、その時の写真はありません。今回も写真掲載はご勘弁ください。
なんで没収されるのかというと、イラン入国の際には持ち込む外貨の総額をチェックし、
その額をパスポート上に記録するのが建前となっているからです。
しかしこのルールは空港でのみ守られているらしく、陸路出入国においてはノーチェックのようです。
さて陸路出入国、空路出入国さまざまな組み合わせがありますが、私の場合はどの組み合わせになるか分かりますか?
所持金が没収の対象になるのは一つの組み合わせしか考えられませんから、答えは簡単ですね。
分からない人は現在製作中の旅行記「ユーラシアの雲2 イスラームのざわめき」をぜひご覧ください。
本の発売開始のお知らせはこのページ上でも行いますので、どうぞお見逃しなく。