第3部第1章1〜6のバックナンバー


1 旅の序章



私はアジアを旅する時はドルを、東ヨーロッパを旅する時はドルとドイツ・マルクを用意していきました。
私が会ったその人は、ドルの他にイギリス・ポンド、フランス・フラン、ドイツ・マルクなど西側先進国の主要通貨を軒並み持っていました。
今だと西欧通貨は(イギリス・ポンドなど少数の例外を残して)みんなユーロになってしまいましたから、
きっとドルとユーロを併用するんでしょうね。
西欧通貨がユーロに一本化されたことで便利になると同時に、数多くの通貨の中からどれを両替するか選ぶ手間がなくなってしまって、
あの人もちょっと面白みがなくなっちゃって、ションボリしてるかもしれません。
上の写真は上1枚がエジプト・ポンドで、下の二枚がイラン・リアルです。
エジプト・ポンドはまだしも、イラン・リアルは同じイスラム圏諸国でもほとんど両替できませんでした。
このように国から一歩外へ出ると価値がほとんどなくなってしまう通貨もあれば、ドルのように世界のどこでも使える通貨もある。
「人類皆兄弟」というノー天気なお題目が空しく聞こえてくるほどに、
この世界があらゆる格差に満ち溢れていることは残念ながら事実なのです。



2 ニセモノ対決

この世界には、ニセモノがあふれています。
旅行者の間で最もポピュラーなのは、学生証です。
タイ・バンコクのカオサンロードが入手場所としては有名ですが、ここエジプト・カイロでもニセ学生証は手に入ります。
エジプトのモノの方が格段に質がよく、本物そっくりなので、あれこれとあらぬ憶測まで飛び交うほどです。
ここでは青年証も入手できるので、両方取得しようという欲張りな人もいないわけではありません。
けれども二つの申告書に書き込む年齢に食い違いがあったりしたら、もめごとになりかねません。
ニセモノを売る商人とそれを求める人、どっちもどっちという感じがしないでもありません。
今回は極めてアンダーグラウンドな話題なので、写真掲載は控えさせていただきます。



3 ピラミッドをめぐる情景



私がエジプトへ行った当時、ピラミッド登頂という行為が流行っていました。
ピラミッドに登るのは違法行為でしたので、夜中にこっそりと登り、朝下りてきたところで罰金を払って済ませるそうです。
しかしその罰金は大した額でもないし、罰はそれだけでしたから、たくさんの人たちがピラミッド登頂に参加していました。
私はと言えば、結局登りませんでした。
登頂グループに入りそびれ、一人で登る気にもなれなかったためですが、
やはり「人のお墓に足をかけて登る」ということに抵抗感があったことは否めません。
ピラミッドはただの巨大なオブジェクトではなく、古代エジプト王の墳墓であり、またエジプトの貴重な文化遺産でもあります。
そのようなものに足をかけていいものかどうか、私は迷ってしまったのです。
ピラミッドには、写真のように多くの地元のエジプト人も見物にやってきます。
ピラミッドに登る是非は彼らの意見を聞いてから決めてもいいのではないか? というのが今の私の意見です。
観光にもそれなりの節度は必要だ、と私は思います。



4 ピラミッドより大きいもの



一人の人のお墓になぜこれだけのことをしなくてはいけないのか、とは思いますが、
古代エジプトの王は人間ではなくむしろ神に近い存在だったようですから、こういうことも許されたのでしょうか。
日本の古代天皇家の巨大古墳なんかもそうですが、
自らの権力の大きさを可視化させるこうした行為には私はあまり好意を持てません。
むしろ、そのものの大きさよりも、それを見て自分なりに解釈する人間の心理作用の方がより価値があるように私には思えます。
もっとも、このピラミッドのおかげでエジプトが莫大な観光収入を得ていることを思えば、
どんなものでも何がしかの役には立つものだとは思いますが・・・・。


5 生まれながらの不条理



日本国籍を持っている人は日本のパスポートを持っているわけで、
その意味では海外旅行をする場合には間違いなく得でしょう。
こんなにビザ免除規定が適用される国は少ないでしょうから。
もっとも、ヨーロッパ諸国の人などは日本よりももっと楽に旅行できるようですが、
それでも一般の発展途上国の人たちに比べれば雲泥の差であることは間違いありません。
またパキスタンの場合、日本人は必要書類に署名するだけでパキスタン・ビザをタダで入手できますが、
パキスタン人が日本へ来る場合には日本での身元保証人が必要だったりと何かと制約が多そうで大変なようです。
日本の国籍はなかなか入手しにくく、そんなことから日本のパスポートは闇市場ではかなりの高値で売買されていると聞きます。
日本国籍はそれほどに世界においては貴重なものなのだということが、外国にいるとよく分かります。
ちなみに上の写真の右側の人は韓国人で、残りの二人は日本人です。
韓国も活発に各国と外交関係を結んでいて、そのため韓国人の旅行条件もかなりいいようです。
アジアにおいてはこの二国の国民が国籍において旅をするうえで有利な位置に立っていると言えるようですね。



6 安宿、このディープな世界



上の写真の部屋は、三人部屋です。
三人でシェアして、一人当たり330円ってところでしょうか。
トイレとホット・シャワーは別室だけど、そんなに不便には思わなかったです。
数日後に同宿者が出て行って一人になったけど、宿賃が3倍になるわけでもなく、
交渉の末に420円あたりに落ち着くところがこうした安宿の面白いところですね。
かといって、同じ条件を期待して後から来た人を違う値段で泊めちゃったりもします。
それはその時の主人の気分によったり、泊まる旅人の交渉能力によったりするわけで、
まあ早い話が「定価がない」と思えばいいんですね。
こんな宿がすべてではないけど、まだこうした人間臭い宿もあったりして、けっこうこれが楽しいわけです。
それに部屋には何にもないから外の談話室へ行くと、そこでおもしろい同宿者に会ったりして、そこでまた話の花が咲く。
たまに写真のように破目はずしてる人もいたりして、けっこう安宿って安いだけじゃなくて、
そうした人間臭い魅力を求めて泊まってる人が多いみたいです。
ちなみに、この写真は自室でのものです。
さすがに、談話室ではこんな人はまだ見かけたことがありません。