第3部第4章11〜14の写真とコメント


11 弱点からの価値創造



写真は、死海の近くにあるマサダの丘の上に残る冬の宮殿の遺跡です。
ここで古代ユダヤ人たちはローマ帝国に対して最後の組織的な反抗を試みました。
そして最後には900人を越える自決者を出し、その後彼らは世界中へ散って流浪の生活に入りました。
20世紀にイスラエルが成立するまで、ユダヤ人たちに自分たちの国はありませんでした。
国からの保護を受けられない彼らは住み着いた土地で様々な迫害を受けましたが、
そのことが逆に、どんな政治的強権でもってしても奪うことのできない財産を彼らに授けました。
その財産は生きている限りその人とともにあり、どこの土地に住もうともすぐに活用できるものでした。
逆境に耐えた彼らはその逆境を苗代にして、新しい価値を作り出すことに成功したのです。
こうしたユダヤ人たちの努力は、パレスチナ問題とは切り離して考えるべき慎重さをもって受け止められなければなりません。
それは世界中の尊敬を受けるに値する彼らの歴史的偉業であり、弱い立場に立つ人たちの希望の源泉でもあるのです。
それだけに、そのユダヤ人たちが行っているパレスチナ人たちに対する強圧的な振る舞いは、
彼ら自身の祖先たちが営々と築いてきたこの歴史的偉業に対する冒涜といってもいいでしょう。
ユダヤ人たちが彼らの祖先の営為に思いをはせ、
その自らの民族的尊厳を傷つける現在の行為の過ちを一刻も早く悟るよう、願ってやみません。


12 内的価値と寛容性の結合



死海の水は普通の海の塩分濃度の10倍の濃度を持っているので、とても浮力が強く働くそうです。
ですから、人間がプカプカと簡単に浮いてしまうそうです。
ところがうつぶせになるとお尻が浮く分、顔が水面近くまで下がってしまい、背中を反らさないと顔が水面下に入ってしまいます。
しかしここの水の塩分濃度はハンパなものではありませんから、眼に水でも入ると大変なことになります。
それに、ずっと背中を反っているのも苦しいですしね。
そういうわけで、みんなお腹を上にしてラッコのようなカッコになるわけです。
この死海の底から取れる泥にはミネラル分が豊富に含まれており、これを使ったエステが観光客の人気を呼んでいるとか。
ここに限らず、中東は歴史の古い地域でもあり、観光資源には事欠きません。
ですからこの地域に平和が訪れれば、第一級の観光地となることは確実です。
それだけに、今の中東のきな臭い現状を見るにつけたいへん残念な気持ちになってしまうのは決して私だけではないと思います。
一度でもこの地域を訪れたことのある人なら、きっとそう思うのではないでしょうか。


13 エルサレムな日々

シリアとトルコ、それにイラクの国境線が一点で交わる所があります。
そこに、アイン・ディワールという小さな村があります。
シリア領に住むクルド人たちの村です。
三方をディジレ川に囲まれた丘の上にできた村です。
ディジレ川は、チグリス川の上流河川です。
ですのでこの流れはチグリス川となってイラクの首都バクダッドを貫き、
メソポタミア平原を貫流して、ペルシア湾へと注ぎ込むのです。
この村の存在に気づかされたのは、エルサレムで会った青年からでした。
当初は全く行くつもりはなかったのですが、急遽行くことに決めました。
「思い立ったが吉日」が自由旅行の鉄則なのです。
旅人同士の横の連携はこのように時には思わぬ収穫をもたらしてくれるので、あだやおろそかにはできないのです。


14 聖都の静寂



写真は、ワジ・ケルトという渓谷(エリコからエルサレムに向かって続いている)の断崖の中腹にあるキリスト教寺院です。
ここでは今でも修道僧たちがこもって、祈りを中心とした修行生活を続けているそうです。
僧の一人一人が直接に神と向き合い、精神的対話を重ねているのでしょう。
エルサレムという街は、大人数で出かけて賑やかに見て廻るにはあまりに聖なる空間が多すぎるような気がします。
こうした聖地を訪ねるには一人である方が望ましいのでは、と私などは思います。
長い歴史に包まれ、豊かな信仰に支えられたこの街は、一人旅の孤独な心を放ってはおきません。
ここには深い精神的なメッセージが満ち溢れているのです。
そうした地球上でもまれなほどに高い密度で充満する文明的なメッセージに誠実に向き合おうとすれば、
人は孤独な夜の中に身を置く方がいいようにも思えるのです。
しかしこの街のメッセージはあまりにも強く、またその量も膨大なので、一概にそうとも言いきれません。
事実、私はドミトリーの中でこの街の夜を過ごしていましたし。
だから厳しい夜の孤独とまではいかなくとも、せめて昼の間のしばしの時間を一人で過ごし、
この街とサシで向き合ってみてはいかがでしょうか。
この街がそれだけの度量を持っていることは、多くの旅人の認めるところでしょう。