第3部第6章7〜11の写真とコメント


7 雪のダマスカス



ある日、朝起きて外を見ると、地面に雪が積もっていました。
アラブの地、と言えば、砂漠しか頭になかった私には新鮮な感じのする光景でした。
写真はヨルダン北西部アジュルン付近の風景ですが、
このヨーロッパに近い「岩のアラビア」と呼ばれるシリア、ヨルダン地域には砂漠の他にもこうした緑ある風景があり、
地中海性気候に属する地域もあって、そこでは冬に雨が多く、緑も豊かなのだそうです。
アラビアは砂漠一色の単調な地域ではなく、きわめて多彩な風景を持った豊かな土地でもあるのです。


8 ホテルでの人間模様



安い宿でみんなとワイワイ騒いでいると、部屋の良し悪しなんてことはあまり気にならなくなるもんです。
一人で泊まっている時でも私の場合、複数の人と部屋をシェアするドミトリーに主に泊まっているので、
結局、一人で旅していても、宿に帰れば同宿者がいるわけです。
宿の条件と言えば、普通、室内設備の豪華さなどで語られることが多いのですが、
それとは違った宿の条件を計る尺度がこうした安宿にはあるのです。
それはお金や物質的豪華さとは無縁の、様々な人間が集うことで生まれる楽しさ、豊かさのようなものなのです。


9 遺跡の幻影



写真は、パルミラ遺跡の円形劇場です。
演壇も半円形の観客席も、ほぼ当時の姿のままの完全な姿で残っています。
こうして観客席に腰を下ろしていると、今にも演壇の奥から役者たちが飛び出してきそうな気さえします。
そうした楽しい幻影が、遺跡の中の至る所に転がっています。
遺跡は、人々の想像力を自由に遊ばせる大きな公園のようなものなのかもしれません。


10 パルミラの羊飼い



パルミラ遺跡の中で、ベドウィンの少年が羊の番をしていました。
私たちは一緒に石の上に腰を下ろして、羊に囲まれつつ、遺跡の向こうに落ちていく夕日を見ていました。
彼は、この世界的な遺跡を日常のものとして生きていました。
そんな彼と並んで夕日を見れたことが、ここに来た一番の収穫のように思えました。


11 意図せざる贈り物



観光地は旅人にとって非日常の世界ですが、
落ち着いて見回してみると、その脇にはそこで生活している地元の人々の姿があります。
それとは一見無縁なような遺跡でさえ、その例外ではありません。
その遺跡によって生計を立てている人たちもいるのです。
そういう人たちの姿を忘れないでいることができれば、それは観光する者に対して、
ある倫理的な恩恵と共に、より豊かな世界への入口を用意することになるでしょう。
この見方は「豊かな旅」というものに対する私の見解ですが、押し付けるつもりはありません。
みなさんがそれぞれの立場から自分にとっての「豊かな旅」を築いていけばそれでいいのだと思います。