どこから来たの?
この子が私に尋ねたわけではありません。
まあ、尋ねられても、ルーマニア語ですから、分かりはしないのですが・・・。
今日から始まる第4章は、この子のいる村での話が中心となります。
舞台はウクライナ国境にも近いマラムレシュという地方です。
それではガイドブックにも載ってない小さな村へ、一緒に旅立つこととしましょう。
どこから来たの?part2
ホント、そう言いたくなるような見慣れない列車だったよ。
ここはマラムレシュ地方のシゲット・マルマツィエィへ向かう途中の小駅。
ちょっと停車時間が長いので駅に降りてみたんだけど、
そしたらこの列車が目に飛び込んできたというわけ。
周りの青年たちによると、これはウクライナから来た列車らしい。
なるほど、そう言われてみれば、ここはもうウクライナとの国境にも近い。
彼らはウクライナからこの列車に乗って、ルーマニアに買出しに来ているんだそうだ。
僕の目から見てもあまり裕福には見えないこの国に買出しに来るんだから、
ウクライナって国はかなり物がなくて苦労してるんだろうなあ、って思わされちゃったよ。
ちなみに今、列車で同室してる女子大学生がこの後、僕を家に誘うことになるんだけど、
この時はそんなことになるとは夢にも思ってなかった。
考えてみれば、泊まるあてが全くないままにただがむしゃらにマラムレシュ目指して突き進んでいたわけだから、
今から考えると無謀としか言いようがないけどね。
この時は、何とかなるだろう、ケセラセラ、ってな感じで、
旅の神様も呆れて、僕に彼女を引き合わせてくれたのかもしれないね。
そうとしか思えない彼女との出会い。
それがないとこの章はありえなかった。
何せ、章扉のあの子がいる村は、何を隠そう彼女の村だったのだから。
これっていいかも
と思わず思ってしまったのがこれ。
何だか分かる?
これは墓なんだ。
そう、お墓。
それにしては派手だけど、それにはわけがあるんだ。
墓の主の生前の生活や特徴を描いた絵の下に、
その生涯の様子がかなり長い文章で書き込まれているからなんだ。
だからその人に縁のない人でも、一目で墓の主の人となりが追想できてしまうんだ。
墓場というと何となく湿っぽくなっちゃうけど、
それをルーマニアでも有数の観光地に仕立て上げてしまうんだから、大したもんだよね。
そう、ここは「サプンツァの陽気な墓」として、ルーマニアではけっこう有名な観光地なんだ。
僕もこんな墓に入ってみたいなあ・・・。
ああ、無情・・・
やっとの思いで彼女の村にたどり着いた私を祝って、
羊を一匹つぶしてくれる・・わけないか。
彼女、そう、ここは列車の中で私を家へと誘ってくれた女子大学生の家なのです。
明日はイースターの集まりがあるとのことで、
お父さんが子羊を一匹選び出し、
のどもとを切って、逆さにつるし、
血抜きをしているのです。
この後、彼は子羊の皮をはぎ、内臓を除き、
と実に手際よく作業を進めていきます。
これが今晩のおかずです。
残酷だけど、日本のスーパーで売ってるパック入りの肉もみんなこの過程を経ているわけで、
要は誰がそれをするか、そしてそれが目に付くか、付かないかだけの問題なのです。
どこの国でも、田舎では、「生きる」ということをじかに目にする機会が多いですね。
それはそれで、大切なことなんじゃないかな。
それにしても、着いた日にいきなりこれはかなりキツかったなあ・・・。
さあ、祈りましょう!
と言ってるのかどうかは分からないけど、
これは翌日のイースターのミサさ。
イースターっていうのは、復活祭のことだね。
これはカトリックのミサだけど、
その前に行われたルーマニア正教のミサが終わるのを待って、始まったんだ。
この村には教会が一つしかないから、いろんな宗派で共用してるってわけ。
ちなみに、この村にはカトリックの司祭はいないよ。
写真の中央で両手を広げてる司祭は、隣りの村から応援で来てるんだ。
ちなみに、彼と僕とは同い年なんだそうな。
同じ28歳でもえらい違いだね、まったく。