衣替え


 朝、家を出る時に。
 長袖の制服を着た姉の後ろ姿を見て、いつの間にか秋になっていたコトを知った。
 靴紐を結ぶのに手間取るぼくの鼻先を、下ろした長い髪がさらりと掠めて。
 ぼくは急いで鞄を掴み、後ろ手に戸を閉めて追いかけた。

 姉の制服は、正装が濃紺の上着で、夏服が白い半袖、そして合服が白い長袖だ。
 特に定められた衣替えというのはないらしい。
 姉は毎年9月中には夏服を片付けてしまう。
 ぼくはいつも、姉の長袖の後ろ姿を見て、季節の移り変わりを知るのだ。

 それにしても、毎年毎年。
 姉は、どうやって逸早く、秋の気配を感じ取るのだろう。
 歩調に合わせて揺れる、艶やかな髪を見つめて考える。
 なにか、彼女なりの法則でもあるのだろうか。
 そう思うのだが、どうしてだか、それを姉に訊いてみる気になれないのだ。
 不思議と。

 家を出てから5、6分ほど歩いたところで、駅に着く。
 姉と一緒なのはここまでだ。
 ぼくは上り線、姉は下り線。
 改札口を通ったら、別々のホームへ向かう。
 姉は、階段に足をかける前に、振り返ってぼくに手を振る。
 ぼくも手を振り返してから、階段を上る。

 いつもなら、ホームで誰かしらに会うのに、今日に限って友人の姿は見えない。
 珍しいなと思いつつ、何気なく下りホームに目をやった。
 通勤、通学途中の人々が溢れている。
 学生達のほとんどは、ぼくと同じにまだ夏服を着ている。
 その中で。
 長袖を着た、姉の姿が目を惹いた。
 そして、その隣に立つ、やはり長袖を着た青年の姿が。

 少し驚いて、よく見ようと目を凝らした時に。
 丁度ホームに電車が滑り込んで来た。
 ぼくは、なんだか少し淋しいような気分を抱えて、電車に乗り込んだ。
 これが秋ってヤツかな、なんて思ってみたりして。

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