いつか、月になる夢



見渡せば、辺りは一面、ぼうっと青白い光に包まれている。
なんだろう。
気になって足を止めた途端、急に寒さを感じた。
寒い。ひどく寒い。凍りついてしまいそう。
どうしてぼくは、こんな寒いところにいるのだろう。
ぎゅっと身体を抱え込んで、震えながら周囲を見回す。
誰もいない。
広々とした空間には、ぼくひとり。
寒くて、ひとりで。
暗闇でないのだけが唯一の救いだ。
明るいというほどではないけれど、ぼんやりとした光は、やわらかく優しい。
この光はなんだろう。
滑らかに波打った白い地面のあちこちが、青白い光を発している。
ぼくは、傍らにあった瘤のように盛り上がった部分に近づいてみた。
しゃがみ込んで触れてみる。
冷たい。
氷、ううん、雪を押し固めたような感触。
痺れそうになるのを我慢して触れていると、やがてそれは少しずつ融けだした。
そうして、段々に青白い光は強くなってゆく。
何分、何十分経ったのだろう。それともほんの数秒か。
盛り上がった先の部分は溶けきってしまい、下から空洞の口が開いた。
青白い光は、けれどやっぱりやわらかく優しい。
ぼくは空洞の中に手を差し込み、中に浮かんでいた球体を掬い上げた。
それはでこぼことした表面を持ち、ひんやりと冷たくて。
けれど、どこかじんわりと温もりが伝わってくるような。

  ああ、やっと見つけた。

そう、ぼくはこれを捜して彷徨っていたのだろう。
この月は、ぼくを待っていたこころの結晶。
いつか、誰かが夢の中、ここに残していったのだろう。
気がつけば、静かに雪が降り出していた。
見渡す限りに広がる青白い平原。
この下には、きっと無数の月が、誰かが捜しに来るのを待っている。
そうして捜しに来た者も、やがて月になるのだろう。
そうして誰かを待つのだろう。
小さな月を抱きしめて、ぼくは緩やかな眠りについた。
そうして、いつか、月になる。


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