コトノハ


空の切片 

空を切り取る
切り取って手にする
手にした空の切片
水色の地に白い雲
なにに使おうか
部屋の天井に貼るかい?
窓ガラスでもいいかもね
もしくは他の家具でも

いろいろと考えていたら
いつのまにか隣りにいた君が
ひょいとそれを取り上げて
丸めてカップに投げ込んで
ミルクに溶かして飲んじゃった

飲み込まれた空は
やがて君に溶け込んで
その睛を水色に染めた
刻々と変わるその色
夕暮れには茜に染まり
夜には紺青に
そして月が昇る

ああ 瞳に月が宿るなら
君はもう十分じゃないか
元より二つの月をもつ君
喉を鳴らして擦り寄るのを
月を手に入れ損ねたぼくは
溜め息ついて ただ撫でる


意地悪

ぼくのコトバに
きみがドキドキするコト
楽しくて

ぼくのコトバに
きみがオロオロするコト
嬉しくて

ドキドキ・オロオロ
こころが動くコト

きみの中のぼくの重さ
どれくらいかな
軽くなってない?
消えちゃってない?

確かめてみたくて
試してみたくて
ぼくはまた
コトバを紡ぐ

ドキドキを狙って
オロオロを期待して

・・・意地悪に。




誰かお願い
ぼくを好きと言って
ぼくが必要と言って
求められなければ死んでしまう
求めるばかりでは死んでしまう

何処にいても
ひとりきりで
楽しげな人々を眺めるばかり

求めるだけには疲れたの
求めて、
応えてくれてもそれで終わり
求め返してはくれなくて

ああ、どうか
誰かお願い
ぼくを求めて


梅雨

雨の匂い
紫陽花の色
梅雨の気配が降りてくる
濡れた傘
呼びかける声
記憶の底に閉じ籠めて

春はもう過ぎて
夏はまだ来ない
雲に覆われた梅雨の空
昼はもう過ぎて
夜はまだ来ない
淋しい気怠い夕暮れに

雨が降る
雫が揺れる
聞こえる声は誰のもの?
濡れた肩
冷えた接吻け
記憶の底に閉じ籠めて



3月の昼下がり

リビングのガラス戸越しに
広いベランダと
見下ろす街並み
まだ桜色に染まらない
こんもりと茂る丘の上は
やわらかにくすんだ青空
風は強いみたい
雲がどんどん流れてく
傾いてゆく太陽に照らされて
造り物みたいに立体的
なんて長閑な、穏やかな日

父さんはお仕事
母さんはお買い物
兄さんは何処かな?
独りきりで家の中
見るともなくテレビをつけて
くるくると変わるBGM
お気に入りの中国茶は
大事なパンダの湯呑みで
ゆっくりと冷めてゆくのを
両手で包んで座り込む
なんて長閑な、穏やかな、
ああ3月の昼下がり。





見るコトは、見られるコト
見ているアナタは見られてる
見ているアナタをぼくは見る
そうして
見ているアナタを見るぼくも
きっと誰かに見られてる



音信不通

あなたからもらったものたちを目の前にしたままで
ぼくは全てをなかったコトにしようとしている
決して忘れられるワケがないのに
なにもなかったかのように振る舞おうとしている

胸の奥で しくり
疼いた痛みはなんと名付けられるだろう

そうだ
きっとみんな、こうだったのだろう
ぼくの前から去っていった人たち
返ってこなかった手紙たち
キライになったワケじゃない
なにも感じないワケじゃない
だけど

開いてしまった距離を
どう伝えていいのかが分からない
そうして分からないというコトが
また 距離を開かせる

あなたからもらったものたちを目の前にしたままで
ぼくはひっそりと願う
どうか
ぼくのようなひどい人間など忘れて下さい
それが無理だというコトは
身をもって知っているけれど





遙かに続く道の先
遠い未来は遠すぎて
目を向けてると哀しくて

ぼくは後ろを振り返る
過ぎ去った日々に目を向ける
取り戻せない遠い日々
でも未来よりはまだ近く
淋しくなんかならないよ
ただ幸せに還るだけ

そうしてぼくは歩き出す
過去を見つめて未来へ向かう
まるで危うい綱渡り
だけどこんな足取りでさえ
少しは前に進んでる
止まったままとは違うから
どうかお願い もう少し
ぼくをこのまま歩かせて
幸せが『いま』にできるまで



別天地

もういいよ
我慢することなんてない
ぼくもキミと一緒に行くから
二度と離れたりしない
キミを放したりしない
ねえ、目覚めの国は苦しくて
息ができなくなるから
“go to another land”
瞳を閉じて
接吻けを交わして……

誰も、来ない……ね



World

ぼくの紡ぐコトバたちが
少しずつ 少しずつ 広がってゆき
やがて それは1枚の地図になる
きっと とても大きな地図
1人では持ち上げられないくらい
描き出されたのは ぼくの世界
果てしなく広がる空よりも大きくて
ひとかけらの水晶よりも小さくて
つよく つよく 何よりも
ぼくの他の誰にも壊せない
ぼくだけ、の、世界



ヒノデ

輝けるヒカリ

  目を覚ませ
  今すぐに
  朝は始まった

ぼくに刺し込んでくる
容赦なく射抜いてくる
そのハレーション

  さあ、おいで
  包んであげるから

凍りついた手足を溶かす
暖かな温もり

それが幻だとしても
輝きは 煌きは

ぼくの中に残るから



ハチミツ

やわらかな黄金色と、独特の甘い香り。
それはまるで魔法。
ねっとりと絡みつくかと思えば、とろとろと流れ落ち、
喉に焼け付くような強い甘味が、ぼくを離さない。
小さなミツバチたちの集めた、秘密の雫。
知っている? 
ぼくらはそれを横取りしてるってコト。
《他人の不幸は蜜の味》
ミツバチの悲劇を思うとき、
ハチミツの味わいは最高のものになる。



からっぽの夜

からっぽの部屋に眠る夜
電気を消す音が
やけに硬く反響する
からっぽの本棚の所為だろう

からっぽの部屋に眠る夜
窓から吹き込む風が
やけに冷たく身に沁みる
からっぽの箪笥の所為だろう

からっぽの部屋に眠る夜
隣りに眠る君が
やけに遠くに感じられる
からっぽの心の所為だろう



呼び声

  (オイデ)
呼ばれたの
  (オイデ)
降るような蝉の声
ぼくを待っているのだから
  (ソウダ)
  (君ヲ待ッテイル)
早く行かなければ
帰らなければ
  (オイデ)
何処へ?
  (此処ヘ)
何処へ?
  (覚エテイルダロウ?)
  (アノ夏ヲ)
夏、
そうだ あの夏に
  (ホラ、此処ダヨ)
ぼくは
  (君ハ)
あの人と
  (ボクハ此処ダヨ)
ああ、蝉の声が煩くて
  (オイデ)
  (ボクハ君ヲ待ッテイル)
帰らなければ
  (此処ヘ)
・・・あの、夏へ



伝えるコトバ

もしも
伝えるべきコトバが途切れてしまったならば
ぼくは如何すればいいのだろう
『ぼくのコトバを書くコトこそがぼくのチカラ』
『決してやめない 手放してやらない』
そう言ったぼくなのに

もしも
伝えるべきコトバが途切れてしまっても
ぼくは書き続けるだろう
意味の通らない 何も伝えないコトバでも
ぼくは、ぼくが『ぼく』で在り続ける為に
書き続けることだろう

もしも
あなたの許にぼくのコトバが届いたならば
どうかそれを拾い上げて
そしてぼくに教えて
ぼくのコトバは何かを伝えただろうか
・・・伝えただろうか



異物

白い部屋に響き渡る声は
どうして私を責めるように聞こえるのか
ガラスを振動させる
強すぎる波動

 コレハ異物

考える力が奪われてゆく
無理矢理に脳髄に侵入してきては
徒に掻き回すだけで
何も残らない

 コレハ異物

お願いだから黙って
私はここから逃げ出したくて堪らない
高架下の騒音よりも
性質が悪すぎる

 コレハ異物

途切れてしまうココロ
もう駄目・限界・決して止められない
不可ないのはこの声
完全な異物

 異物 DELETE



視線

見ていてね

ぼくのコトを
見ていてね

どんなに遠く離れても
ぼくのコトを
見ていてね

たとえあなたのココロがぼくを
どんなに遠く離れても
ぼくのコトを
見ていてね

ぼくのココロは生きてけないから
たとえあなたのココロがぼくを
どんなに遠く離れても
ぼくのコトを
見ていてね

あなたの視線がぼくの傍から消えてしまうと
ぼくのココロは生きてけないから
たとえあなたのココロがぼくを
どんなに遠く離れても
ぼくのコトを
見ていてね


ぼくはあなたを見ているよ



kidnapper

あいつが来るよ

それは白昼の公園で
ひとり遊んでいたあのコは
あいつが連れて行ったんだ

優しげに微笑んで
そっと手招きすれば
従わずにはいられない
生まれて初めて出会う
未知の世界に誘われるように

ああ、どうか
きっとぼくを連れに来て?
ぼくをここから攫ってしまって?
ひやりと冷たい大きな手
ぼくのイノチは指先ひとつ

ひと気のない公園に
ゆっくりと足音が響いてる
ほら、

あいつが来るよ



月を呪う

嗚呼、いったい如何して
貴方はわたしの下へ
其の様な苦しみを齎すのか

紅い闇が降りてくる
どろどろと流れ堕ちてくる
何も彼もを埋め尽くし
わたしは痛みに身体を投げ出す

満ちて往く月
欠け堕ちて逝く月

 月がわたしに宿ろうとする

ふと気が付けば
全ては過ぎ去って
わたしはまたも
月の訪れを待ち受けている



蜘蛛の糸

東に向かい
坂を上るぼくの目に
刺し込んでくる
太陽のひかり
幾条もの そのひかりは
どこまでも真直ぐに
天の高み
白い恒星(ほし)
あの輝きへ続いてく
それを辿るコトが出来るなら
ぼくも向こうへ行けるだろう



光のハナビラ

光のハナビラは降り注ぐ
視界を埋め尽くす程の
夥しいハナビラは
けれど尽きることなく
いつまでも いつまでも
降り続ける
まるで無限であるかのように

元の花々を見上げても
消えゆく様子はまるでなく
 風が吹く度に
 小さく震えた花びらが
 その残像を飛ばしている
そんな考えも浮かんでくる

降り注ぎ 降り注ぎ
巻き上げられて 舞い上がる
蒼天(そら)に遷る光のハナビラ
やがて それらはゆっくりと
あなたの許へ降りてくる



食用桜

《桜の花弁》
 小さな湯呑の
 白湯に浮かべて桜茶に

《八重桜の葉っぱ》
 枝から生えているときから
 もう既に塩漬け



春ノ宵

なんだかぬくぬくとした空気の中
夜空までぼんやりと霞んでいて
ぼくは思わずにんまりと微笑む

春の宵は未だ浅く
キミの家まで未だ遠く
桜吹雪は満開で
朧月夜は全開で

ついつい 一人で
古い唄なんか
謳いたくもなるんだよ



夜空のコイン

冬の寒空のもと
急ぎ足の帰り道
建ち並ぶコンクリートの間から
懐かしい輝きが見えたよ
こんなにも大きいモノだったろうか
暖かい光を湛えた
それは満月



ガラス窓

透明な壁の向こうには
キミの笑顔が見えるのだけど
手を伸ばしても届かない

けれどぼくは
いつかその壁を ガラスの窓を
この手で壊してしまうだろう

きっと欠片が飛び散って
ぼくの瞳に突き刺さる

でも それでも
ぼくは窓から這い出して
キミの笑顔に触れるだろう



SEI−YA

聖なる夜 静かな夜
誰にも知られず 雪は降る
あの屋根 この屋根 ぼくの屋根
あなたの心に 降り積もる

聖なる夜 静かな夜
白い世界にぼくはいる



and....<4>

キミがいってしまうコトは
とても淋しいけれど
それもキミの道だから
 決して逢えなくなるのじゃないし
 今まで通り 大切に想ってる
どうか親愛なるキミに
たくさんの光が降り注がんコトを……



幻想

真夏の幻想を見た
日に焼けた少年が
笑いながら駆けてゆく
遠い映像
耳が痛いほどの静寂の中
やがて白く弾けた



and....<3>

大好きで 大好きで
あなただけしか見えなくて
もう ただそれだけで
とてもとても幸せで……



and....<2>

あなたのコト 知ってる
でも、ぼくのコト 知ってる?
あなたにぼくのコト、知って欲しい
教えてあげる……



so blue....

蒼い 蒼い 海の底
キミの涙を見つけたよ
何も哀しまないで
泣きそうになったら ぼくを呼んで
いつでもキミの傍にいる
約束、するよ



in the earth

ずっと眠っていた
深く闇い土の中
君だけを想い続けて

明日 目覚めるんだ
光あふれるこの星に
I will be in the earth

水も風もぼくを流れて
やがて君へと辿り着く
そう、全てのものが

《I'll be in the earth》
明日 目覚めるんだ
《I'll be alive with you》
光の中 君のもとで
ずっと ずっと 夢見てた
I will be in the earth

《I'll be in the earth》
明日 目覚めるんだ
《I'll be alive with you》
光の中 君のもとで
きっと夢は夢じゃなくなる
I will be alive in the earth with you



きみのホッカイロになりたい

あっためてあげる
きみの全部
泣きたい時は泣けばいい
涙まで凍らせないで
ぼくは何も言えないけれど
傍にいてあげられるから
1人じゃないよ いつでも……



and....<1>

きっと忘れない
いつまでも
あなたの光を抱いている
光のあなたを見つめてる
きっと、強くなる



呼び声

呼び声が聞こえる
遠く、近く、
ぼくを呼ぶ声
とおく、ちかく、
誰が呼ぶの?
トオク、チカク、
もう、聞こえない……



1番

君に言われたくないコトバ
“1番好きだよ”
そんなの全然嬉しくない
だって知ってるもの
あなたに昔
他の1番がいたコト
“1番”なんて すぐに変わるから
誰とも比べることなどなく
わたしを ずっと 好きでいてね



別天地・序

逃げ出そう
こんなかなしい世界から
夢のカケラを踏み越えて
痛みのないところへ
傷みのないところへ
壊れそうなほどきれいな世界へ
折られた翼を抱えて
ぼくたちは飛び立った



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