キリリク



秋の青空

明るい空を見上げていたら
何処か遠くへ行きたくなった
雲ひとつない遙かな空は
懐かしい海を思い出させる

静かな浜辺で見上げた空は
いつもこんな色だったように思う
高くたかく澄みきった
ガラス玉のような色の空

思い出す海はひとつじゃなくて
一緒にいた人も様々だけど
空の色は変わらない
そのコトが 不思議とやさしい

“秋の青空は永遠の色”
まるで何処かで聞いたふうだけど
そんなコトバが素直に浮かぶ
切ないような気持ちと共に


暖かな陽射しと冷たい風が
綯い交ぜになった秋の日に
ひとりで見上げた青空は
ぼくのこころを映し出す



秘密

秘密だった

小さな空色の花
甘酸っぱい赤い実
卵を産まない鳩の巣と
その中に隠してあった
ガラス質の石の欠片

君は覚えているかな
あの小さな世界を
ぼくらだけのものだったね
他の誰も気付かないような
小さな小さな世界

狭い裏庭に立ち
あの頃のように見回してみると
驚くほど変わっていない
ただ 少しだけ樹々が成長したコトと
君がいないコトを除いては

あの夏 ここを離れて以来
君はこの裏庭を思い出したかな
帰ってきたいと思ったかな
ぼくの待つ、小さな世界へ

軋むブランコに腰を下ろし
ぼくは 裏庭の鍵を投げ捨てる
もう誰も
幼いぼくらの世界に気付かないように
永遠にぼくらだけのものであるように
だって、この小さな裏庭は

秘密だから



      帰還

      流れてゆく
      離れてゆく
      ……近づいてゆく

      過ぎてゆく街並み
      置き去りにしてゆく

      太陽から遠ざかる
      どんどんと、光から遠ざかる
      風景は夜に沈む
      ぼくの時計は遅れてゆく

      置き去りにされたのは ぼくの方
      世界は回っている
      ぐるぐると回っている
      季節は廻ってゆく

      知らなかった
      いつのまにか咲いていた桜
      あんなに待っていたのに

      流れ、流れて
      近づいて
      帰ってゆくの?
      還ってゆくの?

      冥い夜の中
      寒い風の中
      それでも空気は春模様
      辿り着いた部屋は
      ぼくの居場所
                 (気紛れ猫も、お気に入りから離れられない)



宿る月

   ひかりがね、
   月のひかりが とけてくるんだよ
   雫になるの
   そして、そして、
   とけた雫がね 涙になるの

そう言ったのは誰だったのか
もう思い出せない
遠い とおい昔
ぼくの隣にいたのは誰だったのか

   ほら、ね
   降りてくるよ
   手を伸ばしてごらん
   キミの手に 雫が降りるよ
   キミの目に 月が宿るよ

思い出せないのだけれど
いつまでも忘れられない
記憶の片隅に貼りついている
小さな雫
小さな、涙?

   涙がね
   月の涙がキミに宿るよ
   どうか忘れないで
   いつだってそこに在る
   涙は・・・消えないよ

いつまでも 何処までも
コタエはするりと逃げてゆく
だけど
滲んだような月の晩
見上げるぼくのこころの中で
宿った涙が溢れ出す
そのコトだけは本当で

もう思い出せない遠い昔
ぼくの隣で泣いたのは
小さな雫を落としたキミは
今でもぼくの中にいる


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