1996.Oct.発行



眠り

一年振りに目覚めた朝
泥にまみれた雪を見る
一年前を思い出す
わたしも きっと
この雪と同じ
泥にまみれて 汚されて
雪のように消えたくて
ここで一年眠ってた
『もう大丈夫 出ておいで』
囁きかける彼らには
わたしの痛みはわからない
まだ もうしばらく眠らせて
冷たい永遠の氷の中で




歌声の記憶

記憶のカケラ
崩れた心
思い出すのは君の声
優しく唄ってくれた歌
まだ覚えているよ
なにもかも失くしても

瞳 交わした あの瞬間
涙 零した あの瞬間
ねえ、君の名前を教えて




さようなら

『さようなら』
わたしは呟き
あなたの胸を離れた
『何故……』
あなたは苦しげな声を絞り出し
そこにくずれおちた
あなたの血が
白い絨毯を わたしの足を
染めてゆく
わたしは
流れる涙でそれを薄めながら
『さようなら』
もう一度呟いて

――そして そこには
  永遠の沈黙が訪れた




焼空

朝焼けは
夜の女神の流した涙が
大地に堕ちて
はじけたしずく

夕焼けは
昼の世界に別れを告げた
なにかが放った
最後の光

幼い頃に誰かに聞いた
遥かな世界の物語






桜 咲ク
桜色ノ空ノ下
桜色ノ肌ヲシタ キミト
ソンナ キミヲ
見ツメル ボクト
ズット黙ッタママ
遙カナ時ハ流レ――

桜 散ル
蒼色ノ空ノ下
青ザメタ顔ヲシタ キミト
ソンナ キミヲ
見ツメル ボクト
ズット黙ッタママ
僅カナ時ガ流レ――

ソシテ
キミハ クズレ落チ
ボクハ黙ッテ ソレヲ見ツメ
再ビ 遙カナ時ハ流レ――

桜 咲ク
桜色ノ空ノ下
ボクハ タダ一人
雪ノ様ニ舞ウ 花ビラヲ見ツメ
花ビラニナッタ キミヲ見ツメ
遙カナ時ハ流レ――




誰かのピアノ

切ないピアノの調べが流れる
冬の夕暮れ
あなたは誰?

キミのために弾くよ
いつだって
ぼくはその為に
音を造るのだから

どうしてそんな
哀しい曲しか弾かないの?
時に切なく
時に激しく――

キミのための曲だから
いつでもぼくの曲は
キミだけのために弾くから


ある日 少年は
閉ざされた部屋の奥に
一台のピアノを見つける
そして 知った
彼のために
哀しい曲を弾き続けたのは
幼い頃
哀しい時は いつだって傍にいた
いつか散った
少年の兄




休息

叫んで
泣いて
笑って
眠ろう
疲れてしまったキミは
休まなければならない
優しい時間も
たまには必要さ
ぼくにも




空の愛

夜中に ふと目を覚まし
外を見ると
空は血の色に染まっている
ベランダに出て 辺りを見まわしても
誰もいない
こんなに綺麗なのに
そう、この世界に生きているのは
わたし一人なんだ
家族も友達も恋人も
みんな、この紅い空に消された

お前はわたしだけを見るがいい
わたしもお前だけを見ているよ
わたしたちを邪魔するものは何もない

ええ わかったわ
そんなこと簡単よ
だって 他に見るものなんてないもの

やがて彼女は 再び眠りについた
その身体は次第に重力の束縛を抜け出し
紅い空のかなたへと消えていった




明日

明日 君もぼくもいなくなる
みんなは探すけれど
決して見つからない
ぼくらは
みんなを天から見下ろすんだ
楽しみでしょ?
だから
今夜は一緒にいようよ
オンナなんて放ってさ
ぼくの方がいいでしょ?
だから
今夜は一緒にいようよ




停滞

ぼくはきみを置いてゆくよ
流れる時の中に
止まってしまった時の中に
本当は ぼくもそこにいたかった
でも ごめん
ぼくにはできなかったよ
止まったままのきみを
ずっと見てるのは辛すぎて
自分に堪えられなくなりそうだから
もう、さよなら……




距離感

一番遠くにいるキミの
一番近くにいるためには
どうしたらいいのだろう
ビデオやパソコンの接続なら簡単なのに
たったひとつの
心のつなぎ方が わからない

わからなくて
無理やり繋いだ
あの夜
それでも キミを近くに感じてしまった

今度は 近くにいるキミから
一番遠くに行く方法を探そう




桜U

淡色ノ花ビラ
暖カナ風ニ吹カレテ
ボクハ キミヲ思イ出ス
真ッ白ナ雲
蒼ク澄ンダ空ニ流レ
ボクハ 涙ヲ流セタ
遙カナ時ハ流レ
花ビラニナッタキミハ
相変ワラズデ
ボクノ手ヲ スリ抜ケル
ボクハ黙ッテ ソレヲ見ツメ
遙カナ時ハ流レ――

ヤガテ ボクモ花ビラニ――――



BACK