月光中毒症
2000.Jan.発行




青白い輝きが
そっと辺りを包み込んで
それは、
あなたのいる景色




金平糖

うっすらと 透きとおるような
小さなツノをいくつも持って
ふぅわりと甘く溶けて

それは星の欠片だろうか
それとも氷の結晶だろうか

いいや、それはきっと
アナタを想う ぼくのココロ




氷の指先

透き通る如き その指は
外気よりも 尚 凍てついて
そっと 彼の人の頬に触れても
温もりが伝わることはなく……




水底

ゆっくりと沈んでゆけば
水は柔らかくぼくを包み込む
ゆらゆらと動く視界
音はまるで聞こえない

静かに水底に座り込み
ぼくは水面を見上げる
ふるふると昇ってゆく泡 ひとつ
光が降り注ぐ

次第に力が抜けてゆき
ぼくの身体は水底に横たわる
深い安らぎの中で
ほぅ、とひとつ 息をつく




螺旋階段

地下室の空気はひんやりと冷たくて 季節を忘れさせる
暗い階段を下りてゆけば どこまでも深く沈んでいきそうで 少し戸惑う
螺旋 らせん ラセン RA・SE・N……
ぐるぐると どこまでも続く階段の遙か上方に 小さく光が見える
角度を合わせた時だけ ぎらり、と 暗闇に慣れた目を射る
 ――もっと深くまで行かなきゃ
やがていつか辿り着くであろう この階段の最奥を目指し
太陽の光も熱も届かないところまで ひたすらに進み続ける
キミに逢う為に




博物館

其処にはまるで
旧い時間の匂いが漂っていて
ぼくは思わず
息を潜めて 瞬きをして
そっと硝子の向こうを覗き込む




銀色三日月

星のない 乾いた真夜中
見上げた北の空に 銀色三日月
「明日は一日雨模様」
声に目を凝らせば 屋根の上
黒猫が身を翻して駆けてゆく




夜の帳

それを下ろしたならば
ほら、ぼくたちの姿は
そとからは 見えないのだから、




少年展翅板

ええ、如何ですか
奇麗なものでせう
いや、まあ苦労しましたからな
翼を廣げるのが最もむつかしいのです
下手をすると千切れてしまうのです
非常に脆いですからな
時には砕けてしまうのです
おや、興味がお有りですかな
なぁに 慣れれば楽しいものですよ
こうして観賞するのも良いですが
矢張り自分でやってみるのが一番です
ああ、ほら
丁度其処を手頃な個体が歩いてきます
早速 ひとつ囚らえて見せませう
どおれ、




ガラス窓

透明な硝子の向こうで
柔らかに微笑むキミの姿
ぼくは手を伸ばすのだけど
決して触れるコトはない

けれど、いつかきっと
ぼくはその窓を壊してしまう
砕けた欠片が飛び散り
空気が流れ出てゆくだろう

仮令 砕けたガラスの欠片が
キミを傷つけたとしても
ぼくは割れた窓から這い出して
キミの頬に触れるから




虹水晶

きらきらくるり
虹水晶は虹の色
七つの色が渦巻いて

きらきらくるり
虹水晶は夢の色
夢のカタチを映し出す




月光中毒症

あの輝きに憧れて
あの冷たさが懐かしく
あの静けさに魅き込まれ
月の光が恋しくて



BACK