…ピ、ピ、ピ、ピーーン…
「A・Happy New Year!!」
パンパンパアン!!
時報が1月1日0時を示すと同時に元気な声とクラッカー音が響いた。
辺りに漂う火薬臭。部屋中に舞う色とりどりの紙リボン。そしてテーブルの上の料理にも遠慮なく降り注ぐ紙吹雪。
犯人は勿論ゴンとキルア。レオリオもその向かい側に座って笑顔で拍手をしている。
「おめでとー!」
「今年もヨロシクー」
「……おめでとう…」
「…?何だぁ、テンション低いぞ、クラピカ」
新しい年の到来に盛り上がる3人に比べ、一人憮然とした表情のクラピカ。まるで困惑しているかの様に黙って3人のはちきれっぷりを伺っている。
ここはレオリオのアパート。
1ヶ月前、唐突にゴンとキルアが年越しパーティをしたい!と連絡してきたのだ。 運良くクラピカも年末年始は休暇が取れる、ということであっと言う間にこの年越しパーティ『年越そう会』の開催は決定した。(ちなみにやや古いこのネーミングはキルアによるものであったりする。意外ととっつあん坊やな男、キルア…。)
運良く隣室は空家ということで近所迷惑を案じることなく大騒ぎできるということでパーティはこの部屋で開催する運びとなったのが3週間前。
かくして12月31日当日、4人は3ヶ月ぶりの再会を果たした。そして、再会の余韻に浸る間もなくパーティのためにゴンとキルアは小道具を用意して部屋を飾り付け、レオリオとクラピカは食料を調達した。…もちろんほとんど出来合いのものを。
唯一手作りなのは年越しソバだけ。ゴンとキルアがウイングさんからソバ麺を貰ったから、と持ってきたのだ。
『美味しそうでしょ!ウイングさんがね、目の前でねじり鉢巻つけて打ってくれたんだよ!』とはゴン談。
『…あんなマジな眼差しの師匠…初めて見たぜ…。あまりのオーラに見てて冷汗が止まらなかった…』とはキルア談。
…ウイングさん…一体どんな麺打ちを…?
勿論レシピ(これまたご丁寧にウイングさんお手製。恐るべし…菊池亭蕎麦処…。)を見ながら作ったのはレオリオ。クラピカに手伝ってもらおうと思ったが、醤油と間違えて焼肉のタレをツユに注いだ次点で潔く諦めた。
かくしてパーティの準備も間に合わせ、年越しソバも美味しく平らげ、何とか無事に年を越した4人であった。
「レオリオ、クラピカ、早く食べようよ〜」
ゴンがそう言ってレオリオの袖を引っ張る。先ほどあんなに年越しソバをおかわりしたというのに、育ち盛りの子供たちに食欲の際限は無いのであろうか。2人とも我慢できないというようにテーブルの上のご馳走を見つめている。
仕方ないなあ、と苦笑してレオリオがグラスを掲げた。
「そんじゃ、いただこうか。ほらほら、クラピカもグラス持って、…えー…、今年はさんざんお世話しました。来年はあまり手をかけさせないように!カンパーイ!!」
「カンパーイ!」
「…何か引っかかるけど、カンパーイ!」
「…乾杯」
ガチャン。
レオリオの恩着せがましい乾杯の音頭を合図に、景気のいい音を響かせてグラスが鳴った。 レオリオはワインを、あとの3人はジュースが入ったそれを一気に空ける。
「おめでとー」
「そいでもっていただきます!!」
言うが早いか早速料理に飛びつく2人。あまり慌てるなよ、というレオリオの忠告も耳に入っているやらいないやらの勢いでみるみる料理を平らげていく。
そのあまりのスピードにレオリオは自分が食べるのもそこそこにどんどん皿を下げて新しい料理を上げなければならなかった…。
「…って、オイ!俺にも食わせんかい!!」
いや、ナレーションにツッコまれても。
「…レオリオ、誰と話してるの?」
レオリオの奇怪な行動にゴンが眉をひそめる。…それでもその手は止めることなく。
同時に、キルアがじっと座っているクラピカに気付いた。
「…っつーか、クラピカ、食べねえの?」
「…へ?…ホントだな、どうしたんだ?クラピカ。腹の調子でも悪いのか?診てやろうか?」
「結構だ。」
クラピカ即答。キルアがニヤニヤしながらそこにツッコむ。
「そーそー、オッサンが違うところの触診始めたら大変だしなー」
「て…てめ、俺は純粋にだな…!!」
「どーだか。明日になって『酔った勢いなんだー!』とか泣いて謝っても遅いんだぜ?」
相変らず達者な口ぶりでレオリオをからかうのはキルア。 ゴンはそんな2人をさておき『大丈夫?』と、心配げにクラピカの顔を仰いでいる。
その表情に苦笑を浮かべるクラピカ。そして食べ物を口にしない理由を告げる。
「…実は私の村では年明けの日に食べ物を口に入れてはならなかったのだよ」
「「「はあ?」」」
思ってもいなかった台詞に3人が声を合わせて間抜けな声をあげた。 口をぽか〜んと開いている彼らに話は続けられた。
「私の村の風習だったのだ。無事に新年を迎えられた慶びに食べる事すらも忘れて祈りを捧げる、という謂れだったと思う…。まあ、今更祈る気もないが、ずっとそうやって育ってきたからな、一般的な大騒ぎの年越しに慣れていないのだよ。」
珍しい風習だが、閉鎖的な村ゆえの厳かな年越しだったのだろう。
「…そっか、ま、地方地方で色々あるってこったな。」
僅かな沈黙の後、レオリオがそう言って頷いた。 ゴンとキルアもいつの間にか止めていたフォークとナイフを再び動かしながら、口を開く。
「ジェネレーションギャップ、だね…?」
「…年代違ってどうするねん。それを言うならカルチャーショックじゃい。」
ゴンの深刻な表情でのボケにキルアがフォローを入れる。
何はともあれ、これでさっきからのクラピカの消極的な態度も納得がいった。 厳かであったはずの年明けがバカ騒ぎになってしまえば困惑するのも仕方が無いことであろう。
「風習って訳じゃないけど、そういや俺んちもあったぜ、新年行事」
「へえ、キルアん家の新年行事か…、さぞかしゴージャスなんだろうなあ…」
ふと、思い出したようにキルアが口にした言葉にレオリオ、ちょっぴりゴージャスな想像を膨らませた。
「やっぱ、アレだろ?ゾルディック家だけに某飛呂彦先生の『…わたくし、残酷ですわよッ』って、アレ!」
しーーーーーーーん……
「レオリオ…ゴージャスはゴージャスでも…『ゴージャスアイリン』ネタは今の若者には辛いと思うぞ…」
「カルチャーショック、だね…?」
「…今度はジェネレーションギャップでええんじゃい…。」
自身満々に言い放ったレオリオに3人の冷静な眼差しが突き刺さっている。宴もたけなわどころか…やたらとサムイ年越しパーティになって参った。
「じ…じゃあ、どんな行事なんだよ!ゴージャスなんだろ!ゴージャスッ!!」
「…ん〜…、まあ、ゴージャスっちゃ、ゴージャスだな…」
キルア、少し考えて首を傾げる。
「新春初殺し。」
「ゴ…ゴージャスウッ!!?」
レオリオ、音速を超えたツッコミ。おめでとう、今日からキミも青銅聖闘士。
「そのまんまだよ。新年明けると同時に樹海の中に飛び込んでいって魔獣でも何でもいいから1つ殺してくんだ。これでその年のお年玉が決まるからそりゃもう皆必死だったぜ」
「へえ…」
「何だよ、その淡白な返事は」
「いや、言葉が浮かばなくて…」
そりゃ、そうだ。いきなり強烈なカルチャーショックじゃけんのう。
この強烈なカルチャーショック、キルアの話のよるとそのスピード、獲物の手強さ、そしてその殺し方の3点で母からの採点があり、1位は100万ジェニー、ビリはミケのブラッシングという格差あるお年玉が配分されるということでそれはそれはサバイバルだったらしい…。
しかも父と祖父もめっちゃ本気で参加しているということだからゾルディック家のおこづかい事情もなかなか深刻らしい…。
「昨年の正月はとにかく速さで点数を稼ごうと思って、スタート地点にいたアリを殺したんだよ。そしたらオヤジも同じこと考えていてさ、二人でアリを踏み潰す姿はなんとも間抜けだったよなあ」
「いいのか?世界一の殺し屋…初殺しがアリで…」
裏の世界のお茶目な面を垣間見たクラピカはそんな疑問の声を上げずにはいられなかった…。
まあ、ゴージャスと言えない事はない…かもしれない…多分
「あのね!くじら島もあったよ!」
今度はゴン。満面に笑みを浮かべ、その右手をまっすぐ上げている。
その声に明るさを取り戻す奇妙な雰囲気に包まれかけた年越しパーティ。
レオリオとクラピカは安堵の笑顔を浮かべ、キルアも興味をこめた眼差しを向ける。
「くじら島か〜、漁師の島だから初釣りじゃねえのか?」
「おしい!!」
「おしかったか〜」
「海の漢★よっしゃこい祭。」
「おしいんかどうか訳わからーんッ!!!」
レオリオ、音速2を超えたツッコミ。おめでとう、今日からキミも白銀聖闘士。
しかし本当に惜しいのか惜しくないのか、それすらも解らない謎の祭り「海の漢★よっしゃこい祭」恐るべし…。
クラピカも引きつりながら尋ねる。
「ど…どんな祭りなんだ?ゴン」
「そのまんだだよ?」
「…どのまんまやねん…」
キルアの台詞、ごもっとも。レオリオもクラピカも神妙な顔で頷いている。
そんな3人の様子に首を傾げながらゴンが謎の祭りの説明をしてくれた。
「『どっせーい!!』とか叫びながら海と戦うんだよ」
「余計わからん。」
レオリオ、光速を超えたツッコミ。おめでとう、今日からキミも黄金聖闘士。
その後のゴンの説明を順序良く並び替えて要約すると、『海の漢★よっしゃこい祭』とは元日の朝日と共に漁師たちが一斉に船を出し、『よっしゃこーい、よっしゃこーい』と叫びながら沖に行って『どっせーいッ』とか叫びながら初釣りを行う行事らしい。
一番大きな獲物を釣った者にはその年1年間『キミこそ海の漢★』と描かれたアツイ漁旗をゲットすることが出来るらしいのだ。
「要らなすぎる…」
ホントに要らなすぎる…。
だがそんなキルアにゴンが猛然と食ってかかる。
「何言うんだよ、キルア!あと1歩の所でこの旗を逃して悔し涙を流した漢たちは数知れないんだよ!!」
「数知れとけ!!」
レオリオ、第6感を超えたツッコミ。おめでとう、今日からキミもセブンセンシズ。
クラピカ、たどたどしくフォローを入れる。
「ま…まあ、前半部は漁師のための滞在島としてはアリだったし、それも文化ということでいいではないか。」
「はー…、カルチャーショックだぜ。」
「全くだ…」
「何か…年明け早々異文化に浸っちまったなあ…」
ひきつりながら、キルアが呟く。その様子に苦笑して、クラピカが料理を口に運んだ。 驚くレオリオ。
「クラピカ…、お前、いいのか?」
「…ま、郷に入れば郷に従えと言うし、今年は異文化の年越しに挑戦させていただくことにするよ。」
「そうこなくっちゃ!」
ゴンが嬉しそうに笑って、自分の前にあったピザの皿を差し出した。レオリオも適当に見繕ってクラピカの皿に料理を装っていく。 キルアはグラスをもう一度高らかに掲げ、パーティを仕切りなおした。
「そんじゃ、気を取り直してもう一度カンパーイ!」
「「「カンパーイ!!」」」
ガチャン!
さっきより大きな声と共に、さっきより派手な音をたてて、グラスがぶつかる。
「クラピカ、異文化体験のついでに初殺しもやっとくか?」
「辞退する。」
「じゃあさ、来年は皆で『漢の海★よしゃこい祭』に参戦だあ!!」
「何でやねん!!!」
「え〜」
「ま、何はともあれ、今年もヨロシク!」
「こちらこそ!」
――――こうして新しい年はにぎやかに始まっていったのだった。
――――――ちなみに次の年、彼ら4人は『新鮮組』と胡散臭いチーム名で『漢の海★よしゃこい祭』に優勝し、『キミこそ海の漢★』旗を手にして感動のコメントなんか残しちゃう事となるのだがそれはまた別の話。