鎮魂歌

天空には零れんばかりの星屑。

そして闇を裂く月光。

誇らしきガラクタの山の上で

いつか見たあの空と同じ


「今の歌、何?」
  私の問いかけに顔を上げ、彼はガラクタの上から手招きした。
傍に来た私に彼が手渡したのは古ぼけた赤い布表紙の本。表面の埃を掃って消えかかる文字の痕跡を追う。
「…聖歌…集?」
「そう、捨てられた信仰の唱だ」
  自慢げな彼が何だか可笑しくて、少し笑ってしまった。
「…可笑しいか?」
「ごめん、ごめん」
  笑いを止めるのにちょっとかかってしまった。彼もつられて微笑んでいる。
「でも『捨てられた信仰の唱』か…私たちには相応しいかもね」
…嫌味なのではない、
むしろ誇らしく私は言った。
彼も誇らしげに頷く。

「捨てられた」その日、私たちは「産まれた」。

放棄こそが誕生。

同朋こそが我等が家族。

人種も信仰も全てを超えて血よりも濃い絆が確かにここには在る。

それが私たちの誇り。


「…それにしても…」
「ん?」
「少し音外していたわよ」
そう、言って笑った。
彼も、笑った。

あの日、私は初めて彼と出会ったのです。


――――――― 雨が降る。
降りしきる雨に称えられながら私は今アジトに戻っている。
私は皆に全てを伝えなければならない。 クルタの生き残りとの取引もヒソカの裏切りも…団長のことも…。
「…ミャー…」
  ふと、何処から聞こえる細い声。
立ち止まって辺りを見渡す。
「ミャー…」
  …居た。
瓦礫の隙間からじっとこちらを見ている幼い猫。
捨て猫だ。 か細くて、頼りなくて…
それでも背筋を張って凛とそこに佇んでいた。
「ミャー…」
  聖者とはとても言えないこんな私の行進をじっとその琥珀の宝石で見守ってくれている。
「ミャー」
  私はありがとう、と応えた。
「捨てられた」我が誇らしき仲間に。

私はちゃんと笑えている?

私は迷いなく歩いている?

見守っていて、

私の最期の姿を…

そして、私は皆に銃を向けた。

 

「先刻謳っていたのはどの唱?」
  彼女がそう言って覗き込んできた。俺は栞を挟んだページを開いてみせる。
「右のページのこの唱」
  彼女が歌を見つめる。
「鎮魂歌ね?」
「そう。」

鎮魂歌…

その名の通り魂を鎮める歌。

身体を亡くした純なる魂を然るべき場所へと導く厳かなる聖歌。

開かれた状態のこの本を見つけたとき、この唱が俺を見ていた。

まるで、

俺の為に産まれてきたかの様に…


  彼女が隣でその唱を小さく口ずさむ。
高く、低く、厳かに…
小さな声ではあったが、俺は一章節も聞き逃さないように瞳を閉じて耳を傾けた…。

天空には零れんばかりの星屑。

そして闇を裂く月光。

そして響くは君の奏でる鎮魂歌…

目を閉じてそれを聴いていたのは俺。

その頃まだ皆から「クロロ」と呼ばれていた、俺。


ドンドンドンドンドン!!!

引き金を弾く、

廻るリボルバーの前奏、

弾ける銃弾音、        

まるでスローモーションの様に、

空を飛ぶ5つの、

記憶。

その先には、

誇るべき仲間たち…。

大切な、私の、

近くて遠い兄弟たち…。

どうか…私で…お終いにして…。

視界が途切れる寸前、
マチが…穏やかに微笑って、唇を動かした…。

『…おやすみ、パク…』

私も、微笑み返した…。
最期まで、微笑って…在れた。
私の、最期の、誇り。

――――…おやすみ、マチ…

おやすみ…みんな…

ちょっと、疲れちゃった…、

先に、寝る…ね…?

ああ…うたが…きこえ…る……

…やくそく…の…

…う…た………

遠のく意識の中、
瞼に広がる懐かしい風景
そして
身体を包む、懐かしい旋律…

天空には零れんばかりの星屑。

そして闇を裂く月光。

誇らしきガラクタの山の上で

いつか見たあの空と同じ…………


「約束よ」
 君が、微笑った。
    初めて出会った少女。
      初めて出会った俺の兄弟。
「ああ、約束」
  俺も、微笑った。
そして誓った。

「君が死ぬ時にはこの歌を謳うから。」


天空には零れんばかりの星屑。

そして闇を裂く月光。

誇らしきガラクタの山の上で

いつか見たあの空と同じ


俺はゆっくりと口を開く。
開いた口から零れる、
詩。
それはあの日の鎮魂歌。

誇らしき、我が手足に捧げよう、
死をも恐れない我が手足に捧げよう、

そう、思っている。
彼女が死ぬのは誇らしき当然のこと。
蜘蛛の手足として、
俺の手足として、

……それなのに、

何故だろう…

何故、頬に涙が伝うのだろうか………

星空の下で出会ったあの少女は、もう何処にも、居ない

ただ、それだけのことなのに……

 涙の理由も解らないまま、俺は月明かりの元謳い続ける。
空は静かに、其処に在った。


天空には零れんばかりの星屑。

そして闇を裂く月光。

誇らしきガラクタの山の上で

いつか見たあの空と同じように……

 

FIN

 

何だかですね…遅くなりましたがパクノダ姐さん追悼によせて。

団長が全然ショックを受けていない風だったのがちょっとショックでこんな話書いてみました。
それは表面だけしか見ていないのかもしれないし、団長なりの哀しみが何処かに描かれていたのかもしれませんが、私には一寸解りませんでした。
いやはや、旅団は奥が深いですな…イマイチ何を考えているのか掴みにくいです。
団長がよく解らないんですよね…設定的に…。二重人格入っているような気もしますし…
もし、もし団長が姐さんの死を何とも思っていなかったら…悲しすぎるな、そう思うのは私が甘いのですかね…。うう〜む…何だか暗くなってしまいました。

旅団の回想(12巻)でマチがクロロさん見て「あれ…クロロ?」って言ってるのがすごい引っかかっているんですよ…。以前の団長は性格違ってたのかしら…とか深読みしてしまいまして…それでこの小説の回想クロロさんは少し明るかったりします。…深読みしずぎかしら…。

平成13年10月13日

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