第13話
V3から来た男
アンヌ干され編その3。
またまた、出演者クレジットもされず…。

こだわりの脚本家、いまではウルさがたのコメンテーターとして知られる市川森一氏。
セブンへのデビューの頃は、まだ駆け出しでした。そんな才能豊かな駆け出しが、書いたホンは、大人の男のカッコいい友情話です。

「…三つ揃いのスーツに細身を包み、頭にハンチング、片手にアタッセケースを持ち、もう片手で傘をステッキのように突いてチャップリンを気取ったような若者が現れた。市川森一だった。はかま満男の弟子でコントを書いていると自己紹介した…」(上原正三、※7)

上原氏のコメントによると、若かりしころの市川氏のいでたちは、NHKドラマ「私が愛したウルトラセブン」(平成5年)に出てくる脚本家、石川新一のカッコとほぼ一緒です。
市川氏は、「快獣ブースカ」で脚本家デビューし、「帰ってきたウルトラマン」、「ウルトラマンエース」では、上原正三氏とともにメインライターをつとめました。





STORY



「地球時間24時06分、正体不明の宇宙船が侵入し、宇宙ステーションV3のパトロール隊と戦闘状態に入った」(浦野光)
宇宙ステーションV3にスクランブル発令。
「ステーションホーク出動!ステーションホーク!」
宇宙船を追尾する3機のステーションホーク1号。
しかし、あっという間に2機が撃破される。
残る1機は、V3戦闘隊長クラタの乗機。
「野郎…」(クラタ)
クラタ隊長は、血気にはやる猛者である。
「宇宙ステーションV3より防衛基地へ…」(V3通信隊員)
クラタ機と敵船の死闘…。
「緊急事態発生!」(V3通信隊員)
「ステーションホーク3機、帰還せず…」(V3通信隊員)
クラタ機も行方不明となった。


基地、参謀室。
マナベ参謀に呼ばれたキリヤマ隊長。
「キリヤマ、参りました」(キリヤマ)
「ステーションのパトロール機が撃破された」(マナベ参謀)
「聞きました…」(キリヤマ)
「隊長のクラタ君は、君の友人だったはずだな…」(マナベ参謀)
「はい、士官学校以来の親友で、…優秀なやつでした…」(キリヤマ)
過去形で答えるキリヤマ隊長。
その夜の作戦室。
ひとり、親友のことを心に思うキリヤマ隊長……。
(…あいつはきっと生きている…、生きているに違いない…)(キリヤマ)
たとえ過去形で答えていても、本心はそうではない。


パトロール中のウルトラホーク1号。
やっとの思いで飛行する機体を発見する。
「…こちらウルトラ警備隊。応答せよ、応答せよ」(フルハシ)
「ふん!応答せよ?…通信機なんて、とっくの昔にイカレちまったよ……。うるさいトンボめ!」(クラタ)
ステーションホークを視認するフルハシとアマギ。
並行して基地に向かう2機のホーク。
突然、地上の宇宙船から攻撃が!
宇宙船は、燃料切れのため着陸していたのだ。
被弾したウルトラホーク1号。
「チクショー、不時着だ!」(フルハシ) ←不時着カウンターB
攻撃コースに入るステーションホーク。
しかし、攻撃装置もイカレていた…。
「くそぉ……」(クラタ)
必死の回避も間に合わず、遂に被弾。
火を噴くコクピット。
「脱出だ!」(クラタ)
助手席の部下からの返事はない…。
ひとり射出座席で脱出するクラタ。
墜落するステーションホーク…。


部下をすべて失い、基地にたどり着いたクラタ。
…迎える、マナベ参謀。
「無事だったか…」(マナベ参謀)
「また一人で戻りました、今度は月へでも放り出しますか…」(クラタ)
バツが悪そうに、悪態をつくクラタ。
「ウルトラ警備隊のモロボシです。お迎えに来ました」(ダン)
ダンと作戦室に向かうクラタ。
そして、再会…。
「…クラタ!…この悪党!」(キリヤマ)
「おう、モグラめ、元気か!?」(クラタ)
意味ありげな呼び名を交わし、力強い握手をする同期生。
「元気そうじゃないか…」(キリヤマ)
満面の笑みをたたえるキリヤマ隊長をみて、心やすらぐダンとソガ。
「おい…、何しに来たんだ?」(キリヤマ)
「宇宙船を追ってきたんだ…」(クラタ)
「基地には、まだ宇宙船はキャッチされていないが……」(キリヤマ)
「奴は来ている…。奴は部下の仇だ!」(クラタ)
顔が固まるキリヤマ隊長。
「俺と出迎えのパトロール機がやられた!」(クラタ)
「隊長!それは、ホーク1号です」(ソガ)
「不時着飛行で墜落していったから、死んじゃおらんだろう…。もっともアイロス星人に捕まったら最期だが……」(クラタ)
「隊長、救出に行きますか?」(ダン)
「宇宙船は燃料を切らしている。場所は秩父山中だ!」(クラタ)
「よし、わかった」(キリヤマ)
「奴は俺に任せろ!」(クラタ)
部下の仇を自分で取りたいクラタ。
「地上の侵略者は警備隊の管轄だ。君は休養していてくれ」(キリヤマ)
クラタが無理することがわかっているキリヤマ隊長。
だからこそ、厳しく言い放つ…。


宇宙船内,、アイロス星人に捉えられたフルハシとアマギ。姿形をコピーして作られる2人の偽者。
そのコピー人間に命令。
「ナンバー74指令。地球防衛軍基地の固形燃料を奪い帰れ」(アイロス星人)
基地に向かう、フルハシとアマギのコピー。


基地に戻ってきたフルハシとアマギのコピー。
「少し顔色が悪いようですね…」(ダン)
ダンを睨むフルハシ。
「よう!生きとったか!」(クラタ)
悪態をついて出迎えるクラタ隊長。
「………」(フルハシ、アマギ)
「どうした?そんな幽霊でも見るような顔をして…」(クラタ)
意思のない目のフルハシとアマギ…。
(いや、確かに変だ…。あの目は人間の目ではない…)(ダン)
作戦室から出た二人を尾行するダン。
するとフルハシとアマギは燃料室へ入って行った。
「2人とも待て…」(ダン)
見とがめるダン。
ウルトラ・ガンを抜く2人。
「止めろ!」(ダン)
やむなく2人を撃つダン。
倒れるフルハシとアマギ…。
「ダン!何をするんだ?」(キリヤマ)
近寄るキリヤマ隊長…。
「なぜ殺した…?」(キリヤマ)
「偽者です!」(ダン)
「なにぃ!」(キリヤマ)
コールタールのように溶けてゆく2人。
「これは…?」(キリヤマ)
「燃料を奪いにきたのです。この分では、フルハシ隊員たちは…」(ダン)
「よし、燃料はやろう。その代わり、フルハシとアマギをすぐ返せと発信を…」(キリヤマ)
「モロボシ…ダン、やるな!」(クラタ)
「見ていたのか……」(キリヤマ)
嬉しそうな表情のクラタ隊長。


アイロス星人から入電。
燃料と人質との交換条件が示される。
「まるで、脅迫状ですね…」(ソガ)
「攻撃しよう!」(クラタ)
考え込むキリヤマ隊長。
「交換に応じよう…」(キリヤマ)
「みすみす逃がすのか!」(クラタ)
「…部下の命にはかえられん」(キリヤマ)
「俺の節はどうなる!…部下を皆殺しにされたんだぞ!」(クラタ)
「…立場が逆ならどうする!…部下を見殺しにするか!」(キリヤマ)
「燃料を与えてみろ…。犠牲者は2人じゃすまなくなるぞ!」(クラタ)
「侵略はしないといっている…」(キリヤマ)
「約束など守る相手じゃない!」(クラタ)
「攻撃するだけが、…指揮官の務めでもあるまい!」(キリヤマ)
「なんだとぉ!」(クラタ)
「隊長!…時間がありません!」(ダン)
沈黙する作戦室。
「固形燃料をパラシュート詰めにして、ホーク3号に積んでくれ。交換には、俺が行く!」(キリヤマ)
「ひとりで、か……」(クラタ)
秩父盆地に向かうホーク3号。


基地に残り、落ち着かないクラタ…。
作戦室の中をあっちに行ったり、こっちに来たり…。
傍らのソガ、からかうような口調で、
「クラタさん、なんにしてもガマンするのは、体に悪いそうですよ…」(ソガ)
「ん?…それもそうだな。よし、ちょっと行ってくるかぁ…!」(クラタ)
ヘルメットを片手に作戦室を出てゆこうとするクラタ。
そこにキリヤマ隊長から入電。
「こちらホーク3号、キリヤマだ。異常ないか?」(キリヤマ)
ちらっとクラタのほうを見て、
「はい!異常ありません」
クラタのことは黙っているソガ。


エレベーターの中。
マナベ参謀に出会うクラタ。
「隊長、あわててどちらへ?」(マナベ参謀)
バツが悪く、黙るクラタ。
「この下は、ホークの発進場だが…、それも鍵がないと入れない!」(マナベ参謀)
「鍵っ?…」(クラタ)
黙って、クラタに鍵を差し出すマナベ参謀…。
「キリヤマを守ってもらいたい、やつは、いい友人を持って幸せだ…」(マナベ参謀)
最敬礼するクラタ…。
「ありがとうございます!」(クラタ)


作戦室に慌てて飛び込んでくるダン。
「ソガ隊員!、クラタ隊長が出動しましたよ!」(ダン)
「あっ、そう」(ソガ)
他人事のように落ち着いているソガ。
「僕たちはどうするんです?」(ダン)
「うん…そうだなぁ、そろそろ出かけようかぁ?」(ソガ)
「はいっ!」(ダン)
笑いながら作戦室を出る2人。


秩父盆地上空。
指示通りに、固形燃料を投下するキリヤマ隊長。
「着陸せよ」(アイロス星人)
着陸態勢に入ろうとするホーク3号へ攻撃を開始するアイロス円盤。
間一髪、回避するホーク3号。
やはり、約束は守られなかった…。
そこにホーク1号が駆けつけて、円盤に攻撃を仕掛ける。
コクピットには、クラタ隊長。
「キリヤマ…、久しぶりに組んでやるか」(クラタ)
「よし、…よかろう」(キリヤマ)
嬉しそうなキリヤマ隊長。
キリヤマ&クラタのツープラトン攻撃。


宇宙船にたどり着いたダンとソガ。
「宇宙船には、まだ、アマギとフルハシが…」(ソガ、←呼び捨て)
2人を救出に向かうが、ソガが負傷。
「ここにいてください」(ダン)
「気をつけろよ!」(ソガ)
宇宙船に向かうダンは、弾幕に隠れて変身する。
船内に潜入し、フルハシとアマギを救出するセブン。
「さあ、急ぐんだ。さあ、早く!」(セブン)


巨大化したアイロス星人の登場。
宇宙人というよりは怪獣的デザインで、動きもケモノっぽいアイロス星人。
ケモノ宇宙人は、手強く、エメリューム光線は通用せずに、アイ・スラッガーまでも回転して跳ね返される。
ついにセブンは、最強光線ワイドショットをアイロス星人に発射した。
決まり手:初めてのワイドショット。爆裂死!


キリヤマ&クラタのツープラトン攻撃で宇宙船も撃破。
決着はついた…。並行するキリヤマとクラタ。
「クラタ…いい腕だ、ハッハッハ…。まだまだ、捨てたもんじゃないな」(キリヤマ)
「やぁ…おまえこそ…」(クラタ)
キリヤマ隊長に笑ったあと、真顔になり、
「…部下たちに、見せてやりたかった。」(クラタ)


ホーク2号で宇宙に帰るクラタ。
夜を待って、作戦室からひとり通信を入れるキリヤマ隊長。
「本部よりホーク2号へ、応答せよ」(キリヤマ)
「おう、こちらホーク2号…ホーク2号だ!」(クラタ)
威勢の良いクラタの声がヘッドフォンに鳴り響く。
「…こちら、キリヤマだ」(キリヤマ)
「キリヤマか…、もう会えそうもないな…」(クラタ)
相手がキリヤマ隊長とわかり、声のトーンがややさがる…。
「…クラタ、…気をつけてな、…命を粗末にすんなよ」(キリヤマ)
一瞬の沈黙…。
「おう……、おまえもな!」(クラタ)
いつのまにか隊長の背後に集まって、二人のやりとりを見守る隊員たち。



ど・う・で・す・か!
キリヤマ隊長とクラタ隊長。
士官学校の同期生ながら、今は別々の道を歩んでいる2人の関係が、大人の男のカッコいい友情として描かれています。戦争体験者としては最後の世代に当たる、キリヤマ隊長とクラタ隊長のやり取りには、本物の軍隊の匂いや戦友の概念が、ひしひしと伝わってきます。戦争を知らないソガが言う「キサマ」と、キリヤマ隊長の「貴様」とでは、バックボーンとして存在する人生の経験値に隔たりが多すぎ、結果として、言葉の質感が全く異なってくるのです。
こだわりの脚本家、市川森一氏ならではのセリフ回しと、2人の間柄をモチーフに作られた劇中楽曲(M46、M47、M48)は、固く結ばれた2人の友情と周りの人間関係を、的確に現わし、暖かな人間模様として描き切ることに成功しています。
それにしても、クラタ隊長は、なんて口下手なのでしょう…。口を開けば、やたらと悪態をついているようにみえますが、その割りに言ってる内容といえば、「…トンボめ!」とか「モグラ!」とか意味不明な悪口の部類に入らない悪態で、テレ隠しに言ってることがすぐに伝わり、逆に人の良さを感じてしまいます。
キリヤマ隊長の最後の一言は、クラタ隊長が今回きりのゲストだったことを示唆するものと思われます。しかし、好評だったのでしょう。同じ、市川森一脚本によって、キリヤマ&クラタシリーズ第2弾が、#35「月世界の戦慄」として描かれました。また、クラタ隊長は最終話でもゲスト出演しています。


読者様からの情報。

一人生き残ったクラタ隊長が、マナベ参謀に「また一人で戻りました。今度は月へでも放り出しますか」と悪態をつくシーンがありますが、この台詞の背景がはっきりしません。実は準備稿、決定稿のいずれにも伏線になるマナベ参謀の台詞があります。

(キリヤマ隊長がクラタとは士官学校以来の友人と答えた後)
マナベ「その男をステーションへ左遷したのは、私だ。
     …2年前、アイロス星人の円盤を深追いして、彼は自分の部隊を全滅させた…」

この台詞があればクラタ隊長の「また一人で〜」の意味も「今度は月へ〜」が再度の左遷を意味していることもわかるし、クラタ隊長がアイロス星人を知っていたのも納得できます。なぜカットされたのでしょうか。(左遷という表現が子供には難しいと判断された?)

                                (2001年11月 7日、PACIRUGO様より頂戴いたしました)


シーンの状況から考えて、切られたのはマナベ参謀のセリフだけのようですね。そうなると単に尺の問題だったと考えられます。今回は、戦闘シーンや空中戦シーンのボリュームが多めにとられているので、そちらで調整してもらいたかったですね。もっとも子供向けという観点からは戦闘シーンは切りたくないし、また特撮シーンには金がかかってますので使えるだけ使いたいという気持ちもあったことでしょう。この辺りに若手社員監督と新人ライターという組み合わせの弱い立場が見え隠れしているような気がします。
なおアイロス星人は、準備稿ではシリウス星人とされていたそうです。





AILIENS&MONSTARS



宇宙鳥人:アイロス星人。 ←おかしい、あれは鳥の動きではない…。
身長:30m
体重:1万3千t
出身:アイロス星
武器:口から出す必殺の溶解光線
特技:くるくるまわる
弱点:ジャンプするように動くため、中の人はとても疲れる





ACTOR&ACTRESS



クラタ隊長にビンゴ!なのが、南廣さん。
元はジャズバンドのドラマーで、バレエをやっていたキリヤマ隊長と、旧知の仲。仲間内では「サウス」と呼ばれ、プライベートでも仲良しだったそうです。

「彼は私が踊りをやっているとき、同じ劇場に出てたジャズバンドか何かで、ドラムたたいてたんです。だから前からよく知っていました。(中略)ほんと、気のいいやつでした。若くして亡くなってしまいましたが」(中山昭二:談、※4)

好評のクラタ隊長役に続いて、同じ円谷プロ制作の「マイティジャック」(68年4月〜6月)では、副隊長(隊長二谷英明)を演じ、続く「戦え!マイティジャク」(68年7月〜12月)では隊長に昇進しました。また、「帰ってきたウルトラマン」では、ほとんどクラタ隊長と同キャラ、宇宙ステーションの梶キャプテンとして帰ってきました。
ヒーロー物に欠かせない、気のいいアウトローのサブキャラクター。その標準となったのが、クラタ隊長のキャラだったのではないでしょうか。
宇宙ステーションV3 クラタ戦闘隊長(#13、#35、#48・49)。
南廣(みなみひろし)。平成元年3月4日逝去。享年60歳。





EXTRA



南さんが隊長の「戦え!マイティジャック」のある回、ゲストで、「弾超七」(だんちょうしち:ダンウルトラセブンではない…)という、トンでもない役名のヨットに乗った風来坊が出てきます。
演じるは、もちろんモロボシダン…。
監督は、もちろん満っちゃん…。
←ええかげんにせい!










                        





             「ウルトラセブン」ストーリー再録  第13話「V3から来た男」
              04/JUL/2001 初版発行  16/DEC/2001 第二版発行
              Copyright (C) 2001 Okuya Hiroshima All Rights Reserved


制作13話  脚本:市川森一
監督:鈴木俊継  特殊技術:高野宏一