制作22話 脚本:山浦弘靖 監督:鈴木俊継 特殊技術:大木 淳
夜の大海原、月明かりがきれいだ…。
泡立つ水面、浮上する怪しい物体。
侵略者の宇宙船か…?
見たことあるようなオープニングです。
そう、前回にも似たようなシーンがありました。#21、#22は同時進行で制作されたので、#21の第3黒潮丸遭難シーンと#22の海上シーンは、同時に撮影されたのでしょう。まあ、それは仕方がないにしても、連チャンで放映することもないと思いますが…。もっとも、制作スケジュールはすでにケツカッチン状態だったのでしょう…。
STORY
伊豆入田浜の別荘では、アンヌの友人ルリコの誕生パーティーが開かれていた。プレゼントを渡すアンヌ。
「まぁ…ステキ…」(ルリコ)
「その服にきっと似合うわよ。付けてご覧なさいよ…」(アンヌ)
「ええ…」(ルリコ)
BOW HOW! BOW HOW!
「犬がすごく吠えているわよ。変じゃない?」(アンヌ)
「ジョンよ。大方、近所の猫でも迷い込んだんでしょ…」(ルリコ)
犬の吠える声が急に止む…。
「あら、どうしたのかしら?」」(ルリコ)
「行ってみましょ!」(アンヌ)
外に出たアンヌとルリコは、手分けして犬を探すことにした。
玄関の方に廻ったアンヌはルリコの悲鳴を聞く。
「きゃぁぁぁぁぁぁ」(ルリコ)
姿を消したルリコ。
浜には不審な足跡が残されていた。
そして照明弾を撃つと、沖に宇宙船らしき物体が…。
「こちらアンヌ、本部応答願います…」(アンヌ)
伊豆半島の突端に近い、入田浜。
伊豆急行線の終点、黒船縁りの街「下田」より、さらに南に位置します。下田以北の海岸と違い、あまり人手の入っていない自然美とキレイな砂浜が、セールスポイントの海岸です。付近は、旧くからの別荘地で、今でも別荘や企業の保養所などが立ち並んでいます。
現場に到着するウルトラ警備隊。
「ソガとダンは海岸へ。フルハシは玄関の方を」(キリヤマ)
テキパキと指示を出す隊長。
「さぁ、落ち着いて思い出してみるんだ…」(キリヤマ)
おびえるアンヌの肩を抱いて、やさしく聞く隊長。
「それは確かに、円盤のような形をした物体だったんだな?」(キリヤマ)
「はい、円盤だったと思うんです。隊長、ルリ子は、連れ去られてしまったんでしょうか」(アンヌ)
「一応調べてみんと何とも言えん…」(キリヤマ)
「隊長。殺された犬を調べたんですが…。もの凄い力で、地面に叩き付けられています」(フルハシ)
「犬がか?」(キリヤマ)
「はっ…、とにかく相手は、大変な怪力の持ち主であることは間違いありません」(フルハシ)
「隊長、妙な足跡があります」(ダン)
「人間の足跡じゃないな…」(キリヤマ)
「足跡の間隔は平均1メートルです。その点から推測して、相手の身長は約2メートルくらいと思われます」(ソガ)
「よし、海上一帯を捜査してみよう」(キリヤマ)
「ハッ」(全員)
「アマギとアンヌは、この付近の捜索を続けてくれ」(キリヤマ)
←う〜ん、こういう展開だと「特別機動捜査隊」になるんだよね
ポインターが空を飛びました!ポインターにはホバー機能が搭載され、浮き上がることができるのです。ホバーとは、大型の送風機で地面や水面に空気を叩きつけて浮力を得る方法です。画面でも水上を進むポインター下の水面にはさざ波が立っています。なんと細かい演出なのでしょう!出版物等ではポインターは水陸両用と記されていますが、空陸両用の間違いです。水陸両用という場合は、旧ドイツ軍のシュビムワーゲンのように、機密性ボディで浸水を防ぎ、水面を船のように進むことができる車体構造のものです。しかしポインターは、水面上空に浮くことが出来るのです。やはり空陸両用車ですよね。また、前回では、ミサイルが発射されています。2回連続でのポインター新機能のお披露目です。このあたりも視聴率テコ入れ策の一環だったのでしょう。
アンヌが見たと言う海面辺りを捜索するポインター。
「右旋回…」(キリヤマ)
別段、変わりのない海上。
海面もポインターのホバー機能によるさざ波以外は、静かだ。
「隊長。異常はみられませんねぇ…」(フルハシ)
「よし、いったん本部に引き揚げよう…」(キリヤマ)
基地内映写室。
何枚も投影される同じような足跡の写真。
スライド操作係は勝部通信隊員(但し、ノンクレジット)。
「そっくりですねぇ…、いや同じ足跡と言った方がいいかもしれない。一体どこで発見されたんですか?」(キリヤマ)
「今のは、スイスのアルプス山中の羊の放牧場からだ」(タケナカ参謀)
写真が変わる。
「これは、アメリカのロッキー山麓の牛の牧場」(タケナカ参謀)
次の写真。
「それにこれは、アフリカの自然動物園からだ」(タケナカ参謀)
「じゃあ、世界各地で発見されているわけですか…」(キリヤマ)
「そうだ。しかもどの事件にも共通して言えることは、そこにいる動物が盗まれていることだよ。だが数は1頭だけだ…。しかし、どの事件を総合しても地球上のありとあらゆる動物が被害に遭っていることになる」
無線コール音。
「キリヤマだ」(キリヤマ)
「隊長。イシヤマルリコさんが、浜辺で発見されました」(アマギ)
「それで容態は?」(キリヤマ)
「意識は不明ですが、生命に別状はないようです」(アマギ)
「よし、すぐ基地に収容しよう」(キリヤマ)
浜辺に集まる隊員たち。
「様子はどうだ?」(フルハシ)
「うん、衰弱がひどい」(アマギ)
「とにかく基地へ…」(ダン)
目を開けるルリコ。
「あっルリコ。気が付いたのね!」(アンヌ)
嬉しそうなアンヌ…。
しかし、ルリコの目には生気がない。
「ルリコ!ルリコ!」(アンヌ)
一転して心配するアンヌ。
「様子がおかしいな…」(フルハシ)
ルリコの右腕に、奇妙なデキモノを見つけるダン。
浜辺でルリコを介抱しているアマギとアンヌをカメラはロングから狙います。このシーンから、画面はセピアのモノトーンに変わり、この先でも、ルリコがからむシーンではモノトーン画面が続くのです。とても子供番組とは思えない実験的な画面設計です。
また、ここのセピア・モノトーンの画面では、アップ多用やヨコ向きカメラ、そしてナナメ撮りと、実相寺監督張りの映像に仕上がっています。このようなトリッキーなアングルは、今回のモノトーン画面全般にわたって連なっているのです。画面のカラー設定と相まって、きわめて深みのある印象を与えています。
メデイカルセンターに搬入されたルリコ。
ルリコの右腕から採取した、デキモノの分析を急ぐ…。
「博士…?」(キリヤマ)
「まったく病症がつかめんのです。ただ、患者の染色体が、猛烈な勢いで減っているのが気になります」(キタムラ博士)
「染色体が…?」(キリヤマ)
「博士。これと何か、関係があるのではないでしょうか?」(ダン)
「今のところ、培養の結果を待って、方法を講じるしかないと思います」(キタムラ博士)
何ひとつ、わからない…。
メデイカルセンター。
「うっううう…」(ルリコ)
意識の無いまま苦悶するルリコ。
ベッドに駆け寄るアンヌ。
「はっ…!」(アンヌ)
ルリコの皮膚は緑色に変色し、やや発光している…。
「ルリコ!」(アンヌ)
BULUBULUBULU…。
何者かがメディカルセンターに入ってきた。
ルリコのデキモノのようなグロテスク・デザインのブラコ星人である。
触角をゆらせながら、アンヌに迫るブラコ星人。
「きゃぁぁぁ、ダァァァァン!…助けてぇぇぇ!…」(アンヌ)
廊下で叫び声を聞き、部屋に飛び込むダン。
「…あっ!」(ダン)
遅かった…?。アンヌは、床に転がっている…。
BULUBULU…部屋の隅にいるブラコ星人。
いきなり素手で宇宙人に組みかかる無謀なダン。
やはり劣勢、ブラコ星人の手がダンの首にかかる…。ダン、ピンチ…。
その時、光線がブラコ星人に命中した!
間一髪、助かったダン。撃ったのは、キリヤマ隊長だった。
「ダン、大丈夫か?」(キリヤマ)
「はっ…、油断しました。しかし、アンヌ隊員が…」(ダン)
2人の目の前で、ルリコと同じ緑色に変化するアンヌ。
「博士に連絡しよう…」(キリヤマ)
「知らせを受けたキタムラ博士は、アンヌやルリコの奇病を解明するために、ブラコ星人の死体を解剖することにした」(浦野光)
今回のアンヌは、私服(白いラメ入りワンピース)→隊員服→白衣(ドクター服)→緑色の皮膚と、衣装が変わります…。
おそらく、最もバリエーション豊富な回ではないでしょうか…。
アンヌの著書によると、私服は、自前と衣装があったそうです。
今回はどちらだったのでしょうか?
…えっ、緑色の皮膚は違うって…?
解剖は終わった。何かつかめたのだろうか…。
「キリヤマ隊長、大変なことがわかりました…。あの赤い胞子状ですが、宇宙人の食料らしいのです。解剖した宇宙人の胃の中から、半分消化しかかった赤い胞子が出てきたんですよ」(キタムラ)
赤い胞子とは、ルリコの右腕にあったデキモノのことである。
赤い胞子に普通のホルモンを注入する…。変化は起こらない。
「ところが、人間の女性の染色体を主体としたホルモンを注入しますと…」(キタムラ)
赤い胞子は、生き生きと増殖をはじめたではないか…!
「奴らが女性を狙うわけがわかった…」(キリヤマ)
「まるで、人間牧場ですね」(ダン)
「まさにその通り。あの宇宙人にとって、女性の体は食料である胞子を育てる、絶好の牧場というわけです」(キタムラ)
「このままでは、地球上の女性すべてが、人間牧場にされる恐れがありますね」(キリヤマ)
「そうか…、奴らがわざわざ、ルリコさんを帰してきた訳がわかった」(ダン)
「人類の危機です。こうなったからには、この2人の患者を隔離して、胞子が他の女性に空気感染するのを防ぐべきです」(キタムラ)
「はい、早速隔離します」(キリヤマ)
心拍音のような鼓動で、不気味に増殖の進む、シャーレの中の赤い胞子。
隔離病棟に運ばれるアンヌとルリコ。
「博士、彼女たちが助かる方法はないんでしょうか」(ダン)
「地球上では無理です。…だが、たったひとつ、考えられる方法があります」(キタムラ)
「どんな、方法ですか?」(ダン)
「いや、やっぱり不可能だ!」(キタムラ)
「博士…、教えてください…」(ダン)
「放射線アルファ73。これを患者にあてれば、おそらく…」(キタムラ)
「どこにあります?…どうすればいいんです?」(ダン)
「博士、どんな方法でも手に入れます」(キリヤマ)
「放射線アルファ73は、土星の鉱石にしか含まれていないのです…」(キタムラ)
「土星ですね…。隊長!ホーク2号を!」(ダン)
「…よし!」(キリヤマ)
「待ってください!ホーク2号でどんなに急いでも3日はかかります。患者の生命は、あと15時間は持つかどうかです…」(キタムラ)
「15時間?!」(ダン)
重い気持ちの沈黙…。
ブラコ星人の解剖を行うシーンから、それまでのセビア・モノトーンは、緑色の偏光フィルターを通した、グリーン・モノトーンに変わります。そのうえ、このシーンでは、廊下天井からの俯瞰や換気口からのナメ、頭上に間を開けたスリーショットなどといった、凝りに凝った画面設計で、緊迫したストーリーを更に盛り上げています。
しかし、隔離ケースに入れられたアンヌとルリコには、顔を隠すように白いシーツが掛けられたうえに、すぐ脇には菊の花が飾られているではありませんか…。これでは、死人です…。
その頃、伊豆沖の海上では、異変が起きつつあった。
ブラコ星人の円盤が、集まりだして、大宇宙船団を形成しつつあったのである。
ブラコ星人の円盤群を発見したホーク1号。
「よぉし!」(フルハシ)
空中戦に入る、ホーク1号。
しかし、多勢に無勢…、追い込まれるホーク1号。
支援要請が本部に入る。
ホーク3号で応援に急行するダン。
「ホーク3号、敵は神出鬼没。どこから来るかわからんぞ!」(フルハシ)
「了解!」(ダン)
(時間がない。ぼやぼやしてはいられない…。よぅし、こうなったら非常手段だ!)(ダン)
円盤群に正面から突っ込むダン。
「あ、危ない!」(アマギ)
「ダン!無茶するな!」(フルハシ)
「気でも狂ったのか!」(ソガ)
案の定、キリモミ状態で墜落。
その、どさくさに紛れてセブンに変身するダン。
「ダン!」(ソガ)
「ダァン!」(フルハシ)
「ダァァン!」(アマギ)
←変身のための特攻。仲間をダマしちゃ、いけないな…。
セブンを取り囲む円盤群。
網状光線でセブンの自由を奪う。
「隊長、セブンが連れ去られます」(フルハシ)
「ウルトラセブンは土星に行こうとしている。アンヌ隊員やルリコさんの奇病を直すためだ。ただちに援護しろ!」(キリヤマ)
←セブンが土星に行きたい理由を隊長は知っていた…どうして?。
「先ず、円盤の編隊飛行を崩さなきゃ!」(アマギ)
「よぅし、かく乱戦法だ!」(フルハシ)
円盤群に、キリモミで突っ込むホーク1号。
拘束ネットを破壊し、セブンは自由を取り戻す。
ホーク1号に敬礼をして、土星に向かうセブン。
残る円盤は、ホーク1号によって、駆逐された。
#8「狙われた街」の夕景シーンで名高い、大木淳特技監督。既存の特撮技術の殻を破る奇抜な発想から、幾多の名場面を創出しました。
同時進行回である#21、#22の2作品では、ウルトラホーク1号に宙返りをさせたり、キリモミ飛行しながらのミサイル発射、また、雨あられの弾光の火花やら、今までにない迫力満点の空戦シーンです。もっとも、両作品ともセブンの戦闘シーンは地味なものでしたので、その埋め合わせという感もしないわけではありませんが…。
くるくる回りながらミサイルを撃つホーク1号…、あれ?ホークってピアノ線で吊ってあるんじゃないの…?
ここが、アイデアなのです。さて、わかるかな?
セブンが土星から持ち帰った、アルファ73が放射される。
緊張した面持ちのキタムラ博士。
皮膚の色が元に戻る。
「あっ…」(キリヤマ)
2人揃って、目をパチッと開ける、アンヌとルリ子。
「あっ、生き返った!」(フルハシ) ←死んでないって!
微笑む、アンヌとルリ子。
握手をして喜び労う、キリヤマ隊長とキタムラ博士。
「気がつくとき、2人は目をスーッと静かに開くことになっていました。ところが、島さん(※ルリコ役:島つかさ)は、ちゃんとできるのですが、私はどうしてもうまくできません。何度トライしても、まぶたがブルブル震えてNGを連発。結局、2人そろって、目をパチッと開く演技に変更してもらったのでした。私って、こういうところは本当に不器用なんです」(ひし美ゆり子、※2)
ソガとアマギが帰ってきた。
「隊長、生き返ったんですね」(アマギ) ←だから、死んでないって!
「ダンはどうした?」(キリヤマ)
暗い表情のソガとアマギ。
「はぁ…。どうしても、見つかりません…」(アマギ)
「あいつ…、無理に突っ込むから…」(ソガ)
「なに、ダンのことだ…。きっと、どこかで生きているさ」(キリヤマ)
その頃作戦室では、心配する皆をよそに、土星の絵を画いて悦にいる無邪気なダン…。
←そりゃ、ないだろ…ダン!。
ALIENS&MOSTERS
宇宙怪人:ブラコ星人
身長:2m
体重:170s
出身:ブラコ星
武器:円盤群による集団攻撃
特徴:触手を揺さぶる姿が、露出狂のオヤジに見える
決まり手:ウルトラ・ガン(キリヤマ隊長発射)
LOCATION
伊豆入田浜
東伊豆道路(現国道135号線、ポインター走行シーン)
「ウルトラセブン」ストーリー再録 第22話「人間牧場」
12/JUL/2001 初版発行 08/JAN/2002 第二版発行
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