代謝性,内分泌性疾患のX線診断
−第1回湯布院ゼミのレジメ−

1996.10.19 真野 勇夫
【 要約(言いたいこと) 】 1.骨粗鬆症と骨軟化症の鑑別を中心としたその病態(概念的なもの?) 骨粗鬆症・・・Bone Matrix が不足している。 骨軟化症・・・ミネラル化の不足 2.骨粗鬆症の診断基準 PBMの−2.5 SD以下(椎体骨折がある場合は−1.5SD以下)を骨粗鬆症とする。 −2.5 SDは椎体骨折閾値と一致する。 3.腎性骨異栄養症が臨床的にはMajorである。その病態を理解することが大切。 4.骨皮質の減少のタイプと病態を結びつけるようにX線写真を見よう。 【 資料 】 各疾患のアウトライン 1.骨軟化症(Osteomalacia)とは? 骨粗鬆症の石灰化障害に基づき、骨塩の沈着をみない骨基質である類骨組織が過剰になった状態。 原因の殆どは、ビタミンD欠乏,又はPの欠乏である。 2.骨粗鬆症(Osteoporosis)とは? 骨量の低下を主徴とし、腰痛など臨床症状を伴ったもの。 骨量( Bone mass)とは骨基質(コラ−ゲン線維)と骨ミネラル(Ca,P)の総和を意味する。 ・原発性骨粗鬆症 1) 閉経後骨粗鬆症 2) 老人性骨粗鬆症 ・続発性骨粗鬆症 1) 栄養性骨粗鬆症 2) 副腎皮質ホルモン過剰 3) 廃用性骨粗鬆症 3.腎性骨異栄養症(Renal Osteodystrophy)とは? 腎疾患に伴って起こるCa,Pを中心とする一連のホルモン,タンパク代謝,電解質の異常に基づ く骨組織の病的状態。その原因の殆どは慢性腎不全によるものである。  医学全般の進歩で腎不 全患者の長期生存例も増加しており、放射線学的に腎性骨異栄養症を診断する機会が多くなってい る。骨変化としては繊維性骨炎(副甲状腺機能亢進症),骨粗鬆症,骨軟化症,転移性石灰化など 多彩である。 4.副甲状腺機能亢進症(Hyperparathyroidism)とは? PTHが過剰に分泌し、このホルモンの標的器官に作用してCa,Pなどの代謝が生理的範囲を越 えたもの。原発性と続発性に分けられる。原発性副甲状腺機能亢進症は稀な疾患である。 5.続発性副甲状腺機能亢進症(Secondary Hyperparathyroidism)とは? 殆どが慢性腎不全によるものである。腎疾患に基づく慢性の低Ca血症の原因としては、    1) 腎よりの無機Pの排泄減少に伴う高P血症。   2) 腎における活性型ビタミンDの産生低下による小腸Ca吸収低下。 分泌腎機能の低下でPとCaの選択的濾過が出来なくなり、P×Ca 70 mg/100ml(正常40 mg/100ml) を越えるとイオンは塩となり組織に沈着する(転移性石灰化)。 又、PTHはある環境下では溶骨 性(破骨細胞刺激)ではなく骨硬化性(骨芽細胞刺 激)に動く。 骨粗鬆症の診断基準 1.定義 : 「骨量が減少し、かつ骨組織の微細構造が変化し、その為に骨が脆くなり、骨折し易くな った病態」( 1993 年 国際骨粗鬆症学会) 2.診断基準の経緯 1988年 厚生省シルバ−サイエンス骨粗鬆症研究会によるスコアリングシステム   1993年  〃 改訂版(骨塩量のdataを追加)   1995年 日本骨代謝学会 新たな診断基準案の作成 3.診断基準(1993年)の問題点 1) 骨量低下の評価基準がPBMの−2SDと甘い。   2) 骨量測定値の比重が高く、これだけで高齢者の大多数が骨粗鬆症になってしまう。 例:骨量測定器でPBMの−2SD以下の場合、3点が与えられる。血液検査値が正常の場合、1点 が加算される。これだけで“骨粗鬆症ほぼ確定”という4点に達する。これに腰痛があれば1点 が加算され、“骨粗鬆症確定”という5点を得る。   結論:骨粗鬆症の診断は骨量測定だけでは出来ない。 4.新しい診断基準(1995年)  A : 正常              骨萎縮度 0   B : 骨量減少             〃   1   C : 骨粗鬆症(椎体骨折(−))    〃   2以上   D :  〃  ( 〃  (+))    〃   1以上 骨萎縮度の判定   1) 腰椎のX線写真による場合       0度 : 正常       1〃 : 縦の骨梁が目立つ。       2〃 :   〃  粗となる。       3〃 :   〃  不明瞭となる。   2) 腰椎のDXA値を用いる場合       1度 : PBMの−1.5 SD以下       2〃 :  〃  −2.5 SD以下 椎体圧迫骨折の判定   1) 胸腰椎の側面X線写真にて判定する。   2) C/A,C/Pのいずれかが 0.8以下。又は、A/Pが 0.75 以下の場合を圧迫骨折と判定する。       A:椎体前縁の高さ       C:〃 中央の高さ       O:〃 後縁の高さ   3) 椎体の高さが全体的に減少する場合、判定椎体の上位,下位椎体より高さが20%以上減じている 場合に圧迫骨折とする。   4) 臨床的に新鮮な骨折例でX線写真上、明らかに骨皮質の連続性が断たれたものは圧迫骨折として もよい。 5)Q&A   QBMC1:骨粗鬆症は疾患なのか老化なのか? ABMC1:四肢や脊椎が骨折しやすいまでに骨量が減少した状態の骨粗鬆症は疾患といえるが、 骨折の危険域にない程度の骨量減少状態を疾患とはいいがたい。  QBMC2:予防・治療はいつ開始すべきなのか? ABMC2:明らかに骨量が減少してからの増骨は難しいので、急速な骨量減少が予知された時 点で治療を開始する。 骨塩定量検査に関するQ&Aに戻る 6.骨折の閾値   1) PBMの75%(福永仁夫 画像診断 1994 Vol 14 No.12 p1362)   2) PBMの80%(山本逸雄 画像診断 1994 Vol 14 No.12 p1365) 【参考文献】 臨床リハ(1995.5)特集「骨粗鬆症 Update 」 ラジオたんぱ医学専門番組「知っておきたいオステオポロ−シス」1995.10 各疾患のX線所見(アンダ−ラインは特異的所見) A.骨粗鬆症 1.骨粗鬆症の特徴は以下のとおりである。     1) 骨基質の形成不全又は吸収の増大による骨量の減少。    2) 標準X線写真上にて骨のX線透過性の増大と皮質の菲薄化 2.骨粗鬆症の変化が生じる場所は、     1) 軸骨 (脊椎と骨盤)     2) 周辺骨の関節周辺領域 3.脊椎に於いて、以下のような骨粗鬆症の重症度を示す特徴的なX線所見が認められることがある。     1) “空箱" 様像 (早期)     2) “魚椎"     3) 多発性ウエッヂ型骨折 (晩期) 4.椎体前縁,後縁が正常に保たれた状態で椎体終板の著しい濃密化や硬化を伴った椎体終板の圧縮は ステロイド誘発骨粗鬆症の特徴である(クッシング症候群で見られる内因性のものか又は副腎皮質 ホルモンの摂取過剰の場合に見られる外因性のものかのいずれか)。 B.骨軟化症 1.X線写真学的に骨軟化症は以下のような特徴を有する。     1) 全般的な乏骨像     2) 骨皮質の対称性のX線透過性線状陰影 (ル−サ−の領域又は擬骨折)       しかし、これは骨軟化症疾患の5%程度にしか見られない。 C.副甲状腺機能亢進症 1.原発性(高カルシウム血症性)副甲状腺機能亢進症の典型的なX線像は、     1) 全身性の乏骨像と骨膜下, 軟骨下, 骨皮質の吸収像。     2) 鎖骨の肩峰端の吸収像。     3) 頭蓋の" 塩ゴマ" 様像     4) いろいろな大きさの嚢腫様病変 (“ブラウン腫瘍")。 2.骨の骨膜下の吸収像 : この変化は第3指,第2指の中節骨の橈骨側に特徴的に生じるので背掌 方向の写真にて最もよく描出される。 3.骨皮質の吸収(トンネリング)は手の拡大撮影に最もよく描出される。それは中手骨の骨皮質に見 られる。 4.続発性副甲状腺機能亢進症(腎疾患によるもの)はX線写真学的に以下のように分類される。     1) 骨濃度の全般的な増大。     2) “ラガ−シャツ" 脊椎として知られている椎体終板に接した硬化層。     3) 軟部組織の石灰化 D.多発性骨髄炎 1.点在する溶骨性骨破壊像と内骨膜の Scalloping は多発性骨髄炎の特徴である。 E.くる病 1.X線検査に於いて、くる病は以下のような特徴を有する。     1) 全般的な乏骨像     2) 長管骨、特に大腿骨と脛骨の彎曲変形     3) 成長板の広がり (石灰化の暫定層に於けるミネラル化の不足により生じるもの)と特に上腕 骨近位部, 橈骨,尺骨の遠位部, 大腿骨遠位部での骨幹端のカッピングとフレアリング。 腎性骨異栄養症のX線像  腎性骨異栄養症のX線像は、副甲状腺機能亢進症による線維性骨炎・骨軟化症・骨粗鬆症・骨硬化症・ 骨膜性骨新生(骨肥厚)・転移性石灰化などの多要素によるスペクトル的複合像であるが、線維性骨炎 と骨軟化症とが主な二つの要素である。わが国の成人では前者が主体である。 1.慢性腎不全に伴う線維性骨炎   本症に見られる多くの骨変化のうちで、最も早期より変化が現れ、臨床的に意義のあるのは手指骨の 変化であり、特に管状骨の骨膜下骨吸収像である。(3型に分類)   1)外骨膜生骨吸収    骨膜下骨吸収そのものであり、副甲状腺機能亢進症そのものを指すといってよい特異的所見である。   2)骨皮質内骨吸収    骨代謝が盛んな状態(副甲状腺機能亢進症等)で見られる。    骨皮質内のHarvers 管のresorption cavities が増加した状態であり、この幅が200 〜400 μある ので肉眼的に骨皮質内の線状透亮像として見ることが出来る。  3) 内骨膜生骨吸収    最も非特異的であり、骨代謝の亢進した状態に併発し、また慢性骨粗鬆症では主たる所見として骨 粗鬆症皮質の菲薄化を生じる。 2.慢性腎不全に伴う骨軟化症   骨軟化症の決め手である偽骨折をみることは極めて稀である。 3.慢性腎不全に伴う骨粗鬆症 4.慢性腎不全に伴う骨硬化症  よく知られたラガ−シャツ脊椎像を呈することがあるが実際には稀な所見である。 5.慢性腎不全に伴う骨膜生骨新生および骨肥厚   副甲状腺機能亢進症により骨膜下の骨皮質が線維性骨炎による線維性結合組織によって置換され、骨 膜が持ち上げられることが刺激となって骨新生が生じる。 6.慢性腎不全に伴う転移性石灰化   慢性腎不全に伴う動脈壁の石灰化は、中膜の石灰化が特徴であって動脈閉塞を来すことは稀である。 関節軟骨の石灰化は原発性副甲状腺機能亢進症ではしばしば見られるが、慢性腎不全では稀である。 Ca代謝調節ホルモンの作用 1.骨組織に影響を及ぼす主な内分泌腺と分泌されるホルモン    1) 下垂体   成長ホルモン    2) 甲状腺   甲状腺ホルモン    3) 副甲状腺  副甲状腺ホルモン    4) 副腎皮質  副腎皮質ホルモン    5) 性腺    男性ホルモン,女性ホルモン 2.Ca代謝調節ホルモン    1) 副甲状腺ホルモン(PTH)      ・ 破骨細胞を直接刺激し、骨吸収によりCaの移動を起こさせる。      ・ 腎尿細管でのPの再吸収を抑制,Caの再吸収を促進する。      ・ 腸管でのCa,Pの吸収を促進する。      ・ ビタミンDの活性化(水酸化)。     いずれも、血清Caを上昇させるように働く。    2) カルチトニン(CT)      血清Caが上昇すると、それに反応して甲状腺から分泌される。破骨細胞による骨吸収を抑制 し、又骨新生を促進する作用もあるので血清Caを低下させる。    3) ビタミンD      ・ 腸管からのCa吸収      ・ 骨に直接作用し副甲状腺ホルモンによる骨吸収に相乗的に働く。      ・ 腎尿細管でのCa,Pの再吸収。(あまり重要でない)       ・ 類骨組織の石灰化に対する触媒作用。 従って、ビタミンDが欠乏すると石灰化しない類骨組織がたまり、臨床的にはクル病・骨軟化 症が起こる。 以上



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