心カテ室における被ばく環境の認識
天心堂 へつぎ病院 放射線科 診療放射線技師 巨勢 秋男
共同実験者 桑原 宏
【目的】
三大疾患のひとつである心筋梗塞あるいは、その予備群の狭心症等の冠動脈疾患に対し、心臓カテーテル検査が増加する傾向にあり当院でも年々検査件数が多くなってきている。今回我々診療放射線技師は、心臓カテーテル検査(以下 心カテ)スタッフ全員に、放射線被ばく、そして その低減をするための防護の重要性について認識するために心カテ検査時の散乱線を測定し、公表することにした。
【測定方法】@実際の検査と同条件にするため、アクリルファントム20cmを人体とみなしA散乱線、いわゆるスタッフの被ばく線量として心カテ室内の空間線量を電離箱サーベイメーターで測定した。測定は、X線曝射地点を中心とした、8方向の距離50cm100cm150cm200cm、高さ50cm100cm150cm96ポイント(実際、測定可能であったのは75ポイント)とした。測定開始前は、アンギュレーションを7方向を考えたが管球の負荷が多い為AP一方向のみの測定とした。
(全曝射回数=75ポイント×3(測定回数)+17(追加測定)=242回曝射)
【測定使用機器】

電離箱式サーベイメータ、アクリル板(厚さ10cm)

Cアーム 発生器:D150GH-11 HIGH VOLTAGE GENERA

管球:G-1582-B1 SERIES 1500K

Foucus:0.6/1.2

制御卓:HD150G-60 CONTROL

制御キャビネット:HD150G-60 CONTROL CABINET

天井走行器:CH-50

I.I.:IA−9VM

コリメータ:F-20

スタータ:SA-50

検診台:KS-50

【測定結果とまとめ】
@許容区域・準危険区域・危険区域の決定
区域を決定するにあたり、高さにおける散乱線量分布の割合が同一でことから、各高さの平均値を用いず、通常全員が防護されていない水晶体・甲状腺の高さである150cmの測定値を用いた。
表1 放射線従事者の線量当量限度
評価対象線量限度
全身50mSV/
水晶体150mSV/
皮膚500mSV/
妊娠可能な女子の腹部13mSV/3ヶ月

1の線量限度より心臓カテーテル検査(以下、心カテ)1年間(250例)の線量が50mSV未満の区域を許容区域、50mSV以上 150mSV未満の区域を準危険区域、150mSV以上の区域を危険区域とし天心堂心カテ室の線量管理区域の定義とした。(2)
表2 天心堂心カテ室の線量管理区域の定義
許容区域心臓カテーテル検査1年間の線量が50mSV未満の区域
準危険区域心臓カテーテル検査1年間の線量が50mSV以上150mSV未満の区域
危険区域心臓カテーテル検査1年間の線量が150mSV以上の区域

 
【計算方法の詳細】

実物を見る場合は、図をクリックして下さい。
(表3 測定ポイント図)
●測定は、8方向の距離50cm100cm150cm200cm、高さ50cm100cm
150cmのポイント(3)3秒曝射で行い3回測定の平均値用いた。
CAG1方向の通常曝射時間10秒に換算した。…値A
LVG1方向検査時の線量として15秒に換算した…値B
心カテ1例の線量としてCAG11方向+LVG1方向の値を求め、I.I.をファントムから10cm離した場合の線量は密着させた場合の3.3倍という測定結果より3.3を乗じた。
心カテ1例の線量=(A×11)+B × 3.3
●1年間の心カテ時における線量として、年間の心カテを250症例として心カテ1例の線量に250を乗じた。
1年間の心カテ時における線量=心カテ1例の線量 × 250
測定結果と計算により、散乱線管理区域図を作成した。(1)

(図1 散乱線管理区域図)
(測定結果の参考資料)
参考1 AP-150cm-3sec
 
Y点-I.I.密着
Y点-I.I.5cm up
Y点-I.I.10cm up
Y点-Pb 0.5mm
AVG
0.51
1.20
1.703
0.26
10sec
1.69
3.99
5.677
0.88
15sec
2.54
5.99
8.51
1.33
CAG9
15.29
35.99
51.09
7.99
CAG11
18.69
43.99
62.45
9.77
1例
21.24
49.99
70.97
11.11
150例
3187.49
7499.99
10645.82
1666.66
200例
4249.99
9999.99
14194.43
2222.22
250例
5312.49
12499.98
17743.03
2777.77

(単位:μSV
参考1は、150cmの高さにおけるY点においての測定と計算結果です。

測定結果より、I.I.をファントムに密着させた場合に比べ5cm離すと2.35倍、10cm離すと3.3倍の線量が散乱されることが解かった。当院使用の甲状腺プロテクター(鉛当量0.5mm)を着用した場合の線量は、未着用に比べ約1/2の線量になった。

 
参考2 LAO40-100cm-3sec
 
E
Z
Y Pb 0.35mm
AVG
5.96
6.6
0.31




(単位:μSV

参考2は、100cmの高さにおけるのLAO40°のE点・Z点・Y点においての測定結果です。

Y点における当院使用のエプロン型プロテクター(鉛当量0.35mm)を着用した場合の線量は、未着用に比べ約1/20 1/25の線量になった。

(Y点におけるプロテクターなしの場合の線量は、測定器の針が振り切れた為、E点・Z点を対照とした。)

【結果】心カテ室の散乱線の線量分布の把握ができたことにより、X線の存在を常に認識することができるようになった。術者は、透視及び撮影時間を必要最小限にすることを念頭において検査を施行し、その他スタッフは、線源より少しでも距離を取るように心掛けるようにしている。

【測定後記】
今回の測定におては、結果を出したものの少々疑問が残る事になった。
アクリル板の厚さは、20cm分を用いたが多すぎたのではないか?
AP方向のみの測定で終了せず、日を改めて他方向も測定した方がよかったのではないか?
以上 1997年11月8日


実験・測定のスペシャリストの皆様へ
我々の、実験測定はまだまだ不備が多いと自覚しております。どうかご意見、ご忠告等よろしくお願い致します。
天心堂へつぎ病院 放射線科 診療放射線技師 巨勢 秋男



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