散乱]線除去用グリッド anti-scatter grids
]線検査時に発生して,受像面に入射する散乱線を効果的に除去,減少させて,画質の改善を図る器具である(以下グリッドと略). 散乱線は,被検体中を透過する入射]線(一次]線)とは無関係な方向に放射する]線で,二次]線とも呼ばれ写真の画質に影響し,コントラストを低下させ,鮮鋭度も悪くする.管電圧が高いほど,被検体が厚いほど,高原子番号の物質であるほど,散乱線の影響は大きい.一般写真のフレアや「カブリ」と同様な作用をするので除去しなければならない.
1)グリッドの構造 ]線吸収の大きい物質(鉛,タングステンなど)の金属はくと,]線吸収の小さい中間物質(紙,木,アルミニウム,樹脂など)の薄板を交互に並べ,板状にしたものである.金属はくに平行に入射する]線のみを通過させ,斜入する散乱線は金属はくで吸収し,受像部に到達させないようにする.
 
2)グリッドの性能と基準 グリッドの品質を表わすのに,次の語を用いる.
 a)幾何学的性能
 グリッド比gridratio:γ 金属はくの高さ(h)と隣接するはくとの間隔(D)との比,γ=h/Dで示し,間隔を1にとり,5:1,10:1というふうに表示する.単に5,10と表示してもよい.一般にグリッド比の高いほど除去効率がよい.管電圧,被検体の状態によって4:1〜12:1の範囲のものがよく用いられる.
 グリッド密度 grid density:N グリッドの中央部での,横1cmあたりのはくの本数を示す.グリッド密度の大きいものほどはくの陰影が写真上で目立たない.30〜60本/cmのものが用いられる.集束距離,使用距離限界,鉛容積もある.
 b)物理的性能
(1)露出倍数(Bucky係数):B 全]線透過率(℃)の逆数(1/Tt)で,低いほど効率がよい.
(2)コントラスト改善度:K 全]線透過率(Tt)に対する一次]線透過率(Tp)の比(Tp/Tt)で表わし,全]線に対する一次]線の比の相対的な改善能を示しており,大きいほどよい.
(3)選択度:煤@散乱]線透過率(Ts)に対する一次]線透過率(Tp)の比(Tp/Ts)で表わし,散乱]線に対する一次]線の比の相対的な改善を示し,大きいほどよい.
〔註〕Tt,Tp,Tsは,全]線,一次]線,散乱]線のグリッドの有無の]線透過率の比である.
 これらは管電圧,被検体の状態によっても変化するので,一般的ではないが,一応の基準にはなる(測定法については,JISZ4910を参照).
 
3)グリッドの種類 ]線は,焦点から放射状に進むので,撮影距離によってはグリッドの両端のはくで吸収され,縞目となって現われる.これを防ぐために,50〜100cmの近距離撮影(透視台など)では,はくの面の延長が一線に集まる線(集束線)上に焦点を位置させる(集束グリッド).高グリッド比のグリッドでは遠距離撮影も同様にする.1mまたはそれ以上では,]線が必要範囲ではほぼ平行であるので,はくが互いに平行な平行グリッドでもよい.
集束グリッドは,]線管−グリッド間の距離が限定され,中心の一次]線透過率と周辺部の一次]線透過率の百分率が60%以上である距離の範囲(許容範囲)を使用距離限界という.はずれるとフィルムに到達する線量が減少し,かえって縞目もでるので注意がいる.
 はくの配列が一方向のもの(通称シングルグリツドという)と,ある角度で互いに交差したもの(クロスグリッド)がある.後者は普通直交しており,グリッド比を高くしたい場合に採用され,散乱線の除去効率がよい.
 グリッドが移動して,グリッドの縞目が消える運動グリッド(Bucky−Blende)と,静止固定して使用する静止グリッド(Lysholm−Blende)がある.
〔註〕]線グリッドは,1912年にBucky−Blendeが,次いで1928年にLysholm−Blendeが考案された.
 運動グリッドでは,グリッドの移動が一方向のみのものと,往復運動のもの,さらに複雑な運動をするものとがある.これは写真上に縞目が出ないので,はくが厚くて密度の小さいものが使用でき,除去効率がよいが,被検体とカセッテ間があくので,鮮鋭度がやや低下するおそれがある. 静止グリッドは高グリッド密度の製品ができていて,はくの影が目立たず,被検体をカセッテに密着でき画質がよい.また,カセッテに組みこんだものがあって取扱いが楽である. 
 
4)グリッド使用上の注意 静止グリッドは変形しやすいので,不用意に部分的な圧力をかけたりしてはいけない.一度変形すると写真上に縞目むらができて,元の姿にもどすのは難しい.
 撮影条件や,被検体の状態によるグリッドの使いわけは難しいが,一般に駆幹骨などの厚い部位には運動グリッドを,他は静止グリッドを使用する.
 グリッドの必要以上の乱用(幼児や低圧の胸部撮影,高グリッド比のものなど)は,照射線量を増加させ,]線被曝の増大,照射時間の延長につながる.その選択には十分配慮し,無効果,悪影響を極力避けねばならない.また使用時は,]線錐中心とグリッド中心面が直交するようにしなければ,フィルム上で濃度の非対称性を生じる.とくに高いグリッド比,運動形の場合注意が必要で,ときどきチェックするべきである.


 
 

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