フランスの森の旅


 フランスへの旅もパリ周辺での会議などが多く、最近四回目にして、はじめて森林地帯を比較的詳しく見ることができました。  
 フランスの森林も山地型と平地型の二種類あります。ドイツとの国境地帯で第一次世界対戦後にフランスがドイツから取り戻したというアルザス地方、ブドウ畑や傾斜地の牧草地が目につきますが、ここにはノーベル平和賞受賞者のアルベルト・シュヴァイツアー博士の生地のケゼルスベルグの小さな中世風の町もあり、いわゆる山地型の森林の多い地帯です。
 森林の様子は、ドイツとは大きく異なり、ナラやカエデさらにはサクラ、ナナカマドなどの広葉樹が混ざりあった様子は雑然とはしていますが暖かみを感じさせます。
 私有林は小規模所有者が多いということで、また野鹿の被害も多いといいながらも森林所有者の一人は、萌芽による更新や苗木の植栽も行い複層林型の森づくりの説明をしてくれましたが、林業は楽しみながら行うものであるとの結論でむしろ明るい響きを感じました。
 平地型の森林では、戦後は人工造林も盛んに行われていまして、ワインで有名なボルドー(アキテーヌ地方)では百万ヘクタールものマツ(フランス海岸松)の大森林が出現しています。リモージュ焼で名高いリムーザン地方ではダグラスファー(いわゆる米松)の造林が盛んで約三〇万ヘクタールの森林になっていますが丁度収穫期に達していること、また良材の生産についても自信を持っていまして木材を日本に輸出したいと張り切っている姿が印象的でした。
 どうもわれわれ日本人が考えていたより、フランスでは林業は大変盛んといっても良いと思われます。
 森林面積は日本の六割り程ですが年間の木材生産量は薪炭用を含めますと五千万立方メートルを超えるいうことですからわが国の生産量を大きく上回っているわけです。
 さて国有林ですが、観光旅行者も訪れるパリ郊外のフォンティーヌブローの森のほかトロンセの森を見せていただきましたが、共通点は家具やワインの樽など貴重な木材として利用価値の高いミズナラ林の育成です。最長二五〇年程の長伐期方式で天然落下の種子の発芽により後継樹を育成する方式ですが、自然林の手法といって良いと思います。 トロンセの森(オーヴェルニュ地方)には、「コルベールの森」が設定されていますが、これは一六〇〇年代後半、当時の森林破壊に対し、財務総監のコルベールが保護に乗り出し、維持を図ったことを記念したものです。樹齢三〇〇年を超える「オー・マシフ」(高い木立ちの意)と呼ばれるミズナラの大木からなる美林は圧巻といえます。
 次に人材育成ですが、ナンシーがその中心といっても良いでしょう。ここにグランゼコールの一つである森林大学校(ENGREF)があります。ここに入校するには大学で二年履修後に選抜試験を受ける必要があり、さらに五年間の教育を受けて森林行政などの仕事に就くわけですからハイレベルの学習が課されているといえます。
 このほかは森林公社(フランスでは国有林と公有林を一元的に公社で管理経営している)が運営するフォレスターのトレーニングセンターもありますが、ここはヨーロッパ全域に門戸を解放しているという説明がありました。
 なおフランスの森林政策で注目されるものに「森林基金」があります、この基金は 「森林生産物税」を原資とするもので、造林地の半分はこの基金からの補助によるということです。なお地方の林業の現地での説明では、一般消費税の上乗せ税といえるものですとのことでした。
 終りに林業が他の産業とは異なり数十年あるいは百年を超える時間の中で営まれる異色の分野でありますことはどこの国でも同じといえますが、何十年も先のことは分らないし、四六時中つきっきりでなくても管理が可能という長所もあるので、楽観主義に立って行うべきものであると考えているというフランス人の言葉が印象に残こりました。



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