国有林野事業の抜本的改革についての林政審答申の要点

平成9年12月18日

(国有林野事業の現状認識等)
*国有林野事業の歴史
*厳しい財務状況、収支動向等
 資産と負債の関係については、時価評価による試算(すべての資産を売却・換金すること等を前提に売却時価で評価する方法)では、資産が負債を上回っているが、事業体の健全性を重視観点からの試算(資産について簿価と時価のうち低い方で評価する方法)では、資産は実質的には負債にほぼ等しい状態で厳しい財務状況(平成7年度末貸借対照表:資産6兆6千億円、負債3兆4千億円)。
*過去における施策の評価、プラス面とマイナス面
 プラス面:国土の保全等に特に寄与したほか、時代の要請に応じた木材供給と造林、地域振興、一般会計への貢献、森林減少の防止と原生的な森林生態系保護、技術の開発普及。
 マイナス面:成長量を上回る伐採の長期継続、一律的拡大造林、事業規模拡大に連動した要員圧縮の遅れ、一般会計繰入の拡大テンポの遅れ、林業利回りを上回る借入金依存、業務運営の簡素・効率性に対する配慮の欠如、不十分な情報開示や国民参加。

(抜本的改革のための基本的考え方)
現在の財務状況及び今後の収支の見通しを踏まえれば、将来にわたって国有林の使命を果たしていくことが困難となっている。このため、国有林野事業の抜本的な改革を行うことが必要である。
今回の抜本的改革に当たっての基本的考え方は、国有林を「国民の」共通財産として、「国民の参加により」かつ「国民のために」管理経営し、国有林を名実ともに「国民の森林」とすること。
このような考え方に立って、
1.森林整備の目標を木材生産機能重視から、国土・環境保全等の公益的機能重視に転換する必要がある。これに対応して、独立採算性を前提とした企業特別会計は廃止し、一般会計繰入を前提とした特別会計とする必要がある。
2.民有林、国有林一体となって森林の機能が最大限に発揮されるようにするため流域管理の森林管理を基本とし、流域の自主性を尊重し、流域ごとに特色ある森林管理を進める。
このため、流域ごとに森林施業、森林の保全、森林の利用と負担について、民有林と国有林関係者、治山と治水関係者、上流住民と中・下流の受益者との連携を強めるシステムを構築。
3.官民の役割分担等国が担うべき役割を踏まえ、国有林の使命を果たしうる管理経営の方式を確立し、最小限の簡素かつ効率的な組織・要員の下で管理経営を行う。
4.国有林を国民に身近なものとし、国民からの信頼性を確保するため、情報開示、流域関係者の意見反映等管理経営について透明性と説明責任を確保し、また国有林関係者は森林について地域住民とともに勉強するという意識に立って、国有林を広く国民の利用に供するとともに、ボランティア活動を支援するなど、森林整備に国民の積極参加を求める。

(国有林野事業の果たすべき役割)
公益的機能の一層の発揮、林産物の供給、地域振興への寄与。
総合的な法制度を検討する中で、事業目的や管理・整備の方針を明確化。

(今後の国有林の管理経営主体とその業務)
*公益的機能の発揮が強く要請され、かつ広域にわたる森林の管理には、公的分野の関与がが必要(奥地脊梁山地や水源地に多く存在する国有林等)。
また森林の研究、技術開発及び研修の場として必要。
*民間で実施可能なものは、できるかぎり民間に委託
 森林整備の方針を公益機能重視に転換しようとするときに、企業的利潤の追求を図る株 式会社による管理経営では不適当。
国有林の一部について、信用のおける林業者等から買い受け希望がある場合は、公益的 機能の発揮に支障を及ぼさない限り、売却することが適当。
 経営権を共有する分収造林等は、国民参加等から積極的に活用。
 造林、伐採、林道整備等の事業の実施は、全面的に民間に委託。
*複数県にまたがる基幹的な森林や水源かん養上重要な水系にある森林などについては、国が管理経営することが適当。
*保健休養林や上水道などのための水源林などについて地方公共団体(複数も可)で譲渡を希望するものがあれば、積極的に対応。
*小流域に係る森林で地域の利害に直接影響する森林について、地方公共団体による管理経営も検討。
*国立公園内の国有林の移管は、環境保全行政の円滑な推進に資するものの、森林は多面的な機能を共通のものとして備えていること、森林整備には適切な施業が必要不可欠等の問題点があり、このような観点から、森林行政と環境保全行政との連携を一層強化強化する必要がある。
*治水事業(砂防・河川・ダム)とは、今後一層の連携を図っていく必要がある。
*森林の公益的機能の一層の発揮の観点から、森林、治山治水、自然環境等を所管する行政機関の間で総合的な連携が必要である。

(国有林の管理経営方式)
*「水土保全」、「森林と人との共生」、「資源の循環利用」という3方向に沿った森林整備を進めるべきである。
*森林の機能別区分に応じた部門別収支計算により費用負担を明確化。
*国有林は、広範囲に所在する国民共通の財産であり、適切な管理経営を通じて、公益的機能の一層の発揮を担保するという観点から、基本的には国が責任を持って管理運営することが適当。
*長期的視点に立った管理経営を行う必要。
*組織全般にわたり大幅な簡素化・合理化を図るとともに、営林署などの現場組織は流域を単位に再編整備。
*国の業務は、保全管理、森林計画、治山等の業務とし、事業の実施は全面的に民間に委託。
*国有林の管理経営は、流域管理システムの中で、民有林行政と連携を図り、森林整備、国土保全、地域振興等、適切な役割を果たす必要。
*流域における森林整備の担い手としての森林組合等の林業事業体の育成強化を図り、林業就業者の確保に努める必要。
*伐採・造林等の事業は、地域の実情等を踏まえつつ、民間事業体等に全面的に委託。
*その際、年度を超えた契約の締結の可能性や伐採、搬出、造林等の事業を一体的に行い得る方式の導入等を検討する必要。
*林業事業体の育成と競争原理の導入。
*公益的機能を一層重視した森林管理への転換に対応するため、独立採算制の企業特別会計制度は廃止し、公益的機能の発揮のために必要な経費等の一般会計からの繰入を前提とした特別会計とする必要。
*ボランティア組織の活動の支援、参加による森林整備の検討。
*抜本的改革に当たっては、情報の開示を積極的に行い、国民に対する説明責任を果たすことが不可欠。
*分収林等の活用による水源林設定を推進。
*組織は従来の組織機構にとらわれず、国有林を適切に管理していくために最も簡素で合理的な組織とする必要。
*要員は、今後の事業運営のあり方、業務等を踏まえて、必要最小限の規模とする必要。
*このような方向を踏まえ、組織機構の再編や要員規模の計画的な縮減等さらに徹底した経営の改善合理化を進める必要。

(累積債務処理)
*債務処理については、可能な限りの自助努力を行い、返済可能な債務と返済不能な債務に区分し、返済可能な債務は、債務の累増防止のため、一般会計による止血措置(利子補給)を講じつつ、資産の売り払い等による償還を実施。
*返済不能な債務は、一般会計に承継することが必要。

(必要な法的措置と新たな経営計画の策定)
*国有林野事業の改革の方向に即し、改革を確実かつ円滑に遂行するとともに、将来にわたり国民の参加の下に国有林の管理経営が行えるようにするため、新たに総合的な立法措置を講ずる必要がある。


国有林債務処理の動向(新聞報道より)


平成9年12月3日、日本経済新聞(夕刊)、政府・与党の 財政構造改革会議は3日午前開いた企画委員会(座長・加藤紘一自民党幹事長)で、旧国鉄、国有林野の長期債務処理策を盛り込んだ座長案を示し、大筋で了承を得た。今後座長試案を基に与党内調整を急ぎ、近く処理策を正式決定する考えだ。
林野債務3兆8千億円は、うち2兆8千億円を繰り上げ償還したうえで一般会計に移し、残り1兆円を国有林特会が継承して木材収入や土地など資産売却で返済する枠組みが決まった。
返済期間は一般会計移管分が60年、特会分が50年間となる。
ただ利払い費の一部となる林野庁予算の削減額では結論を持ち越した。
座長案では必要額の半分の360億円は、林野予算を削減して充てるよう求めたのに対し、自民党の農林関係議員が「負担が重
い」と反発。今後、政府・与党で削減幅の最終調整を進める。
(参考、旧国鉄債務、国鉄精算事業団が抱える27兆8千億円(98年度当初見込み)のうち、有利子債務15兆2千億円と無利子債
務8兆3千億円の計23兆5千億円の元本と利払い費を一般会計が引き継ぎ、旧国鉄職員の年金負担金である4兆3千億円を日本鉄道建設公団に移す。当初は利払いと年金負担金の処理を優先させ、元本は2000年度から年4千億円ずつ返済していく。98年度に生じる年6千億円の利払い費は、財投資金を一括して繰り上げ償還し、借り換え国債の発行で低利資金を調達することで4千100億円に圧縮。郵貯黒字から2千億円、残りを税負担としたばこ税増税分から必要額を確保する方針だ。
年金負担金の財源は、国鉄精算事業団土地等で3千億円強を見込んでおり、運輸省予算削減分で650億円、残りをJR7社で負
担するよう求めていく。ただ2004年以降の財源確保は不透明。また企画委は年金負担金に絡んでJRに250億円の追加負担を
非公式に要請しているが、JRは拒否しており、協力要請を続けることになった。)



平成9年12月3日、読売新聞、国有林野事業の債務の処理策が固まり、3日開かれる政府・与党の財政構造改革会議企画委員
会で正式に提案される。
林野債務3兆8千億円は、このうち1兆円は、99年に創設する国有林野事業の新会計の負担とし、原則50年で返済する一方で、
残りの2兆8千億を国の一般会計が受け継ぎ、60年で返済することが骨格になっている。新会計の債務処理は、木材などの林産
物収入のほか、土地や建物などの資産売却代金が柱になる。またこの1兆円の債務は低金利の民間融資に借り換えて返済負担
を軽くし、毎年の利払い分は、従来通り、一般会計からの利子補給を受ける。
国が負担する2兆8千億円は、数回に分けて借り換え国債を発行し、高金利の債務を完済し、その上で、元本は60年かけて毎年
約470億円ずつ一般会計が償還。低利借り換えでこの利子は年間710億円(借り換え前1560億円)となる。なおこの710億円
の利子負担は、約360億円に折半し、新たな国民負担(たばこ税が浮上)と農林水産省予算でまかなう内容。また負担割合をめぐ
る調整は難航しており、まだ流動的だ。
2兆8千億円を繰り上げ償還した後の毎年470億円の元本返済分の財源手当も不透明である。
債務拡大を防ぐ「止血措置」を優先させた処理の枠組みは、いずれ再見直しを迫られる場面もありそうだ。


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