ロバの足音 ➡ 日本列島のんびり

   修学旅行

 私は旅に出かけることが好きだ。高校を卒業するまで故郷鳥取で過ごしたが、この間の旅の想い出は何といっても修学旅行だ。小学校の修学旅行は夜行列車にゆられて1泊2日で京都の寺社と琵琶湖だった。中学校の修学旅行もやはり関西で大阪の朝日新聞社、奈良の興福寺、名古屋のトヨタ自動車を訪れた。朝日新聞社では巨大な輪転機が回転し新聞紙を次々と吐き出していた。トヨタ自動車では当時の代表車種クラウンの製造ラインを見学した。大阪・奈良・名古屋は生まれて初めて電車(近鉄)に乗り移動した。目にするものすべて驚きの連続で山陰の小都市鳥取の中学生に強い刺激と都会へのあこがれを与えた。高校の修学旅行は九州だが、まず神戸で関西汽船に乗船し瀬戸内海を横断し別府に上陸した。別府に上陸後、長崎の平和公園、雲仙、熊本城、鹿児島、宮崎の青島等九州の主な観光地を巡ったが、何しろ駆け足旅行だったので古い写真を見ても個々の情景はほとんど記憶にない。

  新婚旅行

 新婚旅行は北海道にした。当時、新婚旅行先としてハワイの人気が高かかったが、私は自身ですべての旅行計画を立てたかったことと、季節が梅雨時だったこともあり北海道を選んだ。(もちろん英会話が不自由なことと金銭面もあるが・・・)札幌丘珠空港をスタートし、札幌、摩周湖、阿寒湖、川湯温泉、知床、サロベツ原野、層雲峡を巡った1週間の旅であった。
 北海道が大好きになった私たちは翌年2月、冬の北海道に出かけた。札幌雪祭りを見物し、さらに東北海道の尾岱沼に足を延ばし流氷の海と白鳥の群れを眺めた。その時の写真を掲載する。         写真をクリックすると拡大します。


 中高年の旅

 会社を退職した60歳代半ば以降は、子育てが終わり両親も他界し趣味の世界に没頭できる環境になった。JR東日本の『大人の休日クラブ』に加入し、日本ユースホステル協会の会員にもなった。大人の休日クラブに加入すると全国のJRが新幹線を含め特急料金・運賃がすべて3割引きで利用できる。年会費は3000円程なので松本・新宿間を往復すれば元は取れる。ユースホステルは昔に比べ数は減ったとはいえ全国にまだ200ヶ所あり宿泊料金は格安だ。
 私は車を運転しないので旅に出かけるときは公共交通機関を利用することになるが、列車やバスが通り過ぎてしまう所にも隠れた名所・スポットがあるのではないか、どのみち時間はたっぷりあるのだから、列車やバスが行かない(行けない)所へも行きたい等々考え公共交通機関と自転車を組み合わせた旅行(輪行)に取り組むことにした。

  Yellow Donkeyと共に

 松本に転居する前年の秋(2010年)、新宿にあるブリジストン・サイクル直営店に何度か足を運びスポーツ・バイクの講習を一通り受けた。2011年秋、長距離の旅に適したクロス・バイクを購入した。ひたすらスピードを求める軽量のロード・バイクでもなく、悪路を走る頑丈なマウンテン・バイクでもなく、云わばロード・バイクとマウンテン・バイクの中間の車種だ。
 シドニーオリンピック自転車競技の元日本代表が経営する松本市内のスポーツ・バイク専門店で購入した。車種は、ブリジストン製ANCHOR CR500 重量約9kg、変速は前3段、後8段シマノ製。購入価格はバイク本体にペダル、ライト、ポンプ、ヘルメット等附属品一式込み14万円であった。
 私の愛輪はフレームが派手な黄色なので"Yellow Donkey"と名付け、まず松本・安曇野周辺を走った。平地をしばらく走った後、ヒルクライムに挑戦し美ヶ原王ヶ頭(標高2000m)を日帰りで往復し、次に乗鞍岳畳平(標高2700m)を往復した。
 ヒルクライムを経験した後、いよいよ長距離の輪行に出発。2012年早春、四国88ヶ所お遍路の旅を実行した。その後、北は北海道宗谷岬から南は沖縄県西表島までYellow Donkeyを駆って日本列島を走り抜け、10年間の総走行距離は25.000kmに達した。47都道府県はもちろん近海の島々、伊豆・小笠原諸島、瀬戸内海の島々、奄美・沖縄群島、五島・壱岐・対馬・隠岐・佐渡、奥尻・天売・焼尻etc・・・島までの連絡船があり、島内に宿と舗装道路があれば私の旅熱は騒いだ。34ヶ所ある国立公園の内、慶良間諸島を除く33ヶ所を訪れ、25か所に増えた世界遺産はすべて訪れた。(もっとも世界遺産に登録された遺跡・史跡・建造物をすべてではないが・・・)
 北海道や九州・沖縄方面、離島への旅では現地まで航空機・新幹線・フェリーを利用する『輪行』を活用した。輪行袋は破損が心配なので常に2種類用意して、前輪後輪とブレーキを外し本体と共に袋に収納する。輪行袋に収納すると航空機は無料で運んでくれるが天地左右を指定しないと破損する恐れがあるので要注意だ。フェリーはモーターバイクより安いが有料のことが多い。列車やバスは無料だが車内が狭いので置き場所に一苦労する。
 出かける前には綿密に旅の計画を立てる。3週間の長期・長距離の旅には1週間かけて調査する。まずコースの設定。私は行先の自治体のHPの観光案内を参考にして大まかな訪問先を決める。そして地図とにらめっこして途中の立ち寄り先を考えながら標準時速を10kmから12kmと想定し、一日の走行距離は60kmから100kmにする。
 私が愛用している地図はツーリング・マップルで全国が7冊の分冊になっており縮尺は北海道(17万分の一)を除き12万分の一でA4版なので使いやすい。弱点は道路の高低や車幅が分かりずらいこと。このため国道については必ずYouTubeで確認する。YouTubeには国道を実際に走行した動画が登録されているので、道路の高低、車幅はもちろんトンネルや橋の状況もわかる。特に長いトンネルについては内部の照明、傾斜やカーブ、排気の状況、歩行者通路の有無等を確認し場合によってはそのトンネルを避けて別ルートを探す。例えば、松本から糸魚川へ姫川沿いに国道148号線があるが長いトンネルが多くしかも狭くしかも内部でカーブしており自転車で通過することは地元の人さえ敬遠するほどだ。私もこのルートはJRを利用した。
 もうひとつ重要なことは山歩き同様エスケープルートの設定だ。激しい雨、体調不良、不慮の事故で自転車に乗れなくなった場合、鉄道やバスを利用することになるのでJRやバスの最寄り駅・停留所と時刻表を調べておく。市街地を走る場合は当然ながら車道の左端を走るが、郊外では車線の中央を走る。すると後続車はスピードを落とし私にも後続車が近づいていることが分かる。こうしないと後続車が大型車両の場合、追い抜かれるときに吸い込まれそうになり危険だ。
 宿については、①ユースホステル、②民宿、③国民宿舎など公共の宿、④旅館の順にネットで探す。ユースホステルはとにかく安くて清潔なので北海道ではずいぶん世話になった。昔に比べて年々ユースホステルの数が減っているが、現代の若者は見知らぬ人との同室をいやがり個室を求めるかららしい。そのためか今やユースホステルは若者ではなく中高年がもっぱら利用者だ。宿に着くとすぐに自転車を清掃・点検し、洗濯をし、その日の記録をつける等忙しいので2食付きの宿を選び、遅くとも16時までには宿に到着するようにしている。
 洗濯機はどこの宿でも使えるが乾燥機は設置されていないこともあり特に民宿は乾燥機を置いていないところが多くこれも要注意。数日分の洗濯物が翌朝までに乾かないのは悲しい。自転車は雨露に濡らしたくないので屋根付きの倉庫かロビーか部屋に持ち込むことになるが嫌がられたことはない。温泉は大好きだが温泉付き宿は料金が高いので宿泊しないで、付近の安宿に泊まり豪華旅館の日帰り入浴を利用する。一日にかける費用は、1泊2食付きの宿代と酒代、昼飯代、タバコ(2日で1箱)、ポカリスエット2ℓその他合計1万円に収まるようにしてきた。
 旅の装備はすべて30ℓの登山用ザックに収納しかついだ。キャリアー金具に振り分けバッグを取り付けることも試したが航空機や列車で輪行の際には扱いにくいことが分かり登山用ザックに落ち着いた。3~4日分の着替えと登山用の上下雨具、輪行袋、輪行時のフレームベルトと各種パッドとエンド金具、パンク修理キッドと予備チューブ、チェーンロック、清掃用具、洗面用具一式と使い捨て洗剤、常備薬一式(特に筋肉痛対策)、行程表・道路地図・筆記用具、予備のメガネとサングラス、ヘッドランプとフロント・リアライトと計測器(走行距離と速度を測定する)の予備電池4種類、その他趣味の本やハーモニカ等など総重量10~12kgのザックを担ぐことになる。Yellow Donkeyに乗り始めて数年後、タブレットを購入しいつも持参した。北海道の大草原の中の宿もタブレットで場所を確認し迷うことなく行き着いた。訪問先の天気、道路状況の確認,など旅の必需品となった。
 Yellow Donkey購入以降、10年間が経過しこの間のメインテナンスとパーツの交換に要した費用は約30万円だ。ハンドルとサドルはより使いやすく自分の体型に合ったものに変更した。定期点検のほかにフルオーバーホールも2度実施した。ライトは前に1個、後ろに2個つけた。ライトは夜間走行用ではなく霧の濃い時やトンネル内で後続車に前に自転車が走っていることを知らせ注意を促すためで点滅式だ。現在のヘルメットは3代目だ。初代は桜並木の下を走っていて横に張り出した太い枝に思い切りぶつかりヘルメットにひびが入った。ヘルメットが無ければ頭蓋骨にひびが入ったと思われるほど強い衝撃だった。2代目は上り坂でバランスを失い横向きに転倒しヘルメットの側面を破損した。スピードをだすためにピンディング・ペダルとペダルに固定する爪(クリート)のついた専用の靴も購入したが、これは失敗だった。瞬間的に足を下すことができないので急ブレーキをかけると横倒しになる、爪が邪魔になり歩きずらい等長距離ツーリングを楽しみたい私には無用であった。
 自転車で旅に出るとタイヤのパンクやブレーキ、ギヤの故障はつきものだ。しかもこれらのトラブルは概ね市街を離れた郊外で起きることが多く近くに自転車の専門店はない。市内でも修理を扱う自転車店は少なく、ましてスポーツ・バイクの専門店となるとその土地の人も知らないことが多い。
 パンク修理の講習も受けてひととおりのことはできるが、今まで10数回経験したパンクで自分で修理したのは2回だけでいずれも宿に着いた時だ。パンク個所を探すためバケツと水が必要だがどちらも入手できるような状況でないことが多い。止む無くYellow Donkeyを担ぎ人家を探すか、国道沿いならば自動車修理工場を探す。郊外の国道沿いには自転車屋はなくても自動車修理工場はありパンク修理は請け負ってくれる。
 私が購入したスポーツ・バイク専門店は点検が無料なので、長距離の旅に出発する直前に必ず点検を受け、ブレーキシューはほぼ毎回交換し、タイヤとチューブは5000kmを目途に交換している。それでもパンクや故障は起きその都度土地の人々のお世話になった。旅に出るとまさに人の親切が身に沁みる。熊本県八代市の峠越えでディレーラーを破損した時には通りかかった鹿児島ナンバーの車に乗せてもらい半日かかってスポーツバイク専門店をみつけ修理した。奥様と熊本市内へ出かける途中だそうだが、ナビで自転車店をいくつか探しながらようやく修理可能な専門店に辿り着いた。ご夫婦の貴重な休日を見知らぬ自転車乗りのために費やしせめてものお礼に食事をお誘いしたが固辞され熊本に向かわれた。

 それでは私の『日本列島のんびり』の旅にお付き合いいただくことにし、まず私の新しい故郷松本・信濃路にでかけよう。

  地域   掲載日    主な訪問先
信濃路 2022年2月1日 松本ガイド、安曇野アートライン、善光寺界隈、ヒルクライム
四国お遍路の旅 2022年3月1日 四国88ケ所霊場巡り、しまなみ海道、高野山お礼参り
北海道 2022年3月20日 道央、道東、道北、オホーツク、道南
東北 2022年4月20日 陸奥の休日、東北内陸部縦貫の旅、日本海を北上し津軽半島先端へ、太平洋岸を北上し下北半島先端へ
関東・中部 2022年5月10日 天竜川を南下し太平洋岸を巡る能登半島周遊、富士山を一周して房総半島へ、常陸・会津の旅、野麦峠を越えて美濃から伊賀へ、関東・中部の小さな旅、島々を巡る
西日本の旅 2022年6月12日 西日本あちこち、山陰の旅但馬から越前海岸へ、中仙道から紀伊半島へ、山陽路を西から東へ、京都・丹波・但馬・因幡の旅
九州の旅 2022年7月15日 薩摩半島・天草諸島から熊本へ、九州東海岸を北上する、九州北部と対馬の旅、九州山地を縦断し五島へ、九州西海岸を北上し平戸島へ
南国の島旅 2022年8月15日 石垣島と西表島、沖縄本島の旅奄美大島の旅、奄美群島の旅、宮古島の旅、種子島・屋久島の旅

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