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「人を()うる歌」

―――妻一人夫一人の切なさよ―――

第2章 家郷(かきょう)の章

 

(はる)かなり「尋ね人の時間」聞きし日々

 

遺骨抱く少年ひとりが見し彼方(かなた)

 

乳母車(うばぐるま)母なる者の夢車

 

真夜中に霧笛が響きうなされぬ

 

酒臭き父に抱かれて(はな)(えん)

 

入学式フイルム忘れし父も亡く

 

()めし鶏肉(とりにく)の脚むさぼりぬ

 

あばら家に潮の香満ちて夏休み

 

川蟹をとりたる夜に川蟹の親夢にでて怒る

 

夏の海花火上がりて夢の世に

 

紫陽花(あじさい)に便を包みて登校す

 

ペンチにて我が虫歯抜き父笑う

 

黒き刷毛(はけ)にまみれて父は働きたり

 

泣く我を肩車(かたぐるま)し海にずかずか父入る

 

フラフープ三つ握りて父帰る

 

教室でおもらし4年西組吉本(よしもと)

 

熱き鉄路(レール)に耳押し当てし少年期

 

路地裏の少年橋の下で拾われし

 

「家なき子」読みて泣きしは夢なき子

 

出張せる父の土産は森永ミルクキャラメル

 

給食に肝油なめつつ「ジャックアンドベティ」

 

父の背が浮き桟橋に揺れて在り

 

(しお)()を連絡船で父と吸う

 

ベタ(なぎ)に脱出したしこの港町

 

居間にあり我をはぐくむミレーの「晩鐘」

 

(くさび)打つ胸にあふれる潮の香に

 

日雇いの(ひと)餞別(せんべつ)にくれし手のひら一杯の十円玉

 

父の手紙(ふみ)一字一字のまことかな

 

ゴーゴーと延命装置に父眠る

 

愛憎が(きし)(きし)みて父()きぬ

 

俺の話を聞けと我の話を聞かざりし父逝く

 

荼毘(だび)に付す空耳(からみみ)なるか弔鐘(ちょうしょう)

 

火葬場に慟哭(どうこく)のみが()えていく

 

骨拾う金箸(かなはし)の先父(かえ)

 

()きておおいなる影我は踏む

 

坂の町父()きてより息上がり

 

墓石に酒注ぎ父も酔うべしお彼岸は

 

亡き父に報告す「子供たちは元気です」

 

母の背に愛も憎悪も老いてゆく

 

焼き場にて(ひつぎ)に身を投げ泣きし母

 

老いし母味噌汁の味薄くなり

 

若き父が生きしは中国東北部旧奉天三菱鉛筆工場

 

我に故郷(こきょう)なしと見切る心にまた望郷

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