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「人を()うる歌」

―――妻一人夫一人の切なさよ―――

第3章 水晶の章

 

初デート結婚約し二日酔い

 

贈りたる「日本婦道記」妻読みしか

 

妻となる(ひと)の昔を我知らず

 

汗かきの神父に誓いぬ我が愛を

 

新婦泣くサレジオ教会礼拝室

 

大吉(だいきち)に妻はニッコリ初詣(はつもうで)

 

合格の報一オクターブ妻声高し

 

子ら抱え走り抜きたり我が妻は

 

一粒(ひとつぶ)の麦地に落ちて子ら眠る

 

隆正(たかまさ)麻季(まき)旅男(たびお)は我が子なり

 

兄おなら乙女の恥じらい麻季(まき)ちゃんは

 

子ら眠る楷書(かいしょ)(くず)れの川の字に

 

猫を虎と間違え逃げ帰りぬ隆正

 

肩車(かたぐるま)視界広がり麻季(まき)叫ぶ

 

木枯らしに(たこ)飛びちぎれ子ら(さわ)

 

お年玉子らに下賜(かし)して父威張る

 

(たこ)()げに子らと走りて寝正月 

 

兄姉(あにあね)のケーキ見つめぬ旅男(たびお)

 

旅男(たびお)問う「こいのぼりどうしてうちは小さいの」

 

子ら詠める百人一首夢の跡

 

酔いどれて子らの前で泣く我はしあわせ

 

卓袱台(ちゃぶだい)に通信簿三つ息殺し

 

鴨鍋(かもなべ)に汗吹きだしぬ子らの鼻

 

子ら食いし回転寿司は二十七皿

 

食べ放題家族五人がケーキ腹

 

湯たんぽに六本の脚集まりぬ

 

玄関に子らが()けたるサンタクロース

 

ドーナツを誰が食べしと子が責める

 

「今日は外で食べるか」の声に子らガバッと身を起こす

 

我が娘水着姿の脚長し

 

「はい」という返事がいつのまにやら「はいはい」となり

 

「ドラえもん」を真似押し入れに眠る兄弟二人

 

夕立に王手飛車取り隆正(たかまさ)笑う

 

いつの日か裏切り秘めし子らの背は

 

「あ、父さん、母さんに代わって」父は電話交換手なり

 

子ら帰りぬくみ戻りぬあばら家に

 

妻の背に花火上がりて夏()きぬ

 

子らの背も我に似たるか憂いあり

 

子ら去りて我も近づく亡き父に

 

アルバムにまぼろしだけが浮かびきぬ

 

かすかなる妻の寝息に年明けぬ

 

薔薇(ばら)枯れぬ狭き庭より妻の声

 

手をとりて互いに歩みし山河はありや

 

老いてゆく二人の背中(せな)に鰯雲

 

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