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「人を恋うる歌」
―――妻一人夫一人の切なさよ―――
第6章 市井の章
憂いなき世に憧れしスクラムは
怒り込め投げし石さえセピア色
ガス弾に敗走せるは世界観
履歴書を透かして見れば敗北史
糠雨や無頼の過去がよみがえる
人を助けんと思いて人を傷つけ
まっすぐに生きんと願いて道はずれ
人待ちてふと涙ぐむ八月なれば
焦がれたる市民生活パトスなく
春の夜にひっそりと妻が歌える「すみれの花咲く頃・・・・」
逝く春や破獄したるか猫二匹
ペンキ富士客が湯をかけ五月雨か
巴里祭に家族五人で酔っ払い
束ねたる黒髪ほどき三十年
炎天や蟻の列もが乱れおり
遠き日の「リンゴの歌」に夏巡る
空蝉も思案したるか晩年を
秋時雨隣の猫は帰りしか
冬蝿や猫の父親勤めなく
蝿二匹父でありしか我もまた
雑煮腹余命想いつ凧揚げぬ
受けし生削り削りて冬景色
悟りなく真心もなく蟻を踏む
踏んでゆく路傍の蟻の生涯を
世を厭う想いの果てに妻ありて
老いてゆく鏡の中に我はあり
今日の夢昨日の夢と相似たり
コップ酒升の滴も夢映す
誠をば求めあぐねて荒れ野立つ
今日もまた途中下車なき旅路かな
明け方に寝冷えしたるか咳一つ
早暁に尿意もようし矩をしる
まどろみぬ冬の気配に背をまるめ
靴音が冬踏みしめて年を越す
さわやかに生きんと願い花を買う
蕩尽す猫の父親人生を
生き恥を今日も晒して「おはようございます」
祈りつつおのれの心覗き込む
憂愁が五臓六腑にしみわたる
ブランコにゆらりゆらりと自我揺れぬ
心をば患いたる夜雨激し
しがらみを裁ちて生きれば浄土かな
沈黙が一滴落ちて妻想う
病室の妻を見舞いてみかん剥く
冬の夜に妻と語りし貧乏物語
涼やかに生きてはみたし余生をば
バカ正直で素っ頓狂で世間知らずの君と我
膝枕白き温みに妻眠る
君と生きし現世もはやたそがれぬ
生き急ぎ君と仰ぎぬ遅桜
老いてなお夢見し夢は夢のまた夢
たそがれてただたそがれて酔い果てぬ
吉野山思い出あふれ花に酔う
懐かしき子らの笑顔が我にあり
二人とも生きるのが下手明日もまた
海の見えるお墓に妻と眠りたし
完