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「人を()うる歌」

―――妻一人夫一人の切なさよ―――

 目次

第1章     哀憐(あいれん)の章

第2章     家郷(かきょう)の章

第3章     水晶(すいしょう)の章

第4章     抒情(じょじょう)の章

第5章     旅愁(りょしゅう)の章

第6章     市井(しせい)の章


   

第1章   哀憐(あいれん)の章

 

唐突に愛問うなかれ酒場にて

 

真顔(まがお)にて相対すれば言葉なく

           

嘘つきと呼ぶ眼差(まなざ)しに舌凍り

 

イブ食べし林檎(りんご)を君と(かじ)りけり

 

立ち()くす道なき道のけもの道

 

ひび割れし鏡地獄のラブホテル

 

恋狂い夜叉(やしゃ)が浮びぬ手鏡に

 

軽やかなひと言言えず蒼き海

 

皮膚ぬめり闇の中から細き腕

 

日暦(ひごよみ)(めく)(めく)りて身を焦がす

 

哀楽(あいらく)をともに望みつ(ゆる)されじ

 

「また今度」その言葉こそ生きる(かて)

 

ナイター聞くサヨナラホーマー君は来ず

 

朝明けの剃刀(かみそり)()が想い()

 

乱れ髪洗い落とせど愛の跡

 

真夜中にやすりにかけぬ()びた愛

 

しどけなき想いの裏のあどけなさ

 

(のど)(かわ)き愛情乞食(こじき)か我もまた

 

愛してる眼で語れども言葉も欲しき

 

荒縄で愛の陽炎(かげろう)梱包(こんぽう)

 

春宵(しゅんしょう)にもつれて飛ぶか影二つ

 

春の夜や(べに)(あざ)やかに家を出る

 

桜散る愛ひとひらの軽やかさ

 

裏返す(ただ)れた愛を虫干(むしぼ)しに

 

花冷えの乗り換え駅に愛はぐれ

 

春雷に隠せし手紙も(うめ)きおり

 

春嵐交わす言葉に隙間風(すきまかぜ)

 

千代紙(ちよがみ)を折りて不倫の五月闇(さつきやみ)

 

(ほうむ)りし愛よみがえる夏蒲団(なつぶとん)

 

君の背に雪崩(なだ)れ込みたる夏夕陽

 

(そむ)かれてなお未練あり夏帽子

 

炎天に吐露(とろ)せる言葉汗ばめり

 

愛ゆえに憎しみまでも深き夏

 

別れ来て責めし心を責める夜

 

愛もまた洗いざらして秋()む日

 

免罪符誰にもらわん鰯雲(いわしぐも)

 

一人より二人の寂しさ秋深く

 

結婚の二字には()れず冬木立

 

歳の瀬に爪痕(つめあと)(うず)き家路着く

 

一期(いちご)にて一会(いちえ)の手枕明日他人

 

愛は消えまばゆいばかり逆光(ぎゃっこう)

 

梱包(こんぽう)す愛と思い出一切を

 

(ゆる)される罪などあるかまなうらに

 

妻一人夫一人の切なさよ


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