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「人を()うる歌」

―――妻一人夫一人の切なさよ―――

第4章 抒情(じょじょう)の章

 

ひらがなのさくらちりぬるいろはにおえど

 

宵闇(よいやみ)に桜吹雪よ切なく吹雪(ふぶ)

 

()く春や男が一人爪を切る

 

渡されし紙片の裏は花曇(はなぐもり)

 

石地蔵(いしじぞう)消えし道にも春は在り

 

紫陽花(あじさい)も人の気配に(はな)やぎぬ

 

紫陽花(あじさい)無聊(ぶりょう)の我を責めたてり

 

垂直に一度は伸びよ虹の橋

 

廃園に薔薇(ばら)(あか)きまま()ち果てぬ

 

葉桜に夏せかされて急ぎ来ぬ

 

浮草も風の真裏(まうら)の昼寝かな

 

蛍火(ほたるび)や生命線もほの白し

 

虫かごの蛍光りて末期(まつご)の眼

 

星屑(ほしくず)(すく)いてかけし冷奴(ひややっこ)

 

夕凪(ゆうなぎ)風鈴(ふうりん)寂しくぶらさがり

 

押入れに夏満ち溢れ(はえ)も汗

 

炎天や氷河期に生まれたし

 

()せ返る向日葵(ひまわり)の群れ声を呑む

 

夜の海月と浮き輪のランデブー

 

向日葵(ひまわり)や短き夏と情死せり

 

潮の香の水着仕舞いて土用波

 

泡消えてジョッキの中も秋の風

 

夏去りて心の日焼け(うつ)ろなり

 

横時雨(よこしぐれ)妻の背中が水化粧

 

それぞれの晩歌の数の曼珠(まんじゅ)沙華(しゃげ)

 

秋雨(あきさめ)に玄関の靴冷えこみぬ

 

我恋すゆえに我あり梨をむく

 

晩年と想いて見れば月()みぬ

 

音もなし林檎(りんご)落ちたる林檎園(りんごえん)

 

秋風や動物園も耳()ます

 

公園に人待ち顔の空きベンチ

 

月食に月も我らも(いこ)いたり

 

新月にうさぎの親子居場所なく

 

雪達磨(ゆきだるま)殺したりしは(あお)き空

 

冬の日に(あり)一列の(ぬく)みかな

 

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