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第三部 中級編
21 第三の男
*一九四九年 *イギリス *キャロル・リード監督
イギリスの名監督キャロル・リードの最高傑作と言われています。
映画というものを子どもが理解するのには最高の映画です。
アメリカの売れない三文作家が旧友のハリー・ライムに呼ばれて第二次大戦直後のウィーンを訪ねます。
ところが旧友はすでに亡くなっていてその葬式にかけつけます。
ところがその旧友は実は・・・・・というお話ですが、戦後のウイーンの町と有名な三文作家と旧友が対決する遊園地の観覧車、旧友が追われて逃げる下水道、これらの場面がモノクロームの画面の中で黒と白の鮮やかなコントラストで描かれます。
そして世界中で有名になったあのアントン・カラスのチターの音色。
この映画を見て子供たちが私に尋ねたこと。
「あの楽器はギターなの」「違うよチターだよ」「チターとギターはどう違うの」
「アメリカから来た作家とあの女の人は結局一緒にならないの」
という難しい質問ばかりでありました。この映画を見れば子供も推理小説というものがどういうものかわかってくるでしょう。
この映画の後に次男が家族に脇役で出てくるイギリス軍少佐がヒロインのことを好きだったのではないかと力説しました。
その理由は「眼つきを見ているとわかるよ」ということでした。
22 戦艦ポチョムキン
*一九二五年 *ソ連 *セルゲイ・M・エイゼンシュタイン監督
無声映画です。二十世紀最大の傑作映画と言われています。これがソ連の映画だということは子どもにはわからなくても一向にかまいません。
一九〇五年ロシアのオデッサで戦艦ポチョムキンの水兵が待遇改善を要求して叛乱を起こします。
この一部始終をドキュメンタリーの手法で描いています。
私の子どもたちはこの映画を見てその迫力にビックリしていました。
SFXをまったく用いずに「モンタージュ手法」や「クローズアップ」を多用したこの映画の圧巻は何と言ってもオデッサの階段で民衆が兵士に無差別に発砲され逃げ惑うシーンです。
この映画を見て数年した後、子どもたちと一緒にハリウッドのブライアン・デ・パルマ監督の「アンタッチャブル」という映画を見ました。
シカゴ駅でギャングと張り込んでいたエリオット・ネスたちが銃撃戦を繰りげます。
駅の構内の階段から赤ん坊を乗せた乳母車が階段をゆっくりと落ちていくシーンがありました。
その時、私の子どもたちは一斉に「父さん、これ絶対にポチョムキンの真似だよね」と言いました。
あの有名なオデッサの階段の場面を子どもたちが覚えていただけで「戦艦ポチョムキン」を見せた甲斐があるというものです。
23 駅馬車
*一九三九年 *アメリカ *ジョン・フォード監督
先刻紹介した「荒野の決闘」とともに西部劇の傑作と言われています。
荒野を駅馬車が走っています。
乗り合わせているのは、大男のくせに臆病な馭者と一行を護衛する警察官。軍隊にいる夫に面会するために駅馬車に乗り込んだ身重の体の若い妻。
故郷に帰ろうとする酒の行商人。呑んだくれの医師。賭博師。酒場女。
途中から乗り込んでくる銀行家とお尋ね者のリンゴー・キッド。
そして駅馬車に襲い掛かってくるインディアンの群れ。この追いつ追われつの追跡シーンに私の子どもたちはもうドキドキハラハラ。
最後はリンゴー・キッドが酒場で仇討ちの決闘ですが銃の音がして映画はおしまい。
子どもたちはキツネにつままれたような顔をしておりました。
最後に一番かっこよかったのは誰かの私の問いに意外や意外、リンゴー・キッドよりも女性にやさしかったあの賭博師がよかったという感想でありました。
24 七人の侍
*一九五四年 *東宝 *黒澤明監督
戦後日本映画の傑作中の傑作です。
我が家の子どもたちがこの映画にあんなに感動するとは思いませんでした。
この映画は21世紀にも22世紀になっても永遠に残るのではないでしょうか。子どもはもしかすると子ども向きの映画よりも大人向きの映画によほど感動するのかもしれません。
それに子どもは恐ろしいほど実に製作者側の気持ちを見抜いているところがあります。
登場人物は志村喬・加東大介・宮口精二・稲葉義男・木村功・千秋実・そして三船敏郎と七人の侍が村を襲ってくる野武士と戦うという話です。
私の三人の子どもがこの映画を観た後、七人の侍のうち印象に残ったのは、第一位 三船敏郎演ずる菊千代 第二位 宮口精二演ずる久蔵 第三位 志村喬演ずる勘兵衛でした。
これは大人とまったく意見が一致しているのではないでしょうか。
むしろ旗に六つの丸が六人のサムライで一つの三角が菊千代だと千秋実の冷やかされる場面で菊千代が拗ねた顔をすると子どもたちはゲラゲラ笑ったものでした。
その六つの丸に一つの三角がデザインされた旗が藁葺きの農家の屋根に翻るシーンでは子供たちもジーンとしていました。
早坂文雄の勇壮でかつ物悲しい音楽も心に残ります。
25 博士の異常な愛情
*一九六三年 *アメリカ *スタンリー・キューブリック監督
米ソ冷戦下でのアメリカの核戦争に対する恐怖を描いた傑作です。基地司令官の大佐が精神に異常をきたし核戦争にゴーのサインを出してしまいます。核兵器を積んだジェット機がソ連領に侵入してしまいます。
と言っても難しい映画ではありません。
登場する米国兵器開発局長官ストレンジラブ博士の怪演に子供たちは大いに笑いました。
核爆弾の専門家であるストレンジラブ博士はドイツからの亡命者です。
核戦争を起こすのか起こさないのかという差し迫った決断を迫られる場ですぐに「ハイル・ヒットラー」という敬礼をしてしまいます。 ここで家族で大笑い。
最後に結局原子爆弾をソ連に投下するのですが、爆弾にアメリカ兵士がへばりついて降下していくと美しいきのこ雲が湧きあがるというある意味で人を食ったラストが感動的です。
みんなこの場面で「シー―ン」となりました。
26 野良犬
*一九四九年 *新東宝=映画芸術協会 *黒澤明監督
黒沢明の刑事映画の傑作です。刑事役の三船敏郎がバスで帰宅途中女スリに拳銃を盗まれます。
東京の街の中、この女スリを三船敏郎の刑事が一生懸命尾行するシーンでは子供たちはクスクス笑い。
追いかけっこの面白さは映画の原点です。
三船敏郎の拳銃をスリから買い取った男がその拳銃を用いて人を殺してしまいます。
最後の三船と木村の格闘までのサスペンスに満ちたシーンは息をつかせません。
昔、この映画を一緒にビデオで見た小学校二年生の長男は見終わって「父さん、野良犬が一度もでてこなかったね」と文句を言いました(笑)
小学校六年生になった長男が再度この映画を見て「迫力あるなあ」と言いました。映画は見る年齢によって全然違うものに見えてしまうのでしょう。
後楽園球場で野球を見ている観客の中から拳銃を買った本多という男を警察が捜すシーンがありました。
警察が使った手は「お客様の本多様お電話がはいっております」と呼び出すことです。このシーンが子供たちには一番心に残ったそうです。
27 蜘蛛巣城
*一九五十七年 *東宝 *黒澤明監督
シェークスピアの「マクベス」を翻案した黒澤明の傑作です。
森の魔女に出合った二人の武将が「一方が蜘蛛巣城の城主となり、一方の子どもが蜘蛛巣城の城主となる」と預言されます。
その一方の武将が妻にそそのかされ主君に謀反を起こします。
そして蜘蛛巣城の城主となりますが自分が主君を殺したということが不安で不安で仕方がありません。
妻も気が狂っていきます。最後にもう一人の武将の息子が蜘蛛巣城を攻めてきて武将は殺されてしまいます。
私の子どもたちは「森が動く」という預言が全然わかりませんでしたが最後を見て納得しました。
この映画を見た後、よく次男が武将の妻が気が狂って桶に向って手をさすりながら「血が、血が」という場面を真似していたものでした。
28 カサブランカ
*一九四二年 *アメリカ *マイケル・カーティス監督
ご存知恋愛映画の傑作です。ハンフリー・ボガードとイングリッド・バーグマンが主人公。
第二次大戦中の仏領モロッコの都カサブランカが舞台です。ここで「リックの店」というナイトクラブを経営しているのがハンフリー・ボガード。
そこにパリで別れた昔の恋人のイングリッド・バーグマンとその夫のレジスタンスの闘士が亡命するためにやってきます。
リックはこの二人のためにドイツ人軍人とフランス警察をだまして二枚の旅券を渡します。
最後に飛行場で二人と別れたリックはドイツ人将校を射殺。フランス人の警察署長と霧の中を消えていきます。
こんな映画小学生にや中学生にわかるのですかという方がおいでになるかもわかりませんが、わからなくともいいのです。
一流の映画というものはどういうものかわかることが重要です。
私の子どもたちが言ったことは「イングリッド・バークマンってきれいだね」ということくらいでしたが、きっと男同士の友情とか卑劣な人間とかはどういう人間かくらいはわかったでしょう。
29 砂の器
* 一九七四年 *松竹 *野村芳太郎監督
松本清張の推理小説を映画化した傑作です。
病気を抱えた老人とその孫が全国を放浪します。
親子は親切な田舎の派出所の警察官に救われます。父親は病院に送られ子どもは家族のように警察官に育てられます。
しかし子どもは世話になった田舎の派出所の警察官一家の家から家出して大阪で別な戸籍を得て別人になります。
その後東京に出て努力して有名な音楽家になります。
昔世話をした警察官が立派になった少年の姿を映画館に飾られた写真で偶然見てわざわざ東京まで尋ねてきます。
ところが若い音楽家は昔の自分を世間に知られることを怖れてその元警察官を殺害してしまいます。
この映画の見所はやはり流転を繰り返す老人とその孫が見る日本の四季の美しさです。原作ではあまり書かれていない日本の春夏秋冬の各地の風景が悲しい二人の親子をバックに描き出されます。
私の子どもたちも「きれいな景色がいっぱいあるんだね」と申しておりました。
人間って何だろうと子どもが考え出す糸口になると言えばいいのでしょうか。
30 新幹線大爆破
*一九七五年 *東映東京 *佐藤純彌監督
フランスでも大ヒットしたと言われているサスペンス映画の傑作です。
私はこの映画が最終的にどう終わるかを知りませんでした。
お陰で子どもたちとそれこそハラハラドキドキしてみた映画です。
犯人役の高倉健たちが新幹線を爆破する動機は問題ではありません。
博多に向って走行する新幹線が八十キロに減速すると爆弾が爆発するように犯人は仕掛けました。
これを警察と鉄道当局がどのようにして阻止するかが最大の見せ場です。
種明かしは礼儀に反するのでやめておきますが、
驀進する新幹線に平行してもう一本の列車が接近してきて乗務員が乗り移るところなどそれまでの日本映画にはなかった迫力でした。
子供たちも見終わって大満足をしました。
31 ナバロンの要塞
* 一九六一年 * アメリカ * J・リー・トンプソン監督
第二次大戦下のエーゲ海はドイツ海軍が支配しています。
ナバロン島の断崖絶壁の洞窟に設置された巨大な長距離砲二門がイギリス海軍の航路を妨害しているのです。
この長距離砲を破壊するためにイギリス軍の急遽編成された特殊工作斑が出動します。
ナバロン島に接岸しようとして嵐に遭遇し、断崖絶壁を攀じ登り、やっと上陸してレジスタンスと接触します。ところが今度はその中にスパイがいてドイツ側に逮捕されという危機また危機に遭遇しながら遂に長距離砲の爆破に成功するというお話です。
途中で負傷した特殊斑の指揮者にあえて隊員が嘘を教えてドイツ軍に逮捕され拷問された指揮者が間違った情報を流すことで作戦が成功するというオチもチャンとついています。
最後までサスペンスとスリルに溢れた映画でした。
子供たちもこの映画には大満足。後から二三回自分たちで見たとのことです。
私の子どもたちも自分が特殊工作員になった気持で生唾を呑み込みながら見ていました。
見終わって三人ともにグッタリ。きっとあらゆることを勉強して疲れきった気持に子どもはなっていたのでしょう。
32 未知との遭遇
*一九七七年 *アメリカ *スティーブン・スピルバーグ監督
それまで存在していた安っぽくて嘘っぽい宇宙人が登場するSF映画を一気に芸術のレベルにまで高めたような傑作。
なんせそれまでのSF映画とお金の賭け方が違うのが一目瞭然。
私の子どもたちも最後に光り輝く宇宙船が真っ暗な夜空に登場する場面では茫然自失。ただ「すげえなー」の言葉しかありません。
ここまでリアルに映画にするともしかすると宇宙人は本当にいるのではないかという信じる子どもも出てくるのではと思います。
単なるゲテモノ映画がお金を賭けかつ哲学的に作ればある種の宗教性にまで到達してしまうということを証明しています。
それにしてもあの宇宙人が連絡してくる音楽の旋律はいかにもという感じが漂っています。私の子どもたちもこの映画には大満足をしたものでした。
33 ダイヤルMを廻せ!
*一九五四年 *アメリカ *アルフレッド・ヒチコック監督
後になってリメイク版が作られましたが絶対にヒチコックのオリジナルの方がレベルが高い映画です。
子どもが探偵小説を読むようにまた知的ゲームとして考えるときっと楽しく見れる映画です。
ロンドンのアパートに住む元テニス選手の夫と妻がいます。夫は大学時代の友人に頼んで浮気をしている妻を殺そうとしています。
夫は知り合いのパーティーに出ていて友人が妻を殺害する直前に妻に電話してその間にカーテンの後ろに隠れていた犯人が妻を殺す手筈になっていました。
そしてそれは実行に移されるのですが、夫の友人は殺害に失敗。逆に妻に殺されてしまいます。
妻は夫の友人に浮気の脅迫されてその友人を殺害したとして死刑を宣告されます。
しかしアパートの鍵が問題となり・・・・・・。
結論は映画を見てください。
私はこの映画を見終わった後子どもたちと一緒にどうしてあのアパートの鍵が問題なのか考えましたが子どもたちはなにやらわかった様子で私だけがよくわかっていないような気がしました。
子どもがわかって親がわからなくともかまいはしません。
子どもとそういう話を楽しくしたということが大切なのです。
34 宮本武蔵五部作
*一九六一年年 *東映京都 *内田吐夢監督
戦前から様々な「宮本武蔵」の映画が製作されましたがその中でもこの五部作が最も完成度が高いものです。
私はこの第一部を小学校の頃に学年全員で出かけていって映画館で見た記憶があります。
五部作のうち子どもたちが見てもっとも感動したのは何と言っても武蔵と吉岡一門が対決する第三部「一条下がり松の決闘」でありました。
泥田の中を中村錦之助の武蔵がハーハーゼーゼー息を切らせながら走る、走る。凄い決闘シーンでした。
監督の気合と出演者の気合が見事に一致したようなシーンでした。
それに較べれば第五部の巌流島の佐々木小次郎との決闘は緊迫感はそれなりにあるのですがどこか子どもたちは拍子抜けしたようでありました。
武蔵が人を斬りながら最後は宗教一歩手前の境地に到達するくらいのことがぼんやりと子どもにわかりさえすればそれはそれで素晴らしいことなのでしょう。
35 ジャッカルの日
*一九七三年 *イギリス・フランス *フレッド・ジンネマン監督
アルジェリア独立を認めたドゴール大統領を暗殺しようとする秘密組織OASが放った「ジャッカル」という暗殺者をパリ警察の警視が追いかけるというストーリー。話が実にうまく出来ていて私の子どもたちも最後までハラハラドキドキでありました。
ジャッカルが新しく作らせた銃を試射するのに木の枝にスイカをぶら下げてこれを撃ちます。スイカが見事にパッと割れた瞬間に家族全員で「オ―――」と声を上げてしまいました。
最後に近くジャッカルが傷痍軍人に化けて登場するところでまた「オ―――」でありました。子どもはこういう娯楽映画の面白さというのがわかるようになるのは本当に早いものです。
36 雄呂血
* 一九二五年 *阪東妻三郎プロダクション *二川文太郎
戦前の無声映画の傑作。
主人公は真面目な正義感の溢れる青年武士です。これが愛する女性を巡り自分より地位が上の息子と喧嘩をしてしまいます。
後は不幸に見舞われる一方の人生となります。
そして最後に延々と続く大太刀廻り。自分を取り囲む役人を斬って斬って斬りまくるという映画です。
このラストシーンの悲愴な姿に誰もがこの青年武士に味方してしまいます。
私はこの映画を長男と次男と三人で見ましたが、この後次男の方がえらく無声映画を好きになりました。
ある時など名古屋に住みたいなと申しますのでどうしたなのかと尋ねると名古屋は無声映画の上映が盛んだということでありました。
子どもは時々謎のような発言をするものであります。