□■□ ザセツしました □■□






  力なく箸を置いた総司を、土方は面白そうに見つめている。
  「・・・どうした、まだ残っているぞ?」
  からかうような声音の土方を、総司は恨めしげに見上げた。
  「土方さん」
  「何だ?」
  「穴子一切れにつき、口吸い一回と言うのは・・・、本当ですか?」
  「俺は、嘘は言わん」
  総司は、下唇をきゅっと噛み締めた。
  優に半分は残っているだろう穴子は、刻んだ為に数が多い。
  冷静になれば、理不尽極まりない申し出なのだが、穴子に追い詰められている総司は、その事に気付かない。
  「・・・お願いしても、いいでしょうか?」
  「いいぜ」
  土方は、にっこりと微笑む。
  「但し、一口毎に先払いで貰うぞ」
  「えっ?」
  総司は、大きく目を見開いた。
  「先にって、まさか、ここでっ?」
  「当たり前だろう」
  「そんな・・・」
  細い面輪から、血の気が引いた。
  「それが嫌なら、まとめて返してくれても構わねぇぞ」
  「まとめて・・・?」
  スッと伸ばされた手が、総司の頬を撫でる。
  「まとめて夜に借りを払う、――どうする?」
  青ざめていた総司は、真っ赤になった。
  「夜・・・?」
  「そうだ」
  「でも・・・」
  「いやならば、食い終わるまでこのままだ」
  「そんな・・・」
  二人が居るのは、評判の高い、客の絶えぬ店である。
  人目が気になるのは無論の事だが、しかし、いつまでも座っているのも店の迷惑となる。
  「総司、どうする?」
  固まったままの総司に、助け舟よろしく、土方は微笑した。
  「俺は、どっちでもいいが?」
  涙目で土方を睨んだ総司は、消え入りそうな声で、「夜で・・・」と答えた。
  土方は、機嫌良く丼を受け取った。
  「今夜は、音ぇ、あげるなよ?」
  
  
  ご馳走様でしたv




戻る