ナイトサファリ

ナイトサファリとは、夜の動物園。
動物を檻や柵の中に入れず、
自然な姿を見せてくれるということになっている。
動物園好きな子どもたちは楽しみにしていた。
が、いざ、入場する段になって、上の子が怖がりはじめた。
「トラが襲ってこないか」
「ライオンに食べられないか」
半べそかきながら、あんまり言うので、
「そんな危ない動物園なら、シンガポールのお巡りさんが、
この動物園は危険ですから、お客さんを入れてはいけませんって言って、
もうつぶれてるはずだよ。
危険じゃないから、お客さんが入っているんだよ」
と話すと、なんとか親の言葉を信頼して入場と相成った。

夜の動物園というのだから、
真っ暗なジャングルの中で夜行性の動物たちが
鋭い目をキラキラ光らせているのを想像していた。
動物に関して素人の私に、
夜のジャングルの動物を見つけることができるかと心配だった。
でも、運良く1匹でも見つけられたら感動的だろうなんて期待もしていた。

歩いても見学できるが、子どものいうように、トラに襲われては大変だから、
トラムというバスのようなものに乗って見学することにした。
トラムには、日本語のできるシンガポール人による案内がついた。
マイクのボリュームいっぱいにして、ガイドはけたたましく説明してくれた。
案内はいらないから、
静かに動物を自分の目で見させてくれと言った感じだった。
動物はマーコールというシカの仲間、トラ、ライオン、ゾウ、キリン、クマもいた。
ことに珍しい動物がいたわけではない。
日本の動物園でもよく見かけるものばかりだった。
「これは世界にあと500頭、絶滅の危機に瀕しております」
という言葉を何回聞いたことか。
これもか、これもか、えっ、これもなの?
というくらいみんな絶滅の危機に瀕しているとのことだった。

動物は、とてもよく見えた。
動物のために暗くしているので、
動物が見にくいが我慢してくれとガイドは言ったが、
私から見たら、動物が気の毒なくらいジャングルの中は明るかった。
動物は、確かに檻の中に入れられてはいなかった。
でも、ジャングルの中を動物が好きなようにうろついているわけではなかった。
ガイドがガイドブック通りにしゃべれば、
その順番に動物君たちは現れてくれた。
動物たちはいるべき場所にきちんといた。
見逃すほうが難しいくらい、どれもちゃんと見ることができた。
サーカスの動物を見物しているのと気分はほとんど一緒だった。

狭い国土のほとんどが都市化され、
わずかに残ったジャングルがこの動物園なんだろうと思った。
が、その動物園にも国家の意思はたっぷり染み込んでいた。
管理されたジャングルに閉じこめられた動物たちは、
国家に命令された場所でおとなしくしていた。
「君たちは、自然な姿のまま、みんなに見てもらって幸せだね」
なんて、国家は、動物たちに恩をきせている。
そんな気がしたのは、私だけだろうか。