第90号 そして、ピアノがうまくなった  
             


*受検番号*

「受験票を忘れないように」
と、広告の裏に書いて、テーブルの上において寝た。
子どもの入試で親にできることと言ったら、
風邪を引かないようにうがい手洗いを厳しく注意するとか、
栄養のバランスのよい食事を用意するとか、そんなことくらいだ。
そして、私は、入試の前日、親が“最後にできること”をしたつもりだった。
次の日の朝、娘が言った。
「お母さん、都立の入試は受検なんだよ。だから、受験票じゃなくて、受検票。」
私がきょとんとしていると、娘は、さらに
「都立の入試は“学力検査”なので、受検なのだ」
と追加する。見ると、確かに「受検票」と書いてある。
さらに、「受検番号」と書いてある。
私立のほうは、「受験」だった。
そして、「受験番号」だった。
どうでもいいことだか、ちょっとした発見だった。



*ピアノ*

中3の娘が、これまでこんなによく自らピアノの練習をしたことがあっただろうか。
これまで、ピアノに対する娘の態度はこうだった。
小学校の低学年のころは、親に「練習しろ」と言われたときだけした。
中学年になると、親が「練習しろ」と言わなくなったので、しなくなった。
高学年になると、ピアノがうまくなりたいと思うようになり、
自らピアノの先生を変え、心機一転して練習をはじめた。
ちょっとうまくなった。
中学校に入ると、合唱コンクールの伴奏などを頼まれるようになった。
ピアノの発表会なら、いくら失敗しても自分が恥をかくだけだが、
合唱コンクールではそういうわけにはいかない。
生まれてはじめて、真面目に練習するようになった。
そして、中3。
受験勉強というプレッシャーに耐えかね、娘は、ピアノへ逃げ込むようになった。
勉強の合間にピアノを弾いているのか、ピアノの合間に勉強しているのか、親には判断しかねた。
しかも、ピアノの先生のところで習っている曲ではなく、あくまで趣味のピアノを弾いていた。
まず、好きなアーティストのCDを耳をすまして聴きまくり覚える。
それをピアノで弾くのだ。そして、よく弾き語りをしていた。
これが結構うまいのだ。
親には秘密だそうだが、作曲もしていたらしい。
受験勉強が架橋に入り、プレッシャーが高まれば高まるほど、娘は歌い、ピアノを弾いた。
そして、ピアノがうまくなった。



*塾*

今回の受験で情報は、
「高校受験案内」(市販本)と
「東京都高等学校等募集案内」(学校配布)と
中学校主催の進路説明会と個人面談(3回)だけだった。
あと、高校説明会や授業参観や文化祭に行ったり、志望校で体験授業を受けたりした。
それから、V模擬を5回受けた。これは、いい指針になった。
よく「学校は何もしてくれない」という保護者の方がいるが、
私が今回、保護者として子どもの受験を体験した感想は、「学校はよくやってくれている」だ。
「学校は何もしてくれない」と思う人は、いったい、学校に何をしてもらいたいのだろう。
学校は充分やっていると思う。
我家の場合、塾へ行かせていないので、塾からの受験情報がなかった。
難関私立や国立を目指しているわけではないので、そんなに複雑な情報は必要なかった。
塾情報が多いと、かえって不安のタネが増えるだけかもしれない。
でも、「塾って、いったいどういう勉強をしてるんだろう」と気になることはあった。
塾へ行っている子たちは、行ってない子たちの知らない
何かものすごいワザでも習っているのではないかと不安になるたび、
夫が「うちでやってることと同じことだよ。
塾でぼ〜〜っと先生の話を聞いてるふりしてるだけの子なんていっぱいいるんだから。
塾代は、親の安心料だな」と励ましてくれた。



*志望校*

今回、「偉かったなあ」と娘に感心していることが一つある。
それは、志望校の決め方である。
基本的に私の頭の中には、「合格しないところを受けるから落ちるんだ」というのがある。
「合格したかったら、合格しそうなところを受ければいい」
ところが、娘は、なんと「行きたい高校」を受験した。
「もう一つレベルを下げれば、そうがんばらなくても入れるんだから、そっちにすればいいのに」と、私は安易に思った。
しかし、娘は違った。
「絶対行くんだ」と行って、あるときは、涙ぐましい努力さえしていた。
ピアノに逃げ込んでばかりいたわけではないのだ。
おかげで、運よく娘は第一志望の高校に合格し、晴れ晴れと春を迎えている。
おめでとう!

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