第89号 受験生の親
![]()
今年、私は初めて受験生の親になる。
それで私はすっかりなんだか大変な気分になっているのだが、
実は、いったい何を大変がればよいのか、よくわからないのである。
娘の中学校では、PTAの委員になっても中3の親は伝統的に
「今年は受験で大変だから」
という理由で委員長にならないですむ。
だから、確かに受験生の親は大変に違いないはずなのだ。
実際、中3になると、中学校や高校や塾が主催する高校説明会がある。
三者面談がある。
志望校の文化祭などにも行ってみたい。
その日程に行き忘れたら大変だ。
そういう会に参加するために仕事を休む回数が増えるかもしれない。
というような具体的に数えられる大変さというのは実際ある。
しかし、もっと見えない部分でみんな「大変だ、大変だ」と言っているような気がする。
いったい、何が大変なのか?
![]()
思うに、志望校がはっきりしていて、その志望校が子どもにとって合格圏にある場合、
親子ともども、受験はそう大きなプレッシャーにはならないだろう。
子どもの実力に合った程度に勉強し、
子どもの実力に合った学校を受験すれば、
普通、合格するだろう。
何も大変がることはない。
私が中学生のとき、私の親は、
受験に関して私に何も助言しなかったし、反対もしなかった。
私は自分で志望校を選び、自分で受験票を書いた。
親にしてもらったことと言えば、
問題集代や受験料などのお金をもらったことくらいのような気がする。
親から「勉強しろ」とは言われなかった。
父はいつも「勉強はしたい奴がしろ。したくない奴にいくら言ってもダメだ」と言った。
あのとき、実は「今年はかずみの受験だから大変だ」と私の親も思っていたのだろうか?
![]()
なぜ、親が子どもの受験を大変がるのか。
昔と違って、今は受験が大変になっているから?ホント?
いったい何が昔と何が違うの?
試験問題?
そんなのあんまり昔と変わっていないよ。
それじゃあ、いったい何が大変なの?
知ってる。
受験を大変にする”みんなの合言葉”
「ワンランク上」
この言葉のせいだ!
塾の広告
通信講座のCM
あらゆる場面で目にする言葉
「ワンランク上をねらおう!」
「志望校をワンランク上に変えました!」
どうしてワンランク上をねらわなくちゃいけないんだ?
ワンランク上って何?
私は娘にワンランク上をねらってほしいとは思っていない。
娘は今現在すでによくがんばっている。
だから、そのまま努力していれば行けるだろうという程度のところへ進んでくれればいいと思っている。
今よりワンランク上をねらって、ムリして、もっと勉強しろだの、
勉強の仕方を変えろだの、言うつもりはない。
ワンランク上、ワンランク上という言葉に踊らされて、
合格のメドも立たないような実力以上の学校を狙っていたら、
気分は一年中「大変」に違いない。
![]()
塾の広告や受験生向けの本には、
「ボクは落ちこぼれだった」
「偏差値28から偏差値64にUP!」
とかいうのがある。
そういうこともあるかもしれない。
でも、実際、そういうことはめったにない。
めったにないから本になるのだ。
それなのに、そういうことが我が子にも起こるかもと信じたりする親がいる。
我が子の可能性を信じるのはいいが、
どこまでなら可能で、どこからは不可能か、
現実を正しく見つめる目をもつことも大事ではないのか。
中3になって塾へ行き始めたら、急激に成績が伸びたという子もたまにはいるが、
すでに塾へ行っていて、ずっとぱっとしなかった子が
ある日突然劇的に偏差値がアップした!
なんて話、現実には聞いたことがない。
![]()
さて、今年、我が子は受験生だ。
娘は、まだ一度も塾へ行ったことがない。
模試も受けたことがない。
果たして、来年の今頃、私はなんと言っているだろう。
まだ、こんなのんきなことを言っているだろうか。