インドはすごい  その1                      

数年前、夫とインド2週間の旅を経験しました。
インド暮らしを経験したことのある夫は大のインド贔屓で、
「インドに住みたい」と、今でもよく言います。
デリーの空港を降り、一歩街中へ入った瞬間、
私は何故かわけもなく腹が立ってきました。
「私、インドには住みたくないからね。」
蒸し暑い上になにかが臭う。なにとも言えぬ臭いが街中に沈んでいる。
街全体を眺めるゆとりもなく、
私は、石でできた小さな民家が密集した不思議な路地を夢の中をさまようように歩いていました。


デリーからニューデリー駅に向かうため、私たちはタクシーを拾いました。
ドライバーは、大変フレンドリーで、英語で簡単な挨拶をすませると、
車は走り出しました。そのうち、
「ニューデリー駅は今、スト中で大混乱になっている。
今、駅に行くと、石を投げられ、額から血を流すような惨事に巻き込まれるだろう。」
と、ドライバーが言い出しました。
それも、大げさに額に手を当て「Blood Blood !!!」と言うのです。
私は、かなり驚いて、
「どうすればいいの。」
と、言いました。夫は、あわてず、
「ウソだよ。」
と、言うのです。
「ウソって、だって、この人言ってるじゃん。ストなんだって。流血騒ぎだって。」
「ウソだよ。」
「まさか。」
「こいつら、嘘つきなんだ。」
ええ!?嘘つき!?この世の中に、本当に嘘つきな人なんているの?
信じられない。夫はなんてひどいことを言うんだろう。
インド人をバカにしているのかしら。
私は夫の性格を疑いさえしました。
夫はドライバーに「止めろ」「降ろせ」と、命令しました。
車はなかなか止まりません。
結局、どこかの旅行会社の前で止まると、ドライバーは私たちをそこへ案内しようとしています。
夫は、ドライバーの言うことはきかず、さっさとドライバーとは、反対の方向に歩き出しました。
そして、今度は私たちの要求にきちんと応えてくれるタクシーを探しました。

次のタクシーに乗り込んで、びっくりしたのが、夫の言動。
「オレは、カルカッタに住んでいて、今、ちょっと、デリーに遊びに来ている。
今から、ニューデリーの友達に会いに行くので、ニューデリー駅に行ってくれ。」
と、のたもうた。
おいおいおい、いいのかね、こんなウソ言って。
私が全くもってびっくりしていると、
新しいドライバーは、「観光客でない日本人」に一目置いたのか、
こんどは素直にニューデリー駅に連れていってくれたのでした。
ニューデリー駅は、ストや暴動なんかは起こっておらず、
ごく平和であるのを目にしたとき、私はもう一度、
「うっそー!信じられない!! ああいうウソつくかね、普通。」
と、叫んでしまうのでした。

で、ここまでの話なら、「あ、ちょっと、だまされちゃったのね。」で、終わると思うんです。
が、私のウッソー体験は、さらに続くのであります。

アグラで、私たちは、トレーシーと言う日本に住む日本語がまったくダメなアメリカ人と友達になりました。
しかしトレーシーは、アメリカ人だけあって英語の達人でした。
インド人を英語で言い負かすことはできるが、言い負かされることはない。
そんなトレーシーが話してくれたニューデリーでの出来事はこんなんでした。



彼は、日本で、1日目に泊まるホテルを予約していました。
タクシーに乗って、そのホテルの名前を言うと、
ドライバーが、気の毒そうに言いました。
「そのホテルは昨日、火事で焼けた。もう、そのホテルはない。」
でも、親切なドライバーは、すぐに別のホテルを紹介してくれました。
そのホテルはトレーシーから見たら、相当低級なホテルでした。
しかも、ホテルの隣が寺で、なにやら夜中になっても寺の祭りが終わらず、
ドンチャンドンチャン大騒ぎをしていました。
その晩、彼は結局安眠できず、なんとも不愉快な晩を過ごしたのでした。
朝、早々にチェックアウトして、街へ繰り出しました。
そこで、トレーシーはあるものを見つけてしまいました。
昨日、火事で焼けたと言われたホテルです。
自分の目の前にそびえ立っていたのです。
何処も焼けてなんかいない。立派なホテル。
隣に寺もない。ここなら、安眠できただろう。
トレーシーは、叫んだ。
”Amazing!!”


そう、インドはホントにAmazingな国なのです。

*Amazing(アメイズィング)とは、「驚くべき」「あきれるばかり」という意味の英語です。



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