第19話
なぜか、月と地球の間にバリアがあり、バリアを破った隕石が落下して山火事が起きた。しかし、「この山火事は、新聞の片隅に小さな記事になり、それほどの大事件とは、思われなかった。もちろんウルトラ警備隊にも通報されなかった」(浦野光)。事件の予感…、ノベルスのような始まりです。脚本の南川龍は、SF愛好家としても名高い野長瀬三摩地(のながせさまじ)監督のペンネームで、本作では脚本も担当しています。野
長瀬監督は東宝で長く黒澤組の助監督を務めた演出のオーソサエティで、ウルトラシリーズ最多の22本を監督しました。セブンでは、7本の演出を担当し、「ヒーローは子供に夢を与える存在」をポリシーに、無駄と無理のないカット割りとハッピーエンド的終幕が特徴です。3シリーズ合計21本の円谷一監督とともに、ウルトラの流れをつくった正統派監督といえます。故に「実相寺スプーン事件」のときは血相を変えて怒ったそうです。





STORY



作戦室をあっちに行ったり、こっちに来たり、と落ち着かないフルハシ。
「フルハシ、ちょっとじっとしてろ…。まるで、動物園の熊だぞ!」(キリヤマ)
「いやぁ、こう事件がなくっちゃぁ、体がなまって、しようがありませんよぉ…、月へ行っている、アマギとソガが、うらやましいですねぇ」(フルハシ)
「事件のないのは、平和の証拠だ。いいことだよ。…これで、ミヤベ博士のプロジェクトブルー、つまり、地球防御バリアーが完成したら、いよいよ暇になるぞ」(キリヤマ)
「しかしねぇ、隊長。本当に地球防御バリアなんて、できるんですかねぇ。…月と地球を磁力線の網で包みこんでしまうなんてぇのは、ちょいと話が大きすぎますねぇ…」(フルハシ)
「ま、フルハシの頭じゃ考えもつかんだろうねっ」(キリヤマ)
いたずらっぽい笑みのお茶目なキリヤマ隊長。
「そりゃぁ、そうですよ!…えっ、…隊長も人が悪りいなぁ…」(フルハシ)


「その頃、ミヤベ博士は久しぶりに取れた明日の休日を妻のグレイスと過ごすため帰宅の途中だった。明日はグレイスの誕生日なのだ」(浦野光)


別荘のような家に帰宅したミヤベ博士。
「お〜ん、ごめんなすゎ〜い。明日は慈善パーティの準備があるの…。でも、早く帰ってくるから、いいでしょうぉ」(グレイス)
「ああ、僕もホントは一日ゆっくり寝ていたかったんだよ」(ミヤベ)
「もぉぉ…」(グレイス)
「ああ、そうそうプレゼント」(ミヤベ)
「ありがとう…」(グレイス)
包みを開けるグレイス。中には白いドレスが。
「すてきだわ…。いい方ねぇ」(グレイス)
「あした、僕の車を使っていいよ」(ミヤベ)
「うふ、たくさんお土産買ってくるわねぇ…。あ〜ん、でも、あなたの休みが急に決まったから、誰もお呼びできないわぁ…」(グレイス)
「いいんだよグレイス。明後日はもう月に帰らなくてはならないんだから、せめて明日のお祝いは2人きりでやろうよ」(ミヤベ)
「そうね…。アタシはこのドレスを着て、うふ…。ホントはアタシ、大勢人を呼んで騒ぐのがスキなんだけどぉ…」(グレイス)
「僕は静かの方が好きだね」(ミヤベ)
「んもう…」(グレイス) ←すげぇ疲れる、夫婦の会話…。



グレイスの声をアテているのは、声優の栗葉子さんです。
栗葉子さんは、「昆虫物語みなしごハッチ」のハッチ、「パーマン」のパーマン3号、「ド根性ガエル」の京子など、当り役の数多い声優さんなのですが、なぜかグレイスは、出来損ないのマリリン・モンローといった感じで、声を聞いているだけで、とにかく疲れてしまうのです。



作戦室。
「了解。隊長、月の基地のアマギからです。ミヤベ計画の機材に爆薬を仕掛けている宇宙人らしき者発見。追跡したが消えてしまったそうです」(フルハシ)
「フルハシ、アマギとソガにいっそう注意するよう言っておいてくれ」(キリヤマ)
「何かが起こりつつある…。そんな気がしますね」(ダン)
「うむ、そうなんだ…。ダン、ウルトラホーク3号でパトロール出発!」(キリヤマ)
「了解」(ダン)



アマギとソガは、「月に行っている」ということで今回はお休みです。タイトルクレジットにはしっかり名前は載っていますけど……。営業にでも出かけていたのでしょうか…。



不思議な揺れがミヤベ邸を襲った。
翌朝、目覚めたミヤベ博士は、ある異変に気が付いた。
なぜか、ダイニングテーブルの下に、地下へ続く階段ができていたのだ。
(いつの間にこんなものができていたのだろう…。おかしい…)(ミヤベ)
降りてみるミヤベ、すると入り口が閉まってしまった。
階段を下りると今度は、ツタのようなものに身体の自由を奪われる。
捕われの身となったミヤベ博士。
「ミヤベ博士、目がさめたかね」(宇宙の帝王バド星人)
「誰だ…。お前は誰だ?」(ミヤベ)
「私は、バドー星人。宇宙の帝王だ!」(宇宙の帝王バド星人)
「……」(ミヤベ)
ミヤベ博士の前に異形の宇宙人が姿を現わした。
「だいぶ前、太陽系に来たことがある。その時は、地球はまだ火の玉だった。冥王星にだけ知的生物が生きていた。我々の他に、そんな生物の生存は許せない。根絶やしにしてやったよ…」(宇宙の帝王バド星人)
「それじゃ…、今度は…?」(ミヤベ)
「その通り、今度は地球の番だ」(宇宙の帝王バド星人)
「地球には、ウルトラ警備隊がいる。むざむざとやられんぞ!」(ミヤベ)
「フッハッハッハ…、無駄なことだ。この地球がなくなれば、それで終わりではないか」(宇宙の帝王バド星人)
「地球がなくなる…?…」(ミヤベ)
「そうだ。我々は地球を爆破する。この宇宙から消してしまうのだ。だがその前に、君の磁力バリアの作戦計画:プロジェクト・ブルーの書類が欲しい。そのバリアに触れて、我々の宇宙船が1艘爆発してしまった。まだ完成していないはずなのに、部分的には動き出していたんだね…」(宇宙の帝王バド星人)
あの山火事はバド星人の円盤が爆発したのだった…。
「プロジェクト・ブルー、それがわからないと我々の宇宙船が地球に入ってこられない。それで君の家に来たんだ。どこまで出来上がっているのか、それが知りたい…」(宇宙の帝王バド星人)
「それは言えない。死んでも言えんぞ!」(ミヤベ)
「君はその計画書をこの家に持ってきているはずだ。必ず見つけ出してみせるよ、ハッハッハッハ…」(宇宙の帝王バド星人)



自称「宇宙の帝王」のバド星人…、困ったキャラクターです。
お尻頭にらくだ色…、さえないジジイのようなデザインのわりに、言うことばかりデカくて、そのうえ威張っています。
実は宇宙の帝王は当初、同時進行回である#20「シャプレー星人」のデザインが用意されていましたが、入れ替わっているのです。なぜでしょうか…?…その理由は、戦闘シーンで明かされることでしょう。



パトロール中のホーク3号。
放射能検知器の針が大きく揺れる。
基地と交信するダン。
「大気中に多量の放射能を検出。何かが爆発したものだと思われます」(ダン)
「なにぃ」(キリヤマ)
「さっきV3から、防御バリアに何かがぶつかった、隕石ではないかと連絡があったが…」(タケナカ参謀)
「じゃあプロジェクト・ブルーは、動き出しているんですか?」(キリヤマ)
「V2とV3の間に試験的に張ってみた。宇宙人の侵略にいちばん使われるコースだからねぇ」(タケナカ参謀)


計画書のありかを自白させようとする宇宙の帝王。
「大抵はこの自白電波で、正気を無くして喋りだすのだが…、さすがミヤベ博士だ。作戦を変えよう」(宇宙の帝王バド星人)
変更した作戦とは、帰宅したグレイスを怖がらせることだった…。
「きゃぁ!」(グレイス)
グレイスは防衛基地に通報しようとするが、電話線は切られていた。
「あなたぁ!」(グレイス)
「ミヤベ博士、いいものをお目にかけよう」(宇宙の帝王バド星人)
捕われのミヤベの傍らに、怖がるグレイスの様子が映し出される。
「はっ、グレイス!」(ミヤベ)
「奥さんが大事なら、書類のあり場所を言うんだ」(宇宙の帝王バド星人)
←セコい、セコすぎるぜバド星人…帝王の名が泣くぜ!


作戦室。
「隊長、ミヤベ博士の家の電話が通じません」(アンヌ)
「博士は留守なのか…」(キリヤマ)
「いいえ、電話局にも調べてもらったんですが、これは機械の故障ではなく、電話線が切れている状態だそうです」(アンヌ)
「参謀、プロジェクト・ブルーはミヤベ博士あってのものです。博士の身に、万一のことがあっては…」(キリヤマ)
「博士の家に行ってもらおうか。しかし今日は、博士には貴重な休日だ。邪魔にならぬように警備してくれ」(タケナカ参謀)
「わかりました。…ダン!」(キリヤマ)
「はい、目立たぬように警備します」(ダン)
「隊長、アタクシも…」(アンヌ)
←アンヌったら、すぐダンに付いてくんだから…。


グレイスに迫る宇宙の帝王。
「フッハッハッハッハ…」(宇宙の帝王バド星人)
「キャァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ」(グレイス)
ミヤベ邸に着いたダンとアンヌは、グレイスの悲鳴を聞いた。
「あ〜あ〜、助けてぇ〜」(グレイス)
←このへんの悲鳴、ほとんどAV…。
ミヤベ邸に飛び込んだむダンはウルトラ・ガンで攻撃する。
命中、あっけなく倒れて、炎に包まれる宇宙の帝王。 ←よ、弱すぎる。
グレイスの介抱をアンヌに任せ、セブンに変身して邸内の捜索を始める。
セブンは、大きな姿見の前に立ち止まって鏡に手をかざす。するとセブンの腕は、鏡の中に吸い込まれていくではないか…。どうやらミヤベ博士の捕らえられている謎の空間には、この鏡を通って行き来できるようだ。


「ウルトラセブンが来た。君の書類を取れなかったのは残念だが、引き上げだ。君を連れて行く」(宇宙の帝王バド星人)
「ウルトラセブンから逃げることはできないぞ」(ミヤベ)
「なあに、我々はミヤベ博士を人質に連れている。攻撃できまい。それからこの機械は地球を破滅させる爆弾だ」(宇宙の帝王バド星人)
「……!」(ミヤベ)
「この爆弾は地球へのプレゼントに置いていこう。2時間で爆発するよ」(宇宙の帝王バド星人)
逃げ出す宇宙の帝王。
追いつくセブン。
巨大化する宇宙の帝王。
セブンとの決戦。


戦闘シーン。
ほとんどプロレスそのままです。
セットもリングを想定して作られているようで、場外スペースがあったりしています。いかにも悪そうな、宇宙の帝王はもちろん悪役レスラーです。
ゴング代わりのBGMが始まって試合開始です。
さあ、両者リング中央で、いきなりパンチの応酬であります。
右、左。おぉっと、やや大ぶりの帝王の左、セブンの腹に入った。
倒れるセブン。
帝王はこのスキに岩を拾っている何をする気か?
おぉぉと、岩をセブンに投げている!ぶつけている!…なんと卑怯モノなのでありましょうか…。
ぐったりとしたセブン。だいぶダメージョを受けたようであります。
おぉぉぉと!この間に帝王は、コーナーポスト状の岩のテッペンに登っていたァァァ!
トドメのボディ・アタックだぁぁぁ!
DAHNNNNN!
しかし、セブンはかわします。帝王は地面に自爆!。まさにお約束のタイミングであります。
帝王は、痛がっております。かなりのダメージのようであります。
セブンにやや分がありそうであります…。
おぉぉぉとっ!ここで、「待った」であります…
帝王が、待ってくれと哀願しております。
セブンも攻撃を止め、様子をうかがっております。
あぁぁぁぁぁぁぁっと、しかし、帝王!
かんべんしてくれ…とポーズしながら、なにやら取り出しております…。
あぁぁぁと、メリケンサックだぁ!
まったくセブンから見えません!
死角を利用した卑怯な手であります!
おぉぉぉぉぉっと!油断しているセブンの顔面に、凶器攻撃だぁぁぁぁ!
カツッ、カツッ、カツッ、カツッ、カツッ…
ここでセブンは、場外に落ちて、この場をしのぐようであります…。
しかし、帝王も降りてきました。
まだ何か汚い手をたくらんでいるのでしょうか…
おぉぉぉぉぉぉっと、セブン!いきなり帝王の頭をつかむと、放送席のテーブルらしき岩に、帝王の頭を叩きつけはじめました。さすがのセブンも怒ったようであります!
さぁ、ここで一足先にセブンがリングに戻って参りました。
おぉぉぉぉぉぉぉっと、ダメージはないのか?…ジャンプ一番、帝王がリングに戻ってきたぁぁぁぁ!
あぁぁぁっと、セブン。この勢いを利用して、ジャイアント・スイングだぁぁぁぁぁぁ!。
グルグル、グルグルぶん回すゥ!!!
おぉぉぉぉっと、投げ飛ばしたぁぁぁぁぁ!!!
あぁぁぁっと帝王!コーナーポスト岩に頭を打ちました!
もういけません帝王!
赤い泡を吹いております。セブンの大逆転勝利であります!
カッコ悪く絶命する、宇宙の帝王バド星人。
決まり手:ジャイアント・スイング&投げ技



ここまでやれば立派というしかないでしょう…。
これで、宇宙の帝王とシャプレー星人のデザイン入れ替えの理由が、はっきりとわかりました。
プロレスにするなら、やはり悪役レスラーは、いかにも悪そうでマヌケそうな宇宙の帝王のほうが、イメージ通りでしっくりくるからなのでしょう…。
また、宇宙の帝王のアクバティック・アクションには、トランポリンが使用されています。そこで、宙返りなどのトランポリンシーンでは、スーツアクターの他に専門スタントが参加しています。お子様向けプロレスにもそれなりの手間ヒマをかけて作られていたのです。



事件は解決した。
「それで、ミヤベ博士。書類はどこに隠してあるんですの?」(アンヌ)
「隠してなんかないよ」(ミヤベ)
「えっ…」(アンヌ)
ミヤベ博士はグレイスの身体にライトを当てる。
すると白いワンピースから文字が浮き出してくるではないか。
「おぅ、あなたのプレゼントにこんな仕掛けがしてあったの…。驚いたわぁ…」(グレイス)
←こんなことされて喜ぶか?



鏡の中の世界が登場します。
鏡に入るセブンを追いかけるアンヌ。
しかし、入ろうとした瞬間、鏡にぶつかるアンヌ。
このシーンは、スリーカット仕立てで構成されています。
@まずワンカットめは、鏡の中に大きなセットを立て、鏡面には、鏡ではなくガラスを置いて、あちら側にアンヌ、こちら側を吹き替えにして、タイミ
ングよく両者を近づかせて、ワンカット。この吹き替え役は、結髪の田口さんでしょうか?他に女性スタッフといえばスクリプター関根さんなので、結髪さんが駆り出された可能性が高いと思われます。
A続いてツーカットめは、アンヌが鏡面にぶつかります。ここでは、ガラスの鏡を本物の鏡に置き換えてワンカット。
Bそしてスリーカットめは、鏡の中の世界からこちらを見ている構図にな
り、ガラスの鏡のこちらにセブン、ガラスの向こうの現実世界にアンヌでワンカット。セットの関係から順番的には、@とBが組み合わされて、Aが前後して撮られたと考えられます。
野長瀬監督の持ち味でもある無駄のないシャープなテンポのつなぎで、何気ないシーンがメルヘン調の不思議な画面に仕上がっています。
それにしても、鏡を叩くアンヌがとても可愛いですね…。



「ダンより本部へ…」(ダン)
「キリヤマだ…」(キリヤマ)
「宇宙人は全滅。ミヤベ博士は無事に助け出しました」(ダン)
まるで自分の手柄のように報告するダン。
「全部ウルトラセブンの働きです」(アンヌ)
横から口を挟むアンヌ。
「コイツぅ」(ダン)
アンヌをこづくダン。
「なにぃ?なにがコイツだ」(キリヤマ)
二人の仲の良さに、苦笑しながら…。
笑いの中からカメラが退き、穏やかな終幕。





ALIENS&MONSTERS



宇宙の帝王:バド星人
身長:2m〜40m
体重:100s〜5千t
出身:バド星?
武器:メリケンサック
特徴:アタマがオシリ
弱点:事実無根な自信過剰





ACTOR&ACTRESS



ミヤベ博士(野村明司)
グレイス(リンダ・マルソン)





LOCATION



富士山の見える別荘地(河口湖?忍野?)










                        





            「ウルトラセブン」ストーリー再録  第19話「プロジェクト・ブルー」
              12/JUL/2001 初版発行  30/DEC/2001 第二版発行
              Copyright (C) 2001 Okuya Hiroshima All Rights Reserved





制作19話  監督:野長瀬三摩地
脚本:南川 龍   特殊技術:的場 徹