「セブン怪獣の出ない3部作」の3本目。
帰ってきた、実相寺昭雄監督。
セブンでもっとも記憶に残っている作品…。
そして、シリーズ全体のイメージを代表する作品……。





STORY



「地球防衛軍は、長距離用宇宙ロケットスコーピオン号を完成させた。テスト飛行に成功すれば、太陽系をはるか、銀河系のどの星へも自由に行けるようになるだろう」(浦野光)


アンダーライティングの作戦室…。
「蠍座と冥王星が並び、さらにそこに火星が通過する…」(ソガ)
「何いってんだ、そんな星占いに振り回されて!」(フルハシ)
「いや、蠍座、冥王星、火星と重なったときには、死神の座といって、何か災難が起こるものだ…」(ソガ)
いつになく神妙な面持ちのソガ。
「今度の宇宙ロケットは、スコーピオン…、つまり、サソリだというのも気にかかる…」(ソガ)
「バカァ!スコーピオン号は、科学の粋をこらしてつくられた、宇宙ロケットなんだ!お前の星占いとは関係ないよぉ!」(フルハシ)
一笑に付す、フルハシ。
「頼りねぇテストパイロット!」(アマギ)
相変わらず口の悪い、アマギ。
「ハッハッハッハ…」(フルハシ、アマギ、アンヌ)
「占星術を馬鹿にしちゃあイカンよ…。潮の満ち干が月と関係があるように、万物はすべからく天体の動きに影響をされながら生きているんだ…。科学万能の時代になればなるほど、我々は宇宙の神秘と向き合ってみる必要が、あるんじゃないのか?」(ソガ)
いつもとはちょっと違う、ソガ。
「いいか、スコーピオン号は君たちが操縦するわけじゃない…。すべて計器がやってのける。航路からロケットの状態まで、すべて計器がはじき出し、地上に送ってくる…。我々はそのデータを見ながら、地上から操縦するって仕組みだ。まあ極端に言えば、君たちは終始眠っていていいわけだ」(キリヤマ)


長期自動航行が可能な最新鋭宇宙船スコーピオン号のテスト飛行が始まった。テストパイロットは、ダンとソガの二人である。
「スコーピオン号、大気圏脱出。予定のコースに乗りました。各計器異常なし。ロケットエンジン全開…」(ダン)
「これより、計器航行に移る。切り替えてくれ」(キリヤマ)
「了解…、計器航行に切り替えました」(ダン)
「よし、ご苦労…。では、これから睡眠テストに移る。あとは一切、電子計算機に任せろ。安心してぐっすり眠るんだ…」(キリヤマ)
「長い夜だ、いい夢をな!」(フルハシ)
眠りにつく、ダンとソガ。


アンダーライティング、というより真っ暗な作戦室…。
スコーピオン号遠隔操縦機の前のアマギ。
「…隊長、これを見て下さい」(アマギ)
「コースを外れているじゃないか、どうしたんだ!」(キリヤマ)
「はっ…いや、それが勝手に外れていくんです」(アマギ)
「軌道制御装置は?」(キリヤマ)
「正常です。電子計算機に誤りがあるとも思えません」(アマギ)
「じゃあ、ロケットの故障か?…すぐ、ダンとソガに連絡するんだ」(キリヤマ)
「ダメです!…あと20日間、あの二人は、目を覚まさないようになっています」(アマギ)
心配そうに集まる、フルハシとアンヌ…。
アンヌの独り言…。
「今ごろ、夢を見ているわ…。…きっと!」(アンヌ)
ダンの無事を自分に言い聞かせるように…。
←実相寺監督の作戦室は、いつも夜勤みたいです。



セブン製作のメインステージがあった東宝美術センター(現:東宝ビルト)や円谷プロのある東京都世田谷区。当時その区内を縦横に走る路面電車がありました。東急玉川線、通称「玉電」です。渋谷と二子玉川園を結ぶ本線の他に、二子玉川園から砧本村までの「砧線」、三軒茶屋から分岐して下高井戸に至る「下高井戸線」という支線がありましたが、3路線まとめて「玉電」と呼ばれていました。昭和30年、この玉電に画期的なデザインの新型車両がデビューしました。東急200形、通称「ペコちゃん」です。以来、実相寺監督は「ペコちゃん」のとりことなってしまったのです。
「魂を200形に吸い取られていたわたしは、当時ウルトラセブンの後半で演出を担当した折、その宇宙船のフォルムを200形に似せよう、と思ったのだ。第四惑星の悪夢という回である。宇宙船が、長い眠りの果てに擬似的な地球へ漂着する際に、その宇宙船の内部を200形の先進的な構造にしようと思ったのだ。そう、連接車の革新的なフォルムが私にとって具体的な宇宙船だったのである。でも、その円形の構造をセットに再現す
るのがむずかしく、のぞみは叶わなかった。だから、実際に作ったセットは似ても似つかぬものとなり、撮影した場面は、かなり暗いライティングしてしまった」(実相寺昭雄「世田谷線に結ぶ夢」、「東京人」155号より)
実相寺監督は悔やんでいますが、画面をよく見ると、スコーピオン号内部の丸みや操縦席前面窓の形状など、そこはかとなくペコちゃんデザインのエスプリが感じられると思いますがいかがでしょうか。



20日後、目覚めた二人。
小鳥がさえずり、爽やかな朝のようだ。
「あれから、30日が経過している…」(ダン)
「ずいぶん寝たな…。どこだい、ここは?」(ソガ)
「わかりません…」(ダン)
「…連絡してみよう」(ソガ)
「こちらスコーピオン号、本部応答願います。応答願います…」(ダン)
「なあに、今に迎えに来てくれるさぁ…」(ソガ)
災難が起こると言ってた割りに、呑気なソガ。
←1ヵ月も寝ていたから、忘れちゃったのかな…。

やっきになっている作戦室。
←1ヵ月も続けていたから、壊れちゃったのかな…。
「まったく手がかりなしです」(フルハシ)
「宇宙前衛基地も、なんら無電をキャッチしてないそうです…」(アマギ)
相変わらず灯火管制の作戦室。
アンヌが思わず、つぶやく…。
「…遭難…?」(アンヌ)
(SE)レジスターの合計音「カッシャァァァン!」
←実相寺、何の真似だ?
「決め付けるのは早い…。覚醒タイムスイッチが遅れて、寝過しているのかも知れんしな…」(キリヤマ)




平和島(東京都大田区)。
造成中の埋め立て地…、水溜まりだらけの荒れた土地…。
恐る恐る、周りを見渡しながら歩く、ダンとソガ。
ガソリンスタンドがあった。
「なぁ〜んだ、やっぱり日本じゃないか…」(ソガ)
「…本当だ」(ダン)
近くに男がいた。声をかける二人。
しかし、そそくさと、避けるようにいなくなる男。


品川埠頭(東京都品川区・港区)。
巨大クレーン下の広大なコンテナ置き場…。
「ソガ隊員、ここはいったいどこなんでしょうねぇ?」(ダン)
「わからんなぁ…」(ソガ)
探索を続けるダンとソガ。
すると、広場に赤電話があった。
他に何もない所に、ただポツンと、である。
本部に電話するダン。
「只今の電話番号は廃番になりました。おかけ直しください…」(電電公社)
←金を入れねば、通じはしない…。
初老の女がいた。声をかけるダン。
やはり、そそくさと、避けるようにいなくなる女…。


自転車に乗っている少年…。
疾走するダンプカーが接近する…。
ダンプカーに引っ掛けられ、転倒する少年。
「坊や、しっかりしろ。なんて酷えクルマだ!」(ソガ)
(SE)ハエの羽音のような耳障りな音。
「大丈夫かい?」(ソガ)
「ありがとう。オジさんたちどこから来たの?」(少年)
←25才と23才なのに、オジさんかい…。
「地球防衛軍さ。富士山の麓…」(ソガ)
胸のTDFマークを指差しながら、
「坊や…、このマーク、知らないの…?」(ソガ)
首を横に振る、少年。
「坊や、ここはいったいどこなんだ。日本のどの辺り…」(ソガ)
「ニッポン…?」(少年)
そこに、ジープが走ってきて、止まった。
軍服姿の男が降りる。
今起こったことを説明するソガ。
「トラックにはねられたんですよ。悪質運転だ!」(ソガ)
←空き巣運転…と、聞こえていました。一体、どんな運転だ?
「確かにクルマが悪かった。手配して逮捕すべきです」(ダン)
軍服男に詰め寄る、ダンとソガ。
「警察にそんな暇はない!人間がよければ事故は起こらずに済んだ。車はよけようにもよける場所がない!」(軍服男)
聞く耳持たずに、まくし立てる軍服姿の男。
「したがって、事故を起こした人間が悪い!」(軍服男)


                    


「お前たちを逮捕する!」(軍服男)
大きなビルに連行され、内部を軍服男に案内される、ダンとソガ。
「我が国の誇る、総合センターだ。司法、立法、行政。その他、学校、病院、新聞、テレビ。一切の機関が、一箇所に総括されている」(軍服男)
(SE)コカッ、コロッ…。
軍服男が示した先には、テレビスタジオがあった。
DADADADADA…
機関銃が連射する、バタバタと倒れる人々…。
テレビスタジオの光景である。
ドラマの収録中なのであろう…。
「見ろよ、やっぱり日本だよ」(ソガ)
無言で、口を動かす軍服男…。その度に、コカッ、コロッ…というあの耳障りな音がする。どうやら、あの音は男が口中で何かを転がしたり割ったりしている音らしい…。
「…このオヤジ、少しおかしいんじゃないのか?」(ソガ)
地球だと思って疑わないソガ。



「…ウルトラセブンでは共同脚本を含めて相当数書くことになった。中でも第四十三話『第四惑星の悪夢』は忘れがたい。第四十四話『円盤が来た』(制作話数)と共に川崎高・上原正三共同脚本、監督・実相寺昭雄、特技監督・高野宏一になっているが、私が書いたのは『第四惑星の悪夢』一本。『円盤が来た』は川崎が書いた。川崎は実相寺のペンネームである。
初めは怪獣をわんさか出そうと言うことから始まった。ウルトラセブンも終盤にかかり、赤字の累積がやまず安く早くが制作サイドの注文であった。しからばこれまでの怪獣たちを総動員して『宇宙人15+怪獣35』というド派手なシナリオを書いた。このところ引き締めがきつく全体に作品がちまちましている。そうしたムードをぶっ飛ばすつもりで書いたのだが、やり過ぎと言われ、『第四惑星の悪夢』になった。(上原正三、※8)
←怪獣わんさかにならなくて、良かった…。



長官室。
「長官に、逮捕してきたと伝えてくれ」(軍服男)
「はい…」(アリー)
長官室に招かれた、ダンとソガ。
「遠路はるばるようこそ…」(長官)
独特な物言いのニワ教授…、じゃなかったロボット長官。
「お前たちが来るのを首を長くして待っていたんだ」(長官)
「我々のことを?」(ダン)
「お前たちのロケットを誘導して、この惑星に着陸させたのは、我が第四惑星の優れた科学技術だ」(長官)
「第四惑星?」(ソガ)
「ここは、地球から約120万億キロは離れた、第四惑星だ」(長官)
そういうと、おもむろに目の辺りの皮膚をはずす。
そこには、機械があった…。
はずしたものは皮膚ではなく、カバーだったのだ。
「この惑星も昔は人間が支配していたのだ。ワシの記憶装置によると、…え〜
えっと…、あれは二千年も前のことだ…」(長官)
話をしながら、秘書のアリーに後頭部を開けさせる。
開いた頭蓋も機械が詰まっていた。
そして、その機械仕掛けに、油をささせている…。
「人間は、我々ロボットを生み出したからというもの、すっかりナマケ者になってしまって、つまり、やることがなくなったわけさ。…そのうち、ロボットに取って代わられたいうわけだ…」(長官)
話が終わると、目の辺りのカバーを元に戻す。
目の前の光景が、とても信じられない様子のソガ…。
口が開いているダン…。
「…フハッハッハッハ…」(長官)
鳩が豆鉄砲をくらったような顔の二人を見て笑うロボット長官。


                    


秘書のアリーがコーヒーを入れる。一口、飲む。
「ぬるい!砂糖が多い!」(長官)
アリーに平手打ちを食らわすロボット長官。
(BGM)ノンマルトのテーマ。
虐げられる先住民族の悲哀の表現か…。
「すいません。データ通りにやったんですけど、以後気を付けます」(アリー)
「どうも人間は、物覚えが悪くてイカン。コーヒーの味が、毎日違うんだからな」(長官)
呆れ顔のロボット長官。

長官室を出る一行。
その時、アリーがダンにメモをそっと渡した。
メモを見るダン…。
「あなたたちも殺される。地球が危ない」
(地球が危ない…。どういう意味だろうか…?)(ダン)
ソガにメモを見せるダン。
「おい、ここ精神病院かなんかじゃねえのか…」(ソガ)
←現在では、とても言えないセリフです。
「とにかく、おかしいですよ。やっぱり地球じゃないですよ」(ダン)
「そんなバカな…」(ソガ)
←長官、ロボットだったよねえ…、ソガ君…。


二人は体育館のような場所に案内された。
数人の人間が、横一列に並んでいる…。
彼らに向かって、軍隊らしき男たちの一斉射撃。
崩れ落ちる人間たち…。
「あれは?」(ソガ)
「人間どもの死刑だ」(長官)
死刑執行の真っ最中だったのだ…。
「あの死刑囚たちは、どんな罪です?」(ソガ)
「人間もロボットらしく生きるべきだ、と主張する連中でね…。A級の政治犯だ」(長官)
「……」(ソガ)
顔を見合わせる、ダンとソガ…。


コンピュータールーム。
「ここが、わが第四惑星の頭脳だ。政策方針からロボット市民20万の健康管理まで、すべてここから、はじき出されるわけだ。…向う500年間のあらゆる方面のデーターが出されておる」(長官)
「我々をこの惑星に誘導した目的は何ですか?」(ダン)
「コンピューターの計算によれば、我が第四惑星の人間たちは、向う500年間のうちに滅亡する運命にある。ところが人間は、我が国にとってはなくてはならぬエネルギー源だ」(長官)
「そこで僕たちを…」(ダン)
「そのとおり。お前たち地球人は立派なエネルギー源になれることが判った。地球を植民地にすれば、30億の人間が確保できる計算だ」(長官)
「どうやって、地球を植民地にするんだ?」(ソガ)
「我が国の戦略部隊が、間もなく地球に向うことになっておる」(長官)
「なんだって!…クソ!…。何から何まで、計算通りかっ!」(ソガ)
怒るソガ。
「コンピューターは間違いをしない。そして、いつも冷静だ」(長官)
冷たい視線で二人を見る、軍服男…。


総合センターテレビスタジオ。
銃の乱射シーンで撃たれた人たちが倒れたままだ。
「…死んでいる?!」(ソガ)
「ドラマじゃなかったんですか…?」(ダン)
「あくまでもドラマだ。ドラマは常に真実を要求されておるからなぁ」(長官)
「そのために実弾を!」(ダン)
「さよう…。地球のドラマづくりは、そうではないのかね…?」(長官)
←実相寺監督の究極演出願望…?


長官たちの隙を突いて、逃げ出すダンとソガ。
しかし、出口が見つからない…。
そこに、アリーが救いの手を差し伸べる。
「さ、早くこっちへ…」(アリー)
アリーに導かれた二人は、広い倉庫のような建物へ入る。
「裏に、死体積車が来ています。死体と一緒ならゲートを出られ
ます」(アリー)
「あなたは、なぜ僕たちを…?」(ダン)
「弟に聞いたのです」(アリー)
「じゃあ、あの少年の…」(ソガ)
「時間がありません…。じゃ、後で…」(アリー)
死体運搬車に紛れ込み、総合センターを脱出する、ダンとソガ。



不気味なサディスト:ロボット長官に虐待される、第四惑星人の女性秘書:アリー。
アリー…、イスラム教の世界では意味のある名前です。
イランとイラクの争いで有名になった、シーア派とスンニー派。この対立に絡んでいたのがアリーなのです。シーア派は、始祖マホメットの娘婿アリー(第四代教主)をマホメット同様に神聖視していますが、対抗するスンニー派はこれを認めていないことが原因です。また、それ以上にシーア派がスンニー派に対して怨念を抱くのは、アリーの嗣子アル・フサインが、スンニー派の教主によって謀殺されたから、だそうです…。いやはや、なんとも意味深なネーミングですね。



第四惑星、人間居住区。
空には、四つの月が浮かんでいる。
「月が四つ!」(ソガ)
驚愕のソガ…。
「ねえ、地球人をかくまって…。お願い…」(アリー)
「おい、そんなことしてみろ、全員死刑だぞ」(町の男A)
「このままじゃこの人たち、死刑になっちまうわ!」(アリー)
町の人間に懇願してまわるアリー。
(SE)PIN PIN PIN PIN PIN ……拍子木の連打?
「おい、来たぞ!」(町の男B)
到着するジープ、降り立つ長官と軍服男。
「おい、あっちから逃げろ!」(アリーの恋人)
「さあ人間ども、かくまった地球人を出してもらおうか!」(軍服男)
「どうやら、お前がガイドらしいな…。えっ、そうだろう…」(長官)
アリーと少年に近づく、ロボット長官…。
「言わんつもりだな…。どうなるか、知ってるな!」(長官)
詰め寄るロボット長官。
「娘を死刑にしろ!」(長官)
軍服男に下命するロボット長官。
「やめろ、アリーに罪はない!」(アリーの恋人)
「こいつも一緒にやれ」(長官)



「…新型宇宙ロケットのテストパイロットとしてダン隊員とソガ隊員が乗り込む。ロケットは順調に飛行。だが着いた所は地球そっくりの惑星。そこはロボットが支配する第四惑星だった。そんなストーリーであった。実相寺は天才演出家と噂される男だ。私は天才が苦手なのでよけい緊張した。
『なまげん(生原稿)は読みにくい。印刷にしてよ』
原稿をぺらぺらと読んだ実相寺は、そう言い残してどこかへ行ってしまった。それもいきなり決定稿でよいという。何となげやりな男だと思った。組むんじゃなかったと後悔した。しかも多少の手直しで決定稿になった。ところが試写を見て驚いた。凄い映像世界。シナリオの不足部分を、ト書きの行間を演出することで見事に補っている。不可思議で不気味なSF作品に仕上って面白いのだ。演出家の才能をあらためて認識させられる作品になった。」(上原正三、※8)

あまりねられていないシナリオ…、確かにそんな感じはありますね。特に、セリフ部分が…。
実相寺監督は、川崎高名義で、共同脚本としてクレジットされていますが、実は本作品では加筆修正程度で、同時進行の#45「円盤が来た」をほとんどひとりで執筆したのでした。それにしても、川崎高というペンネームは何に由来しているのでしょう?
実相寺監督は当時、品川区大井に住んでいました。「ウルトラQ」のために書いた「キリがない」は、発想の奇抜さに製作がついていけないという理由からボツになりましたが、その時のペンネームは、万福寺百合でした。これは、苗字の「寺」つながりと、自宅からそう遠くない名刹「万福寺」(大田区南馬込)に引っ掛けた命名だと思います。百合は?…、え〜とぉ…、その時イレ込んでいた飲み屋のネーちゃんの名前でしょう…。きっと…。
まさか、現在の小田急線新百合ヶ丘駅付近の地名、「万福寺」と「百合丘」を足したなんて、つまらない理由は聞きたくないものです…。



公開処刑場で、銃殺刑執行直前のアリーと恋人。
不安そうに二人の様子をうかがうアリーの弟。
満足そうに微笑みをたたえる、ロボット長官。
相変わらず無表情の、軍服コカッコロ男。
(SE)無人の観客席なのに、万雷の拍手が鳴っている…。
射手を狙撃する、ダンとソガ。
とりあえず、死刑の執行は阻止できた。
「取り押さえろ!」(長官)
その時、頭上から無数の飛行音がした。
「我が第四惑星の地球侵略部隊だ。地球は間もなく、我が掌中に落ちるのだ」(長官)
勝ち誇こるロボット長官。
飛行音からすると、かなりの大軍のようだ。
「クソッ…」(ソガ)
DAM!
「ウワッ…」(ソガ)
軍服男に撃たれて負傷するソガ…。
DAM!
今度はダンを狙う。
「デュワッ!」(ダン)
よけながら変身するダン。



セブンは、鬼神のような勢いで、総合センター、宇宙船発射場、戦力部隊などの、第四惑星全兵力を徹底的に粉砕します。怪獣こそ不在ながら、怒涛のビル破壊、基地破壊、船団撃墜などに、ビームランプからショット弾、指先から光線技、ワイドショットなどなど、特撮、なかでも光学合成の見せ場は豊富でした。経費節減という理由から怪獣を出さなかったにもかかわらず、実相寺監督は他の監督サンの倍ぐらいフィルムを使うそうですし、これだけ多くのカットを合成しては、あまり節約できなかったのではないでしょうか…。



地球に帰れた、ダンとソガ。
「ハッハッハ…。おい、もう帰ってこないかと思ったぜ」(フルハシ)
「…第四惑星、恐ろしい星だった…。ロボットが人間を支配しているんだ」(ソガ)
「第四惑星って本当にあったの?」(アンヌ)
力強く、うなづくダン。
「眠っている間に見た、夢か幻じゃないの?」(アンヌ)
「いや…夢じゃない!…夢じゃ…」(ダン)
「まあ、いいじゃないか。とにかく、スコーピオン号のテスト成功を機会に、地球防衛軍は全機関を電子計算機システムに切り替えるつもりだ。…みんな楽になるぞ」(キリヤマ)
「そんなことしたら、第四惑星みたいに…」(ソガ)
「おい、もういい!もういい!」(フルハシ)
「俺は見たんだ…。ロボットの長官…。…処刑される…人間……」(ソガ)
ムキになるソガ。
暗い表情のダン。
あまりに真剣な二人を見て、不安顔のアンヌ。
「疲れてるな…、ゆっくり静養でもしてこい…」(キリヤマ)





境橋(神奈川県川崎市)。
緑の中を散歩する、ダンとソガ。
「キレイですねぇ…」(ダン)
自動車専用道路をまたぐ橋から道路を見下ろす。
その道路は、山を削り、谷を埋めて、建設されている。
「でも、地球の自然もだんだんと削られていくみたいだな…」(ソガ)
地球も目先の発展を優先して、かけがえのない自然を破壊したり、科学の進歩を過信して、機械に頼り放しにしていたら、いつしか第四惑星の二の舞になるのではないだろうか…。
「明日の天気は?」(ダン)
ダンは、下駄天気予報を提案する。ソガの気を紛らわそうと、あえて非科学的なことをしようというのだ。
「晴れだ!」(ソガ)
ダンの思いやりに気づいたソガ。
「雨ですよ…」(ダン)
「よし…」(ソガ)
はりきって、下駄を放るソガ…。
軽い放物線を描いた下駄は、仰向けに落下した。
明日は、雨である。
「ハッハッ…、ハッハッハッハ……」(ダン&ソガ)
大爆笑の二人。
この気持ちを忘れない限り、太陽系第三惑星は決して、第四惑星の悪夢に怯えることはないのだ。
去りゆく二人の足元を車が流れてゆく…。










ALIENS&MONSTERS



ロボット長官(成瀬昌彦)
身長:170p
体重:60s
出身:俳優座
特技:ビンタの連打
特徴:人前でアタマの中を見せびらかす
弱点:オイル切れ



ロボット署長(森塚敏)
身長:172p
体重:56s
出身:俳優座養成所第1期生
特技:ムチ打ち
特徴:コカッコロッ音
弱点:長官にはアタマが上がらない


ロボット長官と軍服姿のコカッコロ署長は、同じところからやって来ました。もちろん、第四惑星のことではありません。劇団青年座のことです。
青年座は、1954(昭和29)年5月に、俳優座の準劇団員だった若人が10人で旗揚げした、当時では珍しい創作劇団でした。設立メンバーは、成瀬昌彦、土方弘、初井言榮、山岡久乃、森塚敏といった俳優座出身の諸氏が名を連ねられており、初代の代表は成瀬昌彦さんでした。
そう、長官と署長は同じ劇団だったのです。しかも、長官が代表で、署長は配下という関係でした。#29「ひとりぼっちの地球人」のニワ教授役でゲスト出演した成瀬さんは、満を持して盟友森塚さんとともに、実相寺セブンにやってきたのです。
時は流れて現在の青年座は、西田敏行さんが劇団の顔となって、さらに飛躍されています。そして、劇団代表には見覚えのある顔が…。そう、署長です。森塚敏さんは、今も現役で役者を続け、劇団代表も兼務されているのです。成瀬昌彦さんや山岡久乃さんは亡くなられましたが、劇団青年座長官は、昇格した「コカッコロ署長」が頑張っています。劇団内ではきっと、あの音が鳴っているんでしょうね…。

また、成瀬昌彦さんは、「帰ってきたウルトラマン」#37・38の前後篇、「ウルトラマン夕陽に死す」「ウルトラの星光る時」で、郷秀樹(団次郎→団時朗)が居候している坂田健・アキ(岸田森・榊原るみ)兄妹を殺害して、怪獣ブラックキングを送り込み、ウルトラマンを窮地に追い込むという、最凶宇宙人ナックル星人の人間バージョンである宇宙電波研究所所長で再登場されます。厭になりすぎるぐらい酷いヤツを、飄々と演じられるのは、成瀬さんならではの持ち味です。





ACTOR&ACTRESS



第四惑星人でロボット長官秘書のアリーには、愛まち子さん。
愛さんは、1966(昭和41)年テイチクレコードより「夢は夜ひらく」でデビューした歌手でしたが、今ひとつヒットに恵まれませんでした。そこで女優業への進出も図り、初出演が本作品だったのです。
デビュー曲の「夢は夜ひらく」は、本作品の放映された1968年に、藤圭子さんの「圭子の夢は夜開く」として、大ヒットしました。当時は同じ曲を競作と称して、複数の歌手がリリースすることは珍しくありませんでした。歌詞から受ける印象もさることながら、愛まち子さんの、どことなく暗い陰りのある表情には、同じ曲をヒットさせた、ヒッキーご母堂さまの往時との共通点を感じぜすにはいられません。





LOCATION



平和島(第四惑星)
品川埠頭(第四惑星)
世田谷体育館(公開処刑場)
TBS(総合センターテレビスタジオ)
たまプラーザ団地(人間居住区)
境橋(ラストシーン)





EXTRA



ロボット長官の頭部合成について、光学合成を担当したの中野稔氏は、VTR「私の愛したウルトラセブン」の中で、「今見ても、細かい合成やってたな、って思いますけど…、それにしても中身がねぇ…。あのころは、精一杯だったんですよ…、これでも…」と、回顧しています。

                    

そして、実相寺昭雄監督は、「ウルトラマンに夢見た男たち」((実相寺昭雄著)で、「こわれた目覚まし時計…」になってしまったと、嘆いています…。
しかし、セブンで最も記憶に残る、名シーンのひとつです。










                        





            「ウルトラセブン」ストーリー再録  第43話「第四惑星の悪夢」
              30/SEP/2001 初版発行  27/JAN/2002 第二版発行
              Copyright (C) 2001 Okuya Hiroshima All Rights Reserved





第43話
脚本:川崎高・上原正三  監督:実相寺昭雄  特殊技術:高野宏一 制作43話