#31「悪魔の住む花」は、映画「ミクロの決死圏」をモチーフにしましたが、今回も映画を範としています。その映画とは、2001年夏にリメイク版が公開された「猿の惑星」(1968:20世紀フォックス)です。もっとも、「猿の惑星」的の猿人間も登場しますが、主役の宇宙人は、ゴールデン・ライオン・タマリンという、珍獣の部類に入るサルがモデルです。
STORY
夜の世田谷体育館前。
パトロール中の二人の警察官は、不審な大男を発見する。
大男は、ニワトリを2羽ぶら下げていた。
「どうしたんだ、これは?」(警察官A)
「盗んできたのか?」(警察官B)
「……」(大男)
無言のまま、暴れはじめる大男。
警察官を投げ飛ばし、警棒もたたき折る怪力だ。
やむやく発砲して、手錠をかける警察官。
←ニワトリドロボウ…、丸腰なのに発砲…。凄い時代ですね…。
しかし、手負いの大男は、身体中が毛に覆われてゆく…。
「あっ…うわぁぁぁ!」(警察官)
大男は、猿人間だったのだ!?
手錠を引きちぎり、警察官に襲いかかる…。
二人の警官を素手で惨殺する、凶暴な猿人間。
いつもより暗めの作戦室。 ←実相寺監督の影響か…?
「これが昨夜の現場写真だ」(キリヤマ)
「惨いやりかただ…」(フルハシ)
「死因は、二人とも頚骨を粉々にされていることだ」(キリヤマ)
「ええっ…」(フルハシ)
「おそらく相当強烈な一撃を首に受けたと思われる」(キリヤマ)
写真を見せながら状況を説明する隊長。 ←特別機動捜査隊へ復帰のためのリハビリ開始?
「その力は、人間の限界をはるかに超えている」(キリヤマ)
「…すると、人間じゃないかも知れませんねぇ…」(ダン)
「うん、県警から捜査の依頼を受けたのも、その点からだ」(キリヤマ)
別の写真を取り出す隊長。
「これを見てくれ。真っ二つにされている。これは人間の力では考えられんことだ」(キリヤマ)
へし折られた警棒が写っている。
「たまたま、現場附近を通りかかった目撃者の話によると、ゴリラのようなものが、3メートルもある塀に飛び上がって、軽い身のこなしで塀伝いに逃げていったとのことだ…」(キリヤマ)
「ゴリラねぇ…、なるほど怪力なはずだ!」(フルハシ)
「あわてるな。まだゴリラと決まったわけじゃない。初めからゴリラと判っていたら、何もウルトラ警備隊に捜査を依頼しなくともよかろう…」(キリヤマ)
「いや、しかし…」(フルハシ)
「まあ、聞け」(キリヤマ)
地面に点々と残る血痕の写真。
「これは犯人が撃たれたとき、傷口から出たものと見て間違いない。また、目撃者の逃げて行ったという塀からも、これと同じ型の血液が検出されている。つまり、これは犯人の血液なのだ」(キリヤマ)
「ゴリラのでしょう?」(フルハシ)
「…違う」(キリヤマ)
首を横に振る隊長。
「ゴリラの血じゃないんですか?」(ダン)
「うむ…。人間の血だ」(キリヤマ)
「人間?」(アンヌ)
「恐怖のあまり、ゴリラと間違えたんでしょう。似てますからねぇ、直立して歩いていれば…」(ソガ)
楽天的なソガ。
「では、仮に人間だったとして、3メートルも飛び上がれると思うか、しかも、警棒を真っ二つにして、首をたたき折るほどの力、一体どんな人間が想像できる、言ってみろ」(キリヤマ)
「…はぁ…」(ソガ)
「ダンは?」(キリヤマ)
「……」(ダン)
「ゴリラと見えてゴリラじゃない…人間の血液で人間とも思えん、では一体何だ…」(キリヤマ)
謎が謎を呼ぶ、緊迫の作戦室。但し、隊長のひとり舞台…。
ここで画面は、考え込むフルハシのアップからオーバーラップして、猿が写し出されます。次から次へといろいろな種類の猿たちが登場します。実はこのお猿さんたちは、今回のタイアップ・ロケ地である、日本モンキーセンター(愛知県犬山市)で飼育されているお猿さんたちなのでした。
「安く早くを実現するにはタイアップが早道だ。場所が限定できる、スタッフに宿泊と食
事が付く、その上条件次第ではいくらかキャッシュが上乗せされる。市川と行ったモンキーセンターは、その典型的なケースだった。シナリオライター二人、監督とプロデューサーの四人でシナハン(シナリオ・ハンティング)に出かける。相手はいいところ撮影し
てもらいたいから最高の部屋、最高の食事で歓待してくれる。現場一帯を見て回り、帰京して、夕方から旅館に入りだいたいの運びを決めて前半、後半に分けて同時に書き出す。朝までに一本が仕上がる。二日で二本の出来上がり。第四十五話「恐怖の超猿人」、第四十六話「ダン対セブンの対決」(引用者註、制作話数)は、こうして出来上が
った作品だった。」(上原正三、※8)
という事情による、サービスカットなのです。
お猿さんの連続カットに引き続いて、日本モンキーセンターにポインターが到着し、ダンとアンヌが降り立ちます。
「ここには世界の猿が、1000頭近くもいるんですって」アンヌ)
「ほぉ…」(ダン)
同じ事情による説明セリフです。
この後、捜索という形で二人によって園内の見所が案内されるのです。
ビジターセンターの入口。
ダンとアンヌの様子をうかがう、白衣の女とあの大男。
「…アウウ…」(大男)
「ウルトラ警備隊だ…。お前は仕事をしなさい。早く!」(白衣の女)
「…アウッ」(大男)
白衣の女に近づく、ダンとアンヌ。
「こんにちは」(アンヌ)
「お待ちしておりました、どうぞ」(白衣の女)
怪しい雰囲気の白衣の女…。
←あれ、キュラソ星人に襲われた水島家のお母さんじゃないですか…。
「博士はお元気ですか」(アンヌ)
「只今、お仕事中です」(白衣の女)
「ここにゴリラは?」(ダン)
「現在1頭もおりません…」(白衣の女)
「ちょっとご挨拶してくるわ…」(アンヌ)
博士の部屋を訪れたアンヌ。
「こんにちは」(アンヌ)
←二本指敬礼のアンヌが可愛いぞぉ!
「やぁ、アンヌ君…」(博士)
「お元気そうですわ、博士」(アンヌ)
「ずいぶん、久しぶりじゃぁないか…」(博士)
「3年ぶりくらいかしら…。でも、ここにはゴリラがいなくて、良かったですわ」(アンヌ)
「うむ。例の事件か…」(博士)
「ええ、猿なのか人間なのか。まだハッキリしていないんです…」(アンヌ)
「早く犯人を捕まえてもらいたいねぇ。そうでないと、あらぬ疑いをかけられて困るよ」(博士)
「あら、アタシそんなつもりで来たんじゃありません!」(アンヌ)
←プリっとしたアンヌが可愛いぞぉ!
「ハハハッ…、冗談、冗談。まぁ、モンキーアパートでも見てきたまえ。また増えて百種類になったよ」(博士)
「はい、それでは失礼します」(アンヌ)
白衣の女助手に館内を案内されるダン。
「これは?」(ダン)
「ゴールデン・ライオン・タマリンです」(白衣の女)
(これが猿だろうか…?待てよ…)(ダン)
どこかで見たことがあるような気がする…。
そこへ戻ってきたアンヌ。
「ダン、モンキーアパートを見ましょうよ」(アンヌ)
←いくらタイアップだからって…、遊びに来たんじゃないんだよ。
金髪の猿、ゴールデン・ライオン・タマリンが写し出されます。今回登場する宇宙人のモチーフになった珍しい猿です。なるほど名前の通り、金色の体毛が、たてがみのように顔の周りを覆っていますね。
モンキーアパートの前では、例の大男が、掃除をしていた。
「ほら…、ハッハッハ…」(ダン)
「フフ…、ウフフフ…」(アンヌ)
ほとんどデート気分のお二人さん…。
そんなアンヌをじっと見つめる、大男。
「アウウ…」(大男)
アンヌに気をとられて猿に噛まれた大男。
「大丈夫ですか」(ダン)
ハンカチを取り出して、手際よく止血するアンヌ。
「はい、もう大丈夫よ…」(アンヌ)
「ダン、向こうも見ましょうか…」(アンヌ)
「うん…」(ダン)
うれしそうな表情の大男。
おサルさん見物を続ける二人。
二人の様子をずっと窺っている白衣の女。
何か視線を感じたダンが振り返る。
隠れる白衣の女。
「どうしたの…」(アンヌ)
「どうも気になる…。あの大男にしても、助手にしても…。どこか様子が変だ。アンヌ、これは調査の必要がありそうだぞ」(ダン)
←だから、のんびりしてる場合じゃないって…
「どうするつもり?」(アンヌ)
「一度、何気ないふりで引き上げる。それから戻って忍び込む…」(ダン)
「OK…、じゃ、博士に挨拶してくるわ…」(アンヌ)
ダンとアンヌを見送る、博士と助手。
「たいへんお邪魔いたしました」(アンヌ)
「今度はゆっくり遊びにいらっしゃい…」(博士)
「おっ…」(ダン)
ポインターのボンネットが開いている。
「チキショー…」(ダン)
エンジンが壊されていた…。
「こりゃ、いかん…。よかったら、泊まっていきなさい。これからの夜道は大変ですよ」(博士)
「でも…」(アンヌ)
「いいじゃないか、お世話になろう!」(ダン)
強引に泊まることにするダン。
「こちらダン!本部応答願います」(ダン)
「そっちの様子はどうだ?」(キリヤマ)
「別に異常ありません。ただ、ポインターが故障して、今夜こちらで一泊したいんですが…」(ダン)
←ダンのうそつき、アンヌとお泊りしたいからって…。
「いいだろう。ただ、定時連絡だけは忘れるな」(キリヤマ)
←しようがねぇなぁ…、あんまりやりすぎんなよ…。という意味。
ゴールデン・ライオン・タマリンの前で頭を下げる博士と助手。
「ウッキィー、キッキッキィー」(ゴールデン・ライオン・タマリン)
無言でうなずく、博士と助手。
ポインターのエンジンを修理しているダン。
突然、背後から襲いかかる大男。
さしものダンも素手では敵わずに失神してしまう。
「ウッヘ、ヘッヘッヘ…」(大男)
得意そうに笑う大男。
「ゴリーッ!」(白衣の女)
ムチが飛ぶ。
「ゴリー、大事な実験材料を殺したわね…」(白衣の女)
「…ウ、ヘッヘ…」(大男)
怒られても、恋敵をやっつけたので、嬉しそうな猿人ゴリー。
胸騒ぎがして建物内を捜索するアンヌ。
地下に降りると、明かりの漏れている部屋から物音がする。
こっそり覗こうとしたその時、白衣の女が現われた。
白衣の女は、アンヌに、ムチをふるう…。
←全国1億2千万のアンヌファンの皆様、必見です。
「えい!」(白衣の女)
「きゃあぁ…」(アンヌ)
←苦悶の表情のアンヌが、ええゾぉ!
ムチを手にアンヌに迫る、白衣の女…。
「…ウウッウゥゥー」(ゴリー)
アンヌが虐待されて怒るゴリー。
しかし、ゴリーも鎖につながれていた…。
「その男は、人間の格好をした猿人間さ」(白衣の女)
「えっ」(アンヌ)
「体は人間だけど、脳波は猿のモノと交換されているんだ。この脳波交換装置によってね。お前の脳みそも、今夜、猿のと替えてやるからね」(白衣の女)
←悩ましげなポーズのアンヌが、ええゾぉ!
そこへ博士がやってきた。博士も敵だったのだ。
「は・か・せ…」(アンヌ)
鳩が豆鉄砲食らったような表情のアンヌ。
「手術台にのせろ」(博士)
「いや…」(アンヌ)
「お前の勝手な行動によって、我々の目的があやうく警備隊にも
れるところだった。バカめが!」(博士)
ゴリーをなじる博士。
「やめて!…お願いします、やめてください!」(アンヌ)
「ウウッーグルウウゥゥゥ」(ゴリー)
アンヌの声に興奮した?ゴリーは、猿人に変身する。
戒めを破壊し、アンヌを助けるゴリー。
ダンと合流したアンヌ。
「アンヌ、至急本部に連絡を」(ダン)
「はい」(アンヌ)
「ポインターが使えない。間もなく夜が明けるだろう。向うに降りて、日本ラインを下った方が早い」(ダン)
←不自然な流れ…。そう、これもタイアップです。
「ダンは?」(アンヌ)
「僕は調べたいことがある。あの猿は宇宙人かもしれないんだ。早く!」(ダン)
「はい!」(アンヌ)
ダンの言うことに素直なアンヌ…。
ゴールデン・ライオン・タマリンの獣舎。
もぬけの空である…。
突如ダンの脳波に直撃する声。
「フヒャッヒョッハ…イッヒヒョピュホッハッホ…」(ゴーロン星人)
「やっぱり貴様、ゴーロン星人」(ダン)
「さすがはセブン。よくぞ見破った」(ゴーロン星人)
「人間と猿の脳波を入れ替えて、どうするつもりだ」(ダン)
「猿人間を増やすんだ。地球はやがて猿人間が支配するようになる」(ゴーロン星人)
その猿人間を操るのがゴーロンちゃんなのね…。
「それで博士たちを、脳波催眠にかけて操っていたんだな!」(ダン)
「彼らは私のロボットだ。私の思い通りに動く。だがお前はダマせなかった。その代わり、殺す!ヒッヒッフフョッヘ…ウッヒヒョピュホッヘッヒ」(ゴーロン星人)
脳波攻撃を受けて、苦しむダン。
ふと見上げると、巨大化したゴーロン星人が立っていた。
ダンもすかさず変身する。
一方、アンヌは、日本ラインの川下り観光船に乗り込む。
「お願いします」(アンヌ)
どうして船なんだ…?電話はないのか…?
などというツッコミはおやめください。これがタイアップです。
日本ライン下りとは、我が国屈指の急流を人の手だけで小舟を操り、急スピードで、岩を除けながら下ってゆく…。
まさに名人芸だ。
←って、ここでもタイアップしてどーすんだ…!?
ダンが心配なのか…、水面を見る目がうつろなアンヌ。
ここで、ゴリーが漕ぎ手の一人に扮していることがわかった。
「船を岸に着けて下さい。お願いします!」(アンヌ)
←怯えるアンヌが、またええゾぉ!
「ロケ地は愛知県犬山の日本モンキーセンター。日本ラインの川下りのシーンもありました。これが大変だったんです。ロケ中に四十度の熱を出してしまい、ダウン寸前。川下りでは、船の上でぐったりとしていました」(ひし美ゆり子、※2) ←ダンを心配していたわけじゃなかったのネ…。
岸に着き、逃げるアンヌ、追うゴリー。
ホーク1号で急行した隊長たちと遭遇するアンヌ。
「隊長ぉ!、隊長ぉ!」(アンヌ)
「あっ、アンヌ!」(キリヤマ)
猿人間に変身して攻撃しようとするゴリー。
しかし、フルハシの銃が一瞬早く、ゴリーを射抜く。
崖から転げ落ちるゴリー。
ゴリーは死んでいたが、その顔は心なしか安らかだった…。
複雑な思いのアンヌ。
「考えてみれば、アンヌが誰かに愛されるという設定はこれが初めてです。『やっとモテたわ!』と思ったら、相手は人間じゃない……。ホントにもう!」(ひし美ゆり子、※2) ←アンヌ、マジ切れです。
ゴーロン星人の脳波光線に、セブンは苦戦します。
セブンとゴーロン星人の交戦中随所に、モンキーセンターの猿たちの画が鳴き声とともにインサートされます。この画像と音声が、脳波に直接的に攻撃を受けていて、思考が邪魔されているというセブンの状況を的確に示しています。ハイレベルで、しかも効果的な演出です。
セブンは、ハンドショットの乱れ撃ちで、状況の打開を試みます。このシーン、凄まじい弾着の嵐です。これには百戦錬磨のスーツアクターもたまったものではありません。ゴーロン星人の中に入って貧乏クジ引いたのは誰でしょう…?
決まり手:エメリューム光線。サル、バラバラ…。
「人間と猿の脳波を交換して、猿人間を増やし、地球を征服しようとしたゴーロン星人の計画は失敗に終わった。平和を取り戻したモンキーランドは、今日もよい子の見学者たちでいっぱいです。しかし、安心は出来ません。いかにも人間らしい顔つきで、その実、脳みそは猿という、トンでもない動物が、あなたの身近にもいないとは限りませんからね」(浦野光)
ALIENS&MONSTERS
宇宙猿人:ゴーロン星人
身長:35m
体重:1万3千t
出身:ゴーロン星
特技:脳波催眠
特徴:パツキンのサル、池袋に多い
弱点:ラッキョを渡すと全部剥いてしまう
猿人ゴリー(滝恵一)
身長:1m85p?
体重:90s?
出身:日本
特技:怪力
特徴:特殊メイク不要
弱点:アンヌ
ACTOR&ACTRESS
アンヌとは旧知の博士には、大ベテランの増田順司さん。
増田さんは、帰京が一緒になったアンヌに、歴史を学ばせようと思って、明治村に誘いましたが、歴史などに興味の微塵もないアンヌは、断ってしまったそうです。
ムチさばきが妙に似合う、白衣の女助手は、西朱美さん。
ビジターセンターでダンとアンヌを迎えるファーストシーンから怪しさ全開です。そのうえあのムチさばき…、怖すぎるキャラクターです。西さんは、#7「宇宙囚人303」で、キュラソ星人に襲撃される水島家のお母さん役で、出演されています。
ずいぶんと違う役回りです。
LOCATION
世田谷体育館前(警察官襲撃シーン)
日本モンキーセンター(愛知県犬山市)
日本ライン川下り(愛知県犬山市ほか)
※経営はともに、名古屋鉄道
「ウルトラセブン」ストーリー再録 第44話「恐怖の超猿人」
30/SEP/2001 初版発行 27/JAN/2002 第二版発行
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脚本:上原正三・市川森一 監督:鈴木俊継 特殊技術:大木 淳 制作45話