W.代表的な感染症 1.結核とは 【分類】 結核菌はマイコバクテリウム属に属する細菌である。 マイコバクテリウムには非定型抗酸菌(動物に対する毒力などの点で結核菌とは異なるが、人に対して結核と同様の病変をおこす)、 冷血動物型(魚類,爬虫類などに人の結核と同様の変化を起こす)、トリ型菌(ニワトリその他の鳥類に対し病原性を示す。 人にはよほど大量のでなければ毒力はない)、ウシ型菌(ウシから分離されたもので、容易に人に伝染する)、 ヒト型菌(ヒトの結核病巣から分離されたもの)などがある。 この中でも、ヒトに結核をおこすのはヒト型菌、およびウシ型菌である。 【症状】 結核は結核菌を病原体とする慢性感染症であり、肺が好発部位である。 初発症状として多いのは、咳,痰,血痰,喀血,胸痛,労作時息切れ等の呼吸器症状であるが、 これらは、風邪症候群その他の呼吸器疾患と紛らわしいので注意を要する。 またこれらの呼吸器症状を欠いて、体重減少,食欲不振,顔面蒼白,全身倦怠,微熱,寝汗などの全身症状のみを呈することもある。 発熱は37〜38℃程度の微熱であることが多く、朝は低くて夕方高くなることが多い。 末期に腸閉塞を合併すると、いわゆる骨と皮の状態になる。また貧血もしばしば起こり、皮膚は蒼白になる。 こうして病勢が進めば寝返りすら困難となり、意識障害,精神錯乱,憂鬱状態などの精神症状を起こすこともある。 咳は乾咳のこともあるが、多くは痰を伴う湿咳である。 痰は質量ともまちまちで、漿液性から膿性に至る各種の様相を呈し、特に混合感染のある場合には膿性の程度が強い。 痰は時には血性の時もある。 血痰ないし喀血の程度もまちまちで、痰の中に少量の線状の血液を混じるものから500〜1000mlに達する大喀血まである。 一時に大量の出血が起こると窒息死をきたす危険があるが、失血死をきたすことは殆ど無い。 病巣が広域になると呼吸困難を呈し、末期には肺性心になって右心不全に陥る。 【感染経路】 大部分が空気感染によるものである。 その他頻度は少ないが塗擦感染や接触感染,経皮感染などもある。 空気感染が殆どなので、初感染巣の多くは肺に形成される。 それからリンパ行性転移,血行性転移,管内性転移(結核菌が生体内の管系を通じて転移するもの。 肺から気管,喉頭,咽頭,舌,口腔粘膜などに転移し、耳管から中耳結核、嚥下されれば腸結核をおこす。 また腎結核からは尿管,膀胱結核、性器では卵管,子宮,副睾丸,精子,精巣,前立腺へ転移する)などのような形で転移する。 結核の進展はこれら三つの進展様式によって、ある場合には全身的に、あるいは他臓器、同一臓器内で進展する。 進展の程度はまちまちで、極めて急性の激症型もあれば、緩徐で軽度なものもある。 一般に臨床的には一定期間の停止状態の後、階段的に憎悪を繰り返す進展を示すことが多い。 【治療方法】 肺結核の治療法は一般療法(いわゆる大気,栄養,安静療法), 化学療法(ストレプトマイシン,リファンピシンなどの約十種類の抗生物質のうちから2,3を合わせて体内に投与する治療法), 虚脱療法(肺を萎縮させることにより、空洞を閉鎖性にし、あるいは空洞化を防ぎ、病巣の散布を防ぎ、 更に安静をもたらして病巣の自然治癒を促進させる目的を持って行われた治療法), 直達療法(肺切除術,空洞切開術などの外科的療法),対症療法(発熱,咳などの各症状に適した対応をする治療法)に分けられる。