2.MRSAとは (Methicilln Resistant Staphylococcus Aureus:メチシリン耐性黄色ブドウ球菌) 【分類】 黄色ブドウ球菌は細菌のグラム陽性球菌の一種であり、数多いブドウ球菌の中でも最も菌体毒素, 菌体外毒素を産生し、劇症の感染症を起こしやすく、化膿性炎,腸炎(食中毒含む)など創傷感染, 呼吸器感染,消化器感染の原因菌である。 MRSAは、黄色ブドウ球菌の治療薬のβラクタム系抗菌剤(ペニシリン,メチシリン,クロキサシン,オキサシリン, 第1・2・3世代セフェム)に耐性を獲得したもので、耐性遺伝子や由来不明の転移性遺伝子で伝搬される。 【症状】 健康な人がMRSAを保菌した場合でも何ら病原性は発揮しない。 しかし、保菌者が易感染患者の場合、定着した菌によって内因性感染を引き起こす可能性がある。 MRSA感染症は、その特有な多剤耐性という以外は、一般の黄色ブドウ球菌感染症と同様の臨床像を呈すると考えられ、 表層感染と深部感染の二つに大別される。 表層感染としては、皮膚の化膿巣、中耳炎等があるが、一般に対処しやすいこともあり良好な経過をたどるものが多い。 しかし、易感染性患者において感染は遷延化し、時として深部感染に移行する場合がある。 特に熱傷や褥瘡、手術創感染等は、局所の感染防御機能が低下しており、注意を要する。MRSA感染にとって、 深部感染をどう防止するかが最優先の課題であり、代表的なMRSA深部感染発症例は髄膜炎,肺炎,腹膜炎,腸炎,肺血症である。 【感染経路】 MRSAの特徴としては、鼻腔などに常在菌としてあるいは一時的に定着する。 乾燥に強く乾燥状態で1か月近く生存する,ヒトの手が触れる場所で棲息する,消毒剤への抵抗性が強い, 感染の成立と菌量に相関性が少ない,等があげられる。 MRSA院内感染経路で最も重要視されるのがMRSAに汚染された器物,手指を介した接触感染である。 MRSAを含む黄色ブドウ球菌はヒトの鼻腔や口腔など上気道の常在菌であり、鼻腔には健康成人の1%がMRSAを保有するとみなされるが、 医療従事者では3〜20%、抗菌薬投与中の患者はさらに高率にMRSAを保菌し、これが感染源となる。 感染源である表層の保菌部位から深部臓器への自己感染や、主に医療従事者の手指を介した院内感染が多い。 また、喀痰からMRSAが検出された患者で考えられる飛沫感染、治療器具(各種カテーテル等)を介した感染も重要である。 よく、MRSA感染隔離患者ポータブル撮影時の床からの菌伝搬が問題視されるが、 床に生息するMRSAからは感染の危険性はほとんどないと報告されている。 【治療】 健常者の鼻腔内MRSA保菌はほとんどが一過性のものであり特に治療は必要としない。 また、保菌者が易感染患者で、定着した菌によって内因性感染を引き起こす可能性がある場合は次の除菌処理を行う。 鼻腔:ムピロシン鼻腔用軟膏の塗布 。 咽頭:ポピドンヨードによるうがいを1日3〜4回、3日間実施する。 皮膚:ポピドンヨード ,消毒エタノールなどによる洗浄や清拭を1日1回7日間実施する。 尿路:膀胱留置カテーテルを使用している場合は、カテーテルを抜去し、間欠的導尿に切り替える。 MRSAに対しての治療としてはバンコマイシンの投与を行う。 バンコマイシン単独で治療できないときは、バンコマイシンにST合剤,バクトラミン点滴, さらにリファンピシン経口投与などが用いられる。 また、バンコマイシンが効かないものについてはスルバクタムやアンピシリンとアルベカシンの組み合わせを用いる。 バンコマイシンの副作用は、ショック,腎障害,聴力障害,また急速に静注すると全身が発赤するといった症状がおこる。