リニアックを用いた定位多軌道照射
ガンマナイフによる治療が、線量の集中性がよく、優れた治療成績をあげたので、これを一般の病院に既に普及した放射線治療装置であるリニアックを用いて、病巣に放射線を集中させる治療を行う試みが開発されました。実際には、この治療は1980年代になってから主として動静脈奇形を対象に始められ、1980年代後半には一部の施設でがんの治療にも行われるようになってきました。
これはリニアックを放射線を照射しながら回転させ、治療ベッドの回転を組み合わせる方法で、ガンマナイフと同等の放射線集中効果を得ることができます。この方法を可能にしたのは、種々の画像診断の技術が向上したことに加え、放射線治療の精度、その放射線の照射量の計算などを行うコンピュータ技術の進歩によるものです。この治療技術は米国で1990年代になって急速に普及し、脳動静脈奇形、聴神経鞘腫などの良性疾患だけでなく、転移性脳腫瘍、原発性悪性脳腫瘍にも適用されています。
既存のリニアックを用いて治療できるため、わが国においてもこの方法は急速に各施設で始められつつあります。
国立がんセンターでは全国に先駆けて1991年7月以来、独自にこのシステムを開発し、スマート(SMART)と名づけ治療を行っています。この治療の対象は主に原発性及び転移性のがんです。この治療法の大きな特徴は分割照射法を採用している点です。がんの放射線治療では1回照射よりも分割照射のほうが周囲の正常組織への副作用を軽減できます。同じ部位に数回にわたって分割した照射を可能とするため、高精度な位置決めができる固定具を治療を受ける方ごとに作製しています。この方法では他の照射法で治療の途中におこりがちな倦怠、食欲不振、むかつきや嘔吐などの副作用が少なく、また照射後周囲の正常組織の有害反応はわずか3%だけでした。国立がんセンター中央病院では、この方法を用いてこれまで約200人の治療を行ない、局所の治療としては優れた効果をあげています。平成8年8月1日に高度先進医療として厚生省より承認されています。
***国立がんセンター がん情報サービス http://wwwinfo.ncc.go.jp/NCC-CIS/pub/0sj/010704.html#02 より転載***