地球環境と資源エネルギーを大切にする全国集会 基調講演・小澤普照

平成16年2月4日 於いて日本学術会議講堂



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地球環境に森林を活かす発想とネットワーク活動の展開
                                      
                            林政総合調査研究所理事長 小澤 普照

 私は、森林塾を運営しながら、各地域でいろいろな方々と一緒に、もっぱら森林問題の方からアプローチをさせていただいている。活動をする時に、ネットワーク化や活動の拡大化を進めようとすると、いろいろ国難な問題が生じる。おそらく、皆さま方がご苦労されているような問題と、共通点があるのではないかと思う。本日は、「地球環境に森林を活かす発想とネットワーク活動の展開」というテーマで、森林の側面から見た話や、いろいろ事例をご紹介させていただき、皆さま方の活動に、少しでもお役に立てれば幸いと考えている。

 地球環境の危機は森林の危機でもある
 温暖化が進むと木は育ちやすいのではないかと思うかもしれないが、そう単純には行かない。気温がどんどん上がると、今まで育っていた環境が変る。環境の変化に適応できない樹木がたくさん出てくる。樹木には足がないので、移動できずに、枯れてしまう。森林のまさに危機である。
 世界の森林は、時々刻々減少している。「森林破壊が起きている」という話を、よくお聞きになることと思うが、森林破壊の様子は、地域によって国によっても違っている。

 世界の森林は、年間900fのペースで減少
 森林面積は、国連機関である食料農業機構(FAO)が、世界森林自書で発表している。
これによると、1990年に世界の森林面積は、39憶6300万fあった。2000年には、38憶6900万fで、10年間で9000万f余減少した。地域別に見ると、一番減少しているのは、アフリカで、年間500万f減少。次に、南米が年間370万f減少。南米にはアマゾンの大森林があり、地球の肺臓と言われているが、相当な勢いで減少しつつある。アジアは、年間36万4000f減少と比較的少ない。表面的にはそのように見えるが、これは中国が、年間400万fも植林している。一方、インドネシアやフィリピンでは、森林の減少傾向は止まっていない。この数字に表れているより、実態は深刻だ。

 世界の森林面積は陸地面積の1/3
 世界の森林面積は、陸地面積の約3割だ。陸地面積に対する森林面積の比率は、国別に
大きな差がある。フィンランド72%、スウェーデン65%と、北欧の国はすごく高い。そのほか高い同は、ブラジル、インドネシア、マレーシアやパプアニューギニアなど熱帯林保有国。また、ロシアは、シベリアの大森林があり50%。H本も64%と高い。
 少ない方では、中国が17・5%と低い。中国は戦後の一時期10%以下になった。毎年すごい勢いで植林努力をしており、現在17・5%まで上がった。国上面積が、日本の25倍もある中で、1%増やすのは大変なことだ。中国の担当者は 「森林を造成するのは、本当に死ぬほどの苫しみだ」と言っており、そのご苦労のはどがよく分かる。イギリスは、11.6%と非常に低い。イギリスは、きれいな牧草地が多いが森林は少ない。ただし、樹木がないのではなく、道路の脇とか、市街地の中とか、あらゆる所に樹木を植えている。また、全国的に日本から持っていった桜を植えており、桜が好きな同民のようだ。

 世界共通の基本原則は「持続可能な森林経営」
 1992年のブラジルの地球サミットにおいて、熱帯林諸国すなわち概ね発展途上国と先進国との間で、森林問題で意見対立があった。当時、「熱帯林の減少を止めるべきである」という声が、世界中で大きくなっていた時期である。先進国側には、世界森林条約を制定し、「熱帯林の減少を止めようではないか」という発想があった。それに対し、途上国側は、「熱帯林減少が、大変なことはわかっている。しかしそれを先進国に言われると神経を逆なでされる思いだ。なぜなら先進国は、これまで自分の国の森林を減らして発展してきた。
今になって途上国の森林だけは減らすなというのは、とんでもない。森林をまず増やすべきなのは先進国である」 と主張。森林の減少問題は途上国で起きているが、それは途上国だけの、あるいは熱帯林諸国だけの問題ではないということになり、森林条約は見送りとなった。途上国のいやがる案を押しつけても世界の足並みが合わず、もっと状況が悪くなる。そこで、わが国が仲介役を担い調整の結果、コンセンサスづくりを先決することで各国が合意し、「森林原則」 という15項目の声明を発表した。これが今、世界の森林問題の基本原則となっている。この基本原則のキーワードは、「持続可能な森林経営」である。

 砂漠化の進行や異常気象による森林の危機
 地球の衛星写真を見ると、緑の地球が褐色に変わりつつある。非常に恐ろしい話だ。日本列島は、だいたい緑だ。中国は黄河流域を中心に、砂漠が多い。砂漠および砂漠移行中の面積が国土の27%も占める世界有数の砂漠国だ。現在、砂漠を半分に減らし森林を倍増させる、つまり砂漠と森林の面積を入れ換える方針で、植林政策を推進している。
 ドイツには、日本でもよく知られている「黒い森」がある。この「黒い森」が、近年、歴史上初めてといわれる猛烈な暴風によって、大被害を受けた。1回目は、1990年にドイツ全土、フランス、スイスの地域で、オルカーンという冬場の雪混じりの暴風が吹き荒れ、1年後の日本での19号台風の10倍以上の倒木が出るという大被害を受けた。2回目は、1999年12月に、ヨーロッパ全域に暴風が吹き荒れ、ドイツの「黒い森」も大被害を受けた。
 森林の分野から着目しているのは、酸性雨の影響による土壌の悪化がある。ドイツの「黒い森」を始め、ヨーロッパの森は酸性雨の被害をずいぶん受けている。酸性雨の被害は、樹皮が剥がれ落ち、枝が枯れるなど、徐々に枯れていく。ドイツ政府は、この被害を防止するため、石灰を撒いて土壌の中和対策をとった。中和はできたが、土がボロボロになって非常にもろくなった。この上壌の悪化が倒木の原凶の一つではないかと考えられる。
 中国の内蒙古では、緑の草原が劣化し、放っておくと砂漠化するピンチ状態にある。草原を適正に維持管理するため、防風林など環境林造成を行っている。
 北京から西方向へ飛行機で1時間ほどのところに位置する寧夏回族自治区で、砂漠化が進行中である。これを食い止めようと、私どもも10年以上前から、技術協力で対策を講じてきた。どのような木を植えれば育つかが分ってきたので、数年前から大規模な植林作業を行っている。砂丘のようなところに植林をするので、普通の方法では、苗木が砂に埋もれてしまう。技術的な方法としては、麦わらを束ね格子状に埋め、砂が動かないようにしながら植林している。
 焼畑による熱帯林の減少も続いている。焼畑の方法は、ジャングルを切り開き燃やして畑にする、荒っぽいやり方だ。木材との関係では、一f当たり数本程度しかない商品価値のある木は、切って売る。商品的価値がない木は、切り倒して燃やし、畑にする。これを止めることができないというのは情けないことであるが、一つの現実だ。
 フィリピンでは、焼き畑による森林減少が多く見られる。平地でやっていた農業が、人口の増加に伴ってだんだん山の上に上がっている。それで山がどんどん侵食されている。非常にまずい状況であるが、これが、森林減少の最前線とでも名付けられる状況だ。
 中米のホンジュラスでは、政府が指定した保護林に、小屋を建て、人が住み付き、保護林の中でコーヒーを栽培している。森林の木を切り倒すと目立つので、木の下でも育つコーヒーの木を植え、保護林を荒らしている。
 東京都青梅市では、近年風雪により、森林が被告を受けた。雪と風の被害で、ヨーロッパの被害と似ている。原因を調べると、温暖化や大気汚染の影響なのか、油性分の多い湿った雪と風が同時に吹き荒れ、森林がバタバタとやられた。

 森林の能力を活かした循環型森林の育成
 その対策として、森林の能力を活かした持続型の森林が必要だ。循環型森林としては、複層林を作り、それを増やすことが有効な方法である。この複層林については、私も研究論文で取り上げている。「高蓄積高循環森林」というもので、高蓄積にして適正な循環を行う方法である。
 参考事例は、四国の今治地方にある水源の森。大木が立っており、少しずつ利用しながら切りすかしを行い、そこに次世代の樹木を育てる。そうすると樹冠層が複層になり、先ず二層林、将来は三層林も可能となる。

 国内、海外で各種のネットワークを展開
 東京都多摩地方の風雪被害の回復のため、農工大学や農大の学生さんが、ボランティア活動を行った。同地では、雪の日に植林活動をするための歩道作り作業等を行った。私も参加したが、急斜面な所で大変な作業だ。
 内蒙古ホロンパイルのハイラル地区の植林において、私達は、旧満州の小学校の 「同窓ネットワーク」という形で、活動している。11月の冬場、マイナス10℃程で、土がカチンカチンに凍っている中での植林作業を行っている。乾燥地帯であり、冬場に植林し、水も補給しておくと春先凍った水が溶けて乾燥期を乗り切る作戦であり、この地方でのユニークなやり方だ。
 「流域ネットワーク」として、今治地方では複層林の造成や学校林の運営活動を行っている。今治地方では、100年前は、ちょっと雨が降れば洪水になり、日照りが続けば農作物ができない状況だった。現在は、立派な複層の森林が育ち、洪水・日照り被害もなくなった。
 佐渡島における、地域ぐるみの 「地域ネットワーク」 の植林活動。同島では、マツクイムシ被害にあったところに、マツクイムシに強い抵抗松を植林している。佐渡島の住民、子ども達の共同作業や、中学校では社会科の正規授業の時間を充てて、取り組んでいる。
 島根県には、「流域交流ネットワーク」 と呼ぶことが出来る 「遊木民倶楽部」 の活動がある。島根県の山村で匹見町という町がある。典型的な過疎の町で、町の面積は3万f、そのうち97%は森林。人口は、かつて9000人であったものが、現在2000人に減った。小学校は生徒2人に対し、先生が3人というような状況まで生じた。隣接の益田市や広島県の都市部住民が応援に行って、地元住民と一緒に活動している。伝統的な炭焼き窯も復活させ、これをシンボルにして、森づくり、地域間交流などいろいろな活動を展開している。

 広域ネットワークの取り組みも重要
 大都市圏と森林の例として、東京都について見る。人口は1200万人、森林は (島を除く)6万fしかない。一人当たり50m2だ。これでは、呼吸に必要な酸素をやっと賄う程度であろう。ましてエネルギー消費に伴う炭酸ガスを吸収することなど、遠く及ばない。それでは森林の能力を活かした森林の機能としては、一人当たり250m2くらいまで広げる必要がある。その範囲は、東京都のほか、埼玉県、群馬県、栃木県まで入る。
 さらに、1000m2にしたらどうか。東京圏、名古屋圏、大阪圏が全部一緒になってしまう。このくらいまで共同管理が必要になる。このように、都民は都内の森林を守っていればいいという訳にはいかない。広域的に連携した取り組みが必要だ。そこで、広域ネットワークの事例を紹介する。
 全国の森林関係者が全国から集まって、開催する 「森林の市」 がある。これは、毎年5月か6月に、土・日曜日の2日間、NHK本部の隣の広場で開催する。NHKのニュースでも取り上げてもらい、20万人くらいの参加がある。日本全国から、森の産物などを持ち込み、展示販売を行なうなど、エコライフのキャンペーン等を行っている。
 次に、「森林塾」 を紹介する。これは、私が林野庁を退職した直後から始めて、11年間続いている塾だ。目的は、森林コーディネーターを養成して、森林と他の各分野との相互交流或いは都市と地方の交流を目指すものだ。例えば、「出前森林塾」と称して、北海道大学演習林で北海道大学の先生方と交流したり、伊勢神宮の造営に使うヒノキ材を搬出する木曽の国有林や古材を利用した小学校、廃校などを調査したりしながら、塾の活動を行っている。また、「森林の市」 に参加し、「談話室」 を開設している。                                                       ′
 国際的な取り組みとして、「国際モデルフォレストネットワーク」 がある。地球サミットの時にカナダ政府が提唱したもので、現在、15カ国、30ケ所くらいに拡大している。これは、「持続可能な森林管理」 というのを目標に、あらゆる利害関係者 (ステークホルダー) とその地域の人達に総参加してもらい、地方共同体の次元から国家レベルの政策立案機関まで、「持続可能な森林管理」 の理念を実践へ具体化させていく取り組み。地域の活動で適当なものは、政策として取り上げる。地域の地理的条件としては、河川流域のように対象区域を明確に決める。地域の関係者は、目指すゴール、目的、計画に共通意識を持って、実行する。討論クラブではなく活動体だ。
 国内では、京都府を中心として、森林に関わる新しい活動としての 「京都ネットワーク」 がある。京都府知事も熱心に関わっており、文化財の補修のために森林を育てるとか、大学が里山の保全に取り組むとか、森と水を核として、広範囲な活動に発展させるための検討を進めている。京都府には、大学が31もある。広域交流や国際交流に発展させるため、学生の交流も期待したい。

 夢の木造学校が出現 
 環境省の」の「環の国くらし会議」 に参加し、地域分科会の座長を務めた。
 「環の国くらし会議」では、同会議での検討成果を 「エコヴィレッジのモデル」 として、一枚の絵に取りまとめた。この絵には、エコ滞在施設、エコスクール、エコカーセンターなどを作り、ソーラーパネル、風力発電、ログハウスがあり、森林の区域もある。環境省では、エコヴィレッジのモデル整備事業の予算を確保している。皆さんも積極的に、立候補してみてはどうか。
 このエコヴィレッジのシンボルになるような事例として、長野県木曽の贅川(にえかわ)小学校で、夢の木造学校が出現した。文部科学省では、木造校舎の整備を推進しており、その関連のコンクールで一等賞に選ばれた学校だ。見るからにロマンがあり、夢がある。1年生と2年生の教室には、木登り用の木まであるというすばらしい学校だ。

 自然復元には、先ず社会復元を
 自然復元には、まず社会復元が必要だ。先ほどの島根県匹見町のように著しい過疎により、社会システムの低下が見られる所がある。自然復元も必要だが、先ず社会復元をやりましょうというのが私の提案だ。都市部の住民に森林の単なるボランティアではなくて、地域で長期滞在をしてもらったり、定住してもらう。例えば、環境住民というような制度を作って、条例の提案権を付与する。第二種住民と呼んでもよいが、このような人を増やし、地域の社会システムを復元する。
 森林認証という言葉が最近広がっている。持続可能な森林管理をしている森林に認証を与える。そこの産物をみんなで買うことを推奨するとか、グリーンコンシューマー運動などと連携し、応援する。
 パートナーシップを活発化するには、行政と国民の垣根を取り去ることが必要だ。数年前に当時の建設省河川局、今の国土交通省が国の職員とボランティアを対象として、アンケート調査を実施した。それで行政とボランティアの人たちの間に垣根がある場合は、どういうケースかということが分かった。それは、日頃の付き合いがないと駄目ということ。双方の意識として、ボランティアは役に立たないと思っている役人もいれば、役所なんて相手にしても、とてもじやないと思っているボランティアが多いことが明かとなった。これを解消するには、日頃から付き合わなければ駄目だというのが結論であった。

 地球環境村特区を目指しては
 構造改革特区を上手く活用してはどうか。現状では、まだまだ持区らしい持区はそんなには出ていない。もっと思い切った持区、単なる規制緩和ではなくて、もっと智恵を出したいものである。今、市町村合併が進められているが、島根県匹見町では、3万fの面積のうちほとんどが森林である。町長さんは、「本当は合併したくない。しかし、せざるを得ない状況だ」 とおっしゃる。そこで私が、「あなたの所は(もし合併しても)地球環境村の持区でも作って特別条例を作ったらどうですか」 と言ったら、少し明るい顔になった。地球環境村持区を作ることで突破口も開けると思う。

 実効性のある共生を進めよう
 共生、共学、協働の時代に向かって。これは口で言うのは簡単であるが、実際はなかなか難しい。共生一つとっても、例えば、鹿が増えて困るケースでは、昔から山村に住んでいる人は、「そんなものと共生なんてできない、とんでもないことだ」 と言われる。ここから先は、実効性のある具体策を講じていかないと、言葉だけが先行してしまうという問題がある。

「森林愛」の時代を目指そう 
 小泉改革の三位一体論が話題になっている。森林問題解決のための三位一体論について申し上げたい。
 まず、「森づくり、森守り、森活かし」 という三位一体論。森づくりばかりやっていても駄目。よく管理し、森を活かし、地域材やバイオマスエネルギー利用などを賢く行うことが大事だ。
 次は、山と森は、日本では同義語である。山といったら川ときて、川といったら海とくる。この3つの連携を図ることが大事。
 「山、川、海」 の三位一体論。
 最後に、森ときたら水。水ときたら人とくる。「森、水、人」 のネットワークを作って行くことも大事。
 本日の講演の総まとめして、森林の危機を克服し、「森林愛」 の時代を目指すことを提唱したい。「森林愛」 という言葉をお聞きなったことはないかもしれないが、これからはこの言葉を使っていただきたい。今申し上げた3つの 「三位一体論」 を進めること、これを煎じ詰めれば 「森林愛」 になるということで、私の話を終わりとしたい。


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