大学生の「モデルフォレスト運動論」についての感想・質問に答える
筆者は現在(2011年以降)、京都府立大学で客員教授として「モデルフォレスト運動論」(森林・景観・環境の持続に関する地域協働運動)等について講義をしている立場です。
なお筆者のこれまでの大学講義歴(森林政策学)は、1992年から10年間、東京大学、東京農工大学、多摩美術大学、玉川大学で非常勤講師の体験があります。
ところで平成24年後期の講義終了後のアンケート結果をみて補足説明などが必要と感じましたので、Q&Aの形で整理してみました。
因みに受講学生は約80名でした。
類似の複数のアンケート結果については、まとめるなど適宜アレンジしてありますので、個々の質問について、そのまま記述したものではありません。
Q: モデルフォレスト運動については、大変興味深かった、あるいは理解が進んで良かった、もっと詳しく知りたいという人が多数を占める一方、良くわからないところがある、さらには初めて聞く話ばかりで少し難しく感じましたという人も数名ありました。
A: この運動は、1992年にカナダで始まり、その後世界に広がりつつあります。日本では京都で行われています。
新しい運動なので、初めて講義を聞いた人にはいろいろ質問したいこともあると思います。
この運動について、良く分かったという人、もっと知りたいという人、良く分からなかったという人と反応はそれぞれ異なりますが、この反応には共通項があると感じました。
三通りの反応を起こした学生の皆さんには、答えは、実は一つで、「是非もう一歩踏み込んで勉強してみて欲しい」ということであります。
そこで全体像を掴みたい人のための参考書としては、先ず『モデルフォレスト運動論』(2010年J‐FIC発行、小澤普照著)があります。
さらに世界の各地でのモデルフォレスト運動について知るには、「国際モデルフォレストネットワーク」(IMFN)事務局(事務局はカナダ・オタワ所在)のホームページを参照して下さい。imfn.netまたはThe International Model Forest Network (IMFN)
にログオンしてください。英語・フランス語・スペイン語での詳しい情報が得られます。外国語の勉強を兼ねながら楽しんでください。
なお、現在展開している京都モデルフォレスト運動については、京都モデルフォレスト協会のホームページを参照してください。
Q: カナダに留学してみたい。英・仏語ともに勉強中です。
A: 大変素晴らしいと思います。ご承知と思いますがカナダの公用語は、英語とフランス語なので、これらの語学力を鍛えるには大変便利といえます。私もフランス語の勉強をしたこともあるのでカナダに行くのが楽しみでもあります。なお京都府と交流関係があるケベック州はフランス系の人が沢山住んでいるという特徴があり、留学先としても魅力が感じられます。
ただし、留学となりますと他の条件も考慮する必要がありますので、カナダ大使館を始めいろいろな公的機関を通しての情報に注意を払う必要があります。
もちろんモデルフォレストネットワークからも有益な情報が得られると思います。数年前にモデルフォレストの会合でカナダに参りました際、カナダの大学教授と意見交換をしましたが、学生交流には積極的に対応したいと話しておられました。
また、大学の中にカナダ通の先生がおられますので指導をしていただくと良いと思います。
Q: 日本がこれから国際社会の中で活躍していくためには、英語をはじめ外国語力を身につけることが重要だという感想やまだまだ不勉強だということが分かりました。
A: 大変良いことに気がついたと思います。
しかし、日本の大学生として考えるべきことは、言語とは何か、外国語の習得における課題は何かなどについて学ぶ必要があります。
例えばカナダが英語と仏語の両方を公用語としているといいましても簡単にバイリンガルの社会が出来上がるわけではありません。
政府関係の文書や会議資料などは原則として英・仏2カ国語で表記されているので英・仏語学習者にとっては大変重宝ではありますが、カナダ社会の実態をみますとこの2カ国語を自在に話すことができる人は、全体の2割弱といわれています。日常、英語のみを話し言葉としている人が8割弱、仏語主体の人は1.5割ないし2割とみられています。
もちろん、英・仏以外の言語を家庭内で使う人たちも大勢住んでおり、多言語社会を形成しているわけです。
このような社会を知り、そのような社会の中でどのように人間関係が築かれているのかを知ること、あるいは理解することが、これからの日本人に求められていると思います。
Q: 海外で活動するにはどうしたら行けますかという質問の他、アマゾンその他の国に行ってみたいという感想が目につきました。
A: 大学生という立場から、あるいは20歳程度の年齢層の人たちからみて海外での活動という場合、学ぶということが主目的でしたら留学という選択肢もありますが、インターンシップ的な意味も含めて考えた場合、現実的な対応としては、先ずJICAの青年海外協力隊があります。
2012年の募集では、アジア、アフリカ、中南米、大洋州、中東の約80カ国での活動で、赴任形態は単身赴任、派遣期間は原則として2年間となっています。
なお、活動期間が1年未満の短期ボランティアもありますので、募集要領や説明会に参加するなど良く研究して下さい。同時に体験者や関係者、家族などの意見を良く聴いてみることをお勧めします。
このほか、大学卒業後企業などに就職してから派遣されるケースが多くみられますが、
職種や企業によって異なりますので、情報を集め研究する必要があります。
Q: 森林の持続に将来貢献したい、モデルフォレスト推進課(全国で京都府にのみ設置されている)で運動の推進に貢献したいがどうしたら良いでしょうか、またその可能性はどうでしようか。
A: 一般的には先ず京都府の職員募集に応募して採用されることが第一歩ということになりましょう。
このことについては、京都府のホームページなどで研究してみてください。
また、大学の諸先輩などの意見や体験談も参考になることでしよう。
ただし、公務員の場合、自分の希望がすんなりと叶えられるかどうかは、保証されていないのが普通だと思われます。
ここからが、本人の意志や努力といったことがものをいう可能性があります。
一つには、モデルフォレスト運動のもつ、地域協働やボランティア活動について優れた経験や知識などをもつているかどうか、またコミュニケーション力や意見の異なる人やグループをまとめていく能力が問われることも考える必要があります。
もう一つ重要なことは、モデルフォレスト運動は、国際ネットワークの中での活動であるということです。
したがいまして、国際的なコミュニケーション力が問われます。
この点について、卒業までに必要な能力を少しでも身につけることが出来るかどうか研究してみられてはいかがでしようか。
たとえばカナダの事務局に短期間でも滞在しインターンシップの体験を積むとか、いろいろプラスになることを考えることが大切です。
そのために必要なことの一つに語学力の問題がありますが、語学力向上の方法については、いうまでもなく本人の強い意志と努力が必要ですが、客観評価としての検定試験などのチャンスが多くありますので、やる気があれば即実行ということでは無いでしょうか。
また、その際、英語プラス英語以外の言語を目指して実行できれば、一生を通じて貴重な財産になることは間違いないと思います。
頑張ってみてください。
以下、全体のまとめ
講義を聞いて、モデルフォレスト運動に興味を持ち、また新たな知識を得たことに意義を見いだした人が大勢を占めたことについて、若い人たちの吸収力やエネルギーを感じ取ることができました。
同時にまた、講義開始時には将来国際舞台で活躍したいと思っている人に挙手を求めたところゼロだったものが終わってみれば、留学をしたい、外国語の修得をしたい、体験をしたいなどポジティブな思考を表明した人が一挙に増えていたことに心強さを感じました。
しかし、このような気持ちが持続しない限り、一夜限りの夢に終わるでしょう。
ところで、「無から有は生じない(nothing comes to nothing)」、「10の7乗理論」この二つの言葉が心に深く残ったという人が沢山おりました。
これは、いずれも2010年にノーベル化学賞を受賞された根岸英一先生が日頃話しておられる言葉として紹介したものです。
「無から有は生じないというのは、行動を起こさない限り成果は上がらないということであり、「10の7乗理論」というのは、「ものは考え方次第」であり、ノーベル賞の受賞チャンスは、1千万人に1人、つまり、10の7乗分の一の確率であり、気が遠くなる話しになりますが、先生の真意は、見方を変えて、10倍の関門を7回通過すれば、10の7乗に到達するもので柔軟な思考を求めておられるわけであります。
私は、この言葉を先生が話されるのを直接聴きたいと思い立ち、平成24年12月9日に東京ビッグサイトで就活学生のための根岸先生による「夢を持ち続けよう」と題する講演の聴講に応募しました。
入場者は学生及び引率教官ということでしたが、京都は遠方であり私が根岸先生のお話を学生諸君に伝えたい旨を明記しましたところ聴講の許可が出ました。
会場は4百名ほどの学生で埋まり、年配者は私の他僅か一名を数えるのみでありましたが、質疑時間にバイオ資源について質問させていただき、特にリグニン資源の開発のような難しい問題についてこそ「夢を持ち続ける」ことの大切さを若者層に伝える先生の熱いメッセージをいただくことができました。
本稿のQ&Aは、質問をすべて網羅しているわけではありません。
若し、個別に質問がありましたら、メールで送信願います。
fuozawa@@ab.mbn.or.jp (送信にあたっては@を一個削ってください)
さらに、参考資料として、外国における外国語教育の事例を紹介します。
それは、ヨーロッパの国、ルクセンブルク(ルクセンブルク大公国)における外国語教育の実態について、元ルクセンブルク大使の安藤昌弘先生の講演と提供された資料からまとめてみたものです。
さてルクセンブルクは、ドイツ、フランス、ベルギーに挟まれた面積は26万㏊ほどの国で、人口も52万4,900人(2012年1月現在)という小規模の国ですが
国民1人当たりのGDP(国民総生産2011年)では、ルクセンブルクは世界1位(115,809USD)で注目の国です。因みに日本は17位(45,870 USD)です。
ところでルクセンブルクは、他のことでも注目されています。
それは、教育面で特に言語教育においてユニークなことです。すなわちこの国では、公用語がルクセンブルク語、ドイツ語、フランス語であり、生徒の国籍も多様化(同国の全人口の43.8パーセントは外国人居住者、なお2009年改正国籍法の施行により7年間連続居住・公用語のうち少なくても一つの試験合格等により国籍取得可能(2重国籍可)となりました。
さて外国語教育は、小学校1年生(6歳)からドイツ語、2年生からフランス語を学びます。英語は中等教育から学びます。
全教育課程における言語教育はカリキュラム全体の50パーセントを占めています。
また産業面では、世界最大の鉄鋼企業を有するほか、研究開発や国際協力に思い切った投資を行っています。
この国の事例は、今後日本人の資質を活かし切り、国際社会の中で信頼される国として発展していくための貴重な参考になるものと考えます。