変貌する中国の林業事情


写真集、「中国の森林紀行」と併せてご覧下さい。

本文は2001年9月、財団法人 亜細亜農業技術交流協会による日中林業交流団の派遣報告のうちの総括部分(執筆者小澤普照)を掲載したものです。


中国における最新の林業事情の概括及び訪問地域の林業事情の概要

(1) 最近における中国全体の林業事情

 2001年9月2日から15日までの間の交流期間中に読んだ、現地新聞の記事によると本年8月の国民総生産の前年同月比は、8.1パーセントの伸び率であるという。
 これを実証するかのように、概ね北緯50度から北緯20度まで、寒帯林から熱帯林まで南下するという、縦断旅行の間に見聞するものは、都市部では高層のビルやホテルの建設ラッシュであり、地方では西部大開発の旗印の下、高速道路の建設工事を中心に土木工事が至る所で進捗しており、大型の建設機械の稼働とともに大勢の労働者がスコップなどをふるう姿が、どこに行っても見られるという状況である。
 これら大規模の建設工事は、砂塵を巻き上げ、また石炭による火力発電は大気の汚染等を引き起こすことも避けられないところである。
 したがってまた、国を挙げての環境政策への取り組みも真剣である。
 曰く、緑色政策、生態環境建設、退耕還林、封山育林など各種の政策が建設工事と併行して全国的に進められている。緑色政策の中には緑色食品生産も含まれるが、対象になるものとして野菜や畜産品のほかや地ビール・地ワインなどを含め広い概念を包括するものと受け取られた。
 以下に最新の中国林業事情について、主として2001年中国政府編纂の資料(「中国林業」)を参考にして概括してみることとする。
 
 
 森林資源状況
 
 森林面積は1億5,894万ha、立木蓄積124億8千8百万立方メートル、国土に対する森林被覆率16.55%である。
 また森林の分布は、国土の東北部及び西南部に主として存在し、黒竜江、吉林、内蒙古、四川、雲南の5省(区)で面積で41.27%、蓄積では52.44%を占める。
 造林については近年盛んに行われた結果、全国の人工林面積は4,666.7万haに達している。
 また1年間の進行速度は人工造林420万ha、航空機による播種60万ha、封山育林400万haとなっている。
 緑化については、1981年以降ボランティア植林が全国的に展開された結果、延べ70億人の参加により、350億本の樹木が植栽され、19万7千カ所の緑化基地ができた。
 したがって都市部の緑化が大いに進展し、北京をはじめ大連、青島、南京、杭州、深?、上海浦東など景観の優れた都市が出現した。
 1999年までの全国の都市緑化面積は568,000haとなり、緑被率27.44%、都市公共緑地12万ha、1人あたり6.52平方メートルに達している。
 
 
 生態環境増進政策

 現在中国政府が力を入れている生態環境増進政策については、森林エコロジープログラムの進展が見られる。
 @先ず、天然林保護計画(工程)については、最大の投資を伴うもので、内容としては、長江上流及び黄河上流・中流部における天然林伐採の全面的な禁止措置及び雲南省・内蒙古等の重要国有林内での伐採量の大幅縮減措置があげられる。
 また、これら以外の地域においては、地方政府が責任を持って天然林(多くは二次林)保護を行うこととしている。
天然林保護計画のもう一つの内容は、伐採跡地や荒廃林地への再造林である。
 これらの政策は天然林の休養と林力の回復についての主要な解決策となるものである。
 この結果、天然林における木材生産量は1,991万立方メートルが削減され、造林による整備は1千270万ha、保育等による天然林育成は9千430万ha、と中国の林業に大きな変貌をもたらした。この事業に伴い、74万人の木材生産関連従事者が造林、育林、森林保護等の分野に転換・再配置される計画となっている。
 A三北地域(中国北部、東北部、西北部の三地域を指す)及び長江中流・下流地域等における重点防護林建設計画(工程)は中国最大規模のものであり、三北・長江中下流域のほか、沿海、珠江、准河、太行山、平原地区及び洞庭湖等の地域を包含するもので、28省(区、市)の1,696県(市)に関連するものである。
 造林計画は2千270万ha、保育等の対象面積は7千190万haの計画である。
 このうち三北防護林計画は中国国務院により第4期計画が承認されているが、第4期計画はの主要目標は「防砂治砂」(注、中国語表現では「防沙治沙」)となっている。
 B退耕還林還草計画(工程)
 耕地を森林等に戻す退耕還林還草計画は中国政府の水土侵食防止のための重要戦略である。
 現在、退耕還林は当初計画地域については、概ね達成目前の見通しとなっているとのことであり、全国的な生態建設計画の一翼を担って進められている。
 17省(区)に試験区が設けられており、2010年までに2千270万haにわたる水土侵食防止が期待されている。
 C北京地区の防砂・治砂計画(工程)
 この計画は首都北京とその周辺地域の風砂問題に視点を当てた環境改善のための重点計画である。
 したがって、地域は北京市のほか、天津、河北、内蒙古、山西の4省(区)の75県を含む地域が該当し、2010年までに森林及び草地の被覆率を現在の6.7%から21.4%に高めようとするものである。
 D野生動植物保護及び自然保護区建設計画(工程)
 この計画は種の保存、自然保護、湿地保護問題等の解決を目的とするものである。
 全国的なモデルとなる、代表的自然生態系、希少性を有し危機に瀕している動植物の天然分布区域、生態環境劣弱地を対象として実施する。
 パンダ、金糸猴等10種の動植物に対する保護活動及び森林、湿地などの30以上の生態保護活動が2010年以前において行われている。
 E主要林産業基地建設のための速生・豊産用材林重点地区建設計画(工程)
 現在不足している木材及び林産物供給の問題を解決し、他の地域で進められる森林資源保護に伴う影響の軽減を図るとともに、5つの生態基地づくりの促進に寄与することを目的としている。
 この計画の実現により、毎年1.3億立方メートルの木材供給が可能となり、国内の木材需給の均衡が概ね図られることになる。


 産業としての林業

 中国では森林に関する生態環境保全問題は、林業行政の一環として行われているところであり、前述したように生態環境建設の進展が目覚ましいが、これと併行して産業としての林業の発展が図られており、これについて概略を記すこととする。
 この分野は、中国では林業産業と呼ばれているが、2000年には、林業生産額は3千400億元(5兆1千億円)に達している。
 2000年における合板類の生産は、2001.66万立方メートル、林産化学工業における主力生産物である松香(ロジン)の生産及び輸出量は今や世界1位となっている。生産量は386,760トンであり、製材の生産量は634.44万立方メートルとなっている。
 林産化学産品は100種類以上に上っている。製紙工業は林業部門において主力産業となり、製紙企業は40に達した。
 中国は竹及び藤資源において世界でもっとも豊富な国であり、全国の竹林面積は421万ha、400品種を数える。
 年間孟宗竹の伐採は、1億14百万本、乾燥タケノコの生産量は31万トンである。
 竹産業の年間産出額は、240億元(3,660億円)、輸出額は8億ドル(米ドル)である。
 竹編み具及び竹製品の発展は、中国の一部の地域の地域において当該地域の経済発展の一翼を担うまでになっている。
 中国はまた世界でのうちでも、珍しい花や植物に恵まれており、花卉生産用地は14万ha、花卉業者2万1千、生産額162億元(2,430億円)である。
 また緑化苗木、切り花、盆栽等の連携、流通ネットワークの形成がなされつつある。
 一方、フォレスト・ツーリズム(エコ・ツーリズム)の進展は目覚ましいものがある。
 全国に1050カ所、面積にして1千万haの森林公園が設置され、それぞれが自然景観、人文景観、色彩豊かな多民族文化を誇っている。
 林業部門におけるツーリズム人数は年間6,200万人回に上り、収入は12億元(180億円)年々25%の伸びを示している。


 森林資源保護

 中国における森林資源管理は森林法を根拠法規として実行されている。
 森林資源管理の基本原則は森林の伐採量を生長量以下に抑えることを厳正に実施することにある。
 実効性確保のため、伐採許可制度、輸送及び流通段階における監督・検査システムが確立された。
 政府は森林所有認証を発行することで森林所有の明確化を進めてきている。
 一方、国際標準による先進的な国家森林資源モニタリングシステムを確立してきている。
 これまで五次にわたる全国森林資源調査が実施されたところである。
 森林及び野生動物保護のための体制とし、森林公安部門を国が設立し、全国に6,464カ所に部署を設け、4万9,000人の公安官を配置している。
 森林火災対策としては、森林防火条例により、予防と防火活動を高める措置を講じている。
 このため、森林警察部隊が設置され、県レベルで3,027の森林防火指揮部署が設けられ、9,300の専業及び半専業の防火隊が配備されるほか、18カ所の航空防火基地が設置されている。
 この結果、火災による森林被害率は千分の1以下、火災発生率は千分の4以下に抑えられている。
 以上のほか、森林病害虫防除組織が県段階に、2,637カ所設けられ、病虫害発生率は千分の6以下になっている。
 ところで中国は野生動植物が豊富であり、世界各国のなかでも動植物の種類が最も多い国の一つである。
 脊椎動物は世界全体の10パーセントを占めるほか、高等植物は同様10.5パーセントを占めている。
 特にジャイアントパンダ、金糸猴、銀杏等は世界的に有名である。
 中国政府は野生動植物の保護を重要視しており、全国に909カ所の野生動物及び森林植生類型に基づく自然保護区を設置している。これら保護区面積は1億haを超える。
 うち14カ所は、世界人・生物圏保護ネットワークに加入するとともに、7カ所は国際重要湿地に位置づけられている。
 一方、中国政府は、ジャイアントパンダ等絶滅危惧種の保護事業に取り組んでおり、400カ所余の繁殖保育基地を設定して、保護に努めてきた結果、60種超の希少野生動物の人工繁殖に成功するとともに100種以上の希少植物の保護繁殖に成功を収めた。

 
 林業管理と法制

 中国は林業管理を重視し、中央政府に国家林業局を設置するとともに、省、区、市、県の各行政府に林業庁または林業局を設置している。なお郷、鎮には林業所を置いている。
 また政府は、法に基づき森林資源を保護するとともに、林業振興の推進に努めている。 具体的な法制整備としては、1948年に中華人民共和国森林法を制定し、1988年に中華人民共和国野生生物保護法を公布、施行したところである。
 また同時に、中央及び地方省等の行政府において一連の林業法規体系の整備を進めてきている。
  

 林業科学技術

 中国は科学技術による興林戦略を実行している。
 200以上の研究所が県段階に置かれ、3万人の専門技術者が研究開発に従事している。
 林業における科学技術の成果は5千件以上に上り、そのうち300件は国家から顕彰された。
 研究者達は30種以上の樹種、2,000種以上の優れた原種、科、クローンの改良に取り組み、その結果平均材積生長量は10ないし50パーセントの増加を見た。
 合計1千もの新品種が広められた。ポプラ、ユーカリ、中国モミ、アカシア、竹、籐などの普及がデモンストレーション効果をもたらしている。
 29の政府重点実験室及び2国立技術センターが設立されている。国家森林生態モニタリングシステムが14カ所の定点観測所の設置により形成されている。

 
 林業国際協力

 林業の発展を推進するため、政府は林業の対外開放政策を実行している。すなわち多数国参加による活動であり、技術、資金、先進的管理経験、資源、輸出林業実用技術、産品及び人材の導入に資する二国間及び多国間の科学技術交流、経済協力の展開である。
 林業における国際協力は今後ますます多様な方式、多チャンネル、各レベル、多領域、科学・経済・貿易の集積を通じ、対外的に開かれた形で、一体的にまた全方位的に展開されると見込まれる。
 国家林業局は三つの国際協約及び五つの国際組織に加入しているほか、21の国際協約及び組織と連携を行っている。
 また20カ国と部門間林業協力協定を締結しているほか6カ国と八つの政府間協定を締結している。国外からの資金は25億米ドルに達している。研修等の国外派遣は2万人回、海外からの招聘は4,600人回以上に上る。
 同時に海外森林開発の展開及び林業科学技術成果の移転、林業機械・設備の輸出が行われている。

 
 
 未来展望

 今後における、生態環境の改善及び現代化の推進のため、国家林業局は飛躍的な林業発展のため"超常規的"な方式と措置で取り組むとしている。
 注、超常規的とは常識や習わしを超えることを意味する。
 重点政策は国務院批准に係わる6大林業重点工程である。すなわち天然林保護工程、三北及び長江中下流地域防護林工程、退耕還林還草工程、北京周辺地域防砂・治砂工程、野生動植物保護・自然保護区建設工程、早期生長・多収穫用材林基地建設工程の6工程である。
 6大重点項目の順調な実現の為、今後林業政策の調整・改善を進める。非公有林業発展のための規制緩和(民間林業の推進)、林産業の発展、管理体制の等の改善、科学技術の推進、法律に基づく森林管理の推進等を進める。
 未来目標は以下のとおりである。
2010年における森林被覆率19.4パーセント
 2030年における森林被覆率24パーセント   
 2050年における森林被覆率26パーセント以上
 かくして中国の生態系の様相は根本的に改善され、秀麗な山河が実現するとしている。

  
 (参考) 西部大開発など最近の中国事情についての考察

 最近の中国では、「西部大開発」の文字がいたるところで目につく。
 具体的には、発展に格差が生じている内陸部のインフラストラクチャー建設を進めるプロジェクトの推進であり、背景としては、沿海部すなわち北京、上海、広州などの都市部と内蒙古自治区、陝西省、重慶市、貴州省以西の内陸農村部との所得格差が拡大を続けており、放置しておけない状況がある。
 西部大開発の対象地域は、12の省・直轄市・自治区を含むが、1人あたりのGDPは、4千200元程度といわれ、沿海部の半分以下と見られている。
 工業生産額も中国全体の11.8パーセントに止まっている。
 大規模なインフラ整備としては、青蔵鉄道(青海省とチベット自治区にまたがる1,118キロの区間)、「西気東輸」事業(タリム盆地の天然ガスを上海に送る)、「西電東送」事業(石炭火力発電に代えて西部における水力発電による電力を沿海部に供給する)などがめぼしいものとして挙げられているが、各地で目立つものは高速道路の整備である。
 大開発が進められる一方、「生態環境建設」、「緑色政策」、「退耕還林」、「封山育林」など自然保護、造林などのプロジェクトも大々的に進められている。
 これらの政策の推進は、当然農業人口などの変化を促すもので、ここ数年で1千万人程度の農業人口が他産業への移動するとの見通しも聞かれるところである。
 しかし、現在農村部には9億人が住み、そのうち1億5千万人は余剰であるともいわれていることからも、西部大開発とともに環境バランスの観点からも、森林整備や緑化に対する地域の意気込みに熱気が感じられる。
 中国の経済全体の動きは、大変活発であり、本年上半期の実質経済成長率は、7.9パーセントの高水準となっている。
 理由は、公共事業や国有企業の設備拡充にともなう投資の増加が挙げられるとともに、見逃せないのが旺盛な個人消費といわれる。とりわけ住宅購入をはじめ、生活水準向上への強い意欲が背景にあるとのことで、都市部では「住居革命」などのキャッチフレーズも良く目にすることができるが、この意味するところは、単に建物としての住居のみならず、生活全般の向上を目指すものであるとのことで、旺盛な個人消費との関連がうかがわれる。
 



 主たる訪問地域における概況


 各訪問地域の状況についてはそれぞれ詳細な報告が記述されているので、ここでは特徴的な概況を記するに止める。

 
 内蒙古自治区

 内蒙古自治区については、大興安嶺地域の国営森林地帯及びホロンバイル草原の中心都市である海拉爾(ハイラル)市周辺における日本のNGOと連携した植林活動の現地を訪問した。
 大興安嶺地帯は中国でも最大級の規模の森林地帯である。国の管理局が直接管理している森林は内蒙古自治区と黒竜江省に跨るが、内蒙古自治区側に一千万ヘクタール、黒竜江省側に同様一千万ヘクタール強の合わせて二千万ヘクタール強の森林が分布している。
 この面積はわが国の全森林面積、二千五百万ヘクタールの80パーセント強に相当する大規模な森林である。
 これらの森林は、中国国家林業局の直接管理により経営されているもので、わが国の国有林と類似しているところである。
 内蒙古自治区に属する国営森林は牙克石(ヤクシ)市に所在する国営林の管理総局が19の管理局を統括して森林経営を行っている。
 これらの管理局の一つを訪問したが、森林の構成樹種はカラマツ及びシラカバの2種からなる単純な森林である。このような森林が緩傾斜の山地に延々と連なっている。
 木材の産出量は一頃に比較すると半減の状態であり、今後は現在のカラマツの育苗及び植栽に加えて、早生樹種の導入を図りたいとの希望がある。具体的には北海道のエゾマツやトドマツなどについても関心が高く、良い樹種があれば紹介して欲しいとの申し出でがあった。
 この際、針葉樹に止まらず、ミズナラ、マカンバ等についても試験的な植栽を進めてみてはどうかと考えられる。
 現場では、カラマツの育苗が盛んに行われているほか、一部モミの植栽も実行されている。カラマツは未だ植栽後の期間も十年程度と短いが生育状況は普通で今後に期待される。 シラカバは割り箸製造の原料となり製品は日本に輸出されている。
 また日本向けとしてはナメコの菌床栽培が行われている。
 ヤクシ市は木材の加工・流通など林業都市としての機能を果たしている。

 次に訪れた海拉爾市は漢族、蒙古族が多数を占めるが、少数民族もダホール族等多くの種族で構成されている。
 ホロンバイル地域は広大な草原が広がり羊の放牧等畜産業が盛んであるが、近年大規模放牧等による草原の劣化現象も生じ、砂漠化の危険も生じている。
 そこでホロンバイル盟や市当局は植林等の緑化に積極的に取り組んでいるところである。一方、日本側に日中緑化協力基金が設置され、その一プロジェクトとして日本側のNGOであるNPO法人のホロンバイル緑化推進協力会が海拉爾市政府をカウンターパートとして、2000年から草地に植林を開始している。
 植林現地は「中日友誼林基地」と呼称され、樟子松、アカシアなどの混植方式で森林造成が順調に進行している様子がうかがわれた。
 なお、新しい技術として、冬季植林が行われている。この方式は、春先の強風による苗木の枯死や活着率の低下を防ぎ、冬季の寒冷季ではあるが、大苗木の植栽を可能とするものであり、新たな造林技術の開発事例として期待しうるものと考察される。
 この地域における冬季植林は、年々増加しており、理由としては、技術的なものと同時に1メートル2,30 センチメートル以上の大苗を植えることによる視覚的な効果も考慮した政策と理解される。
 また中国の他の地域も含め、緑色政策の推進が見られるところであるが、海拉爾市の緑化都市発展計画は、6項目に整理され、予算に応じ、逐次実施に移されている。
 具体的には@生態環境構築、これには砂地対策、退耕還林、放牧禁止地区の設定などが含まれる。A治理として排水、ゴミ処理、大気汚染対策などがある。B緑色食品として汚染のない野菜、牛肉、牛乳の生産供給。C旅遊の開発及び発展として原始林(樟子松の原生林がある)の観光、すなわちエコ・ツーリズム。Dグリーン教育として児童に対する環境保護、植林、園芸などの実践教育。Eグリーン情報管理として、市当局による指導、植林NGOに対する協力がある。
 
 
 青海省

 青海省は北は甘粛省、南はチベットに連なり、また海抜3000メートルを越す高地に展開する地域を多く含んでいる。
 高原の先に連なる山岳は標高4500メートル級の高山であり、羊等の放牧草地と白雪を戴く山並みのコントラストは風光明媚な景観を構成している。
 また中国最大の塩水湖である青海湖は、観光的にも賑わいが見られるところである。
 森林については被覆率は低い状況にあるものの、地域によっては、トウヒの優美な森林なども見られ、環境上あるいはまた森林レクリェーション利用適地として発展の可能性もあり、今後における整備と相俟って機能の発揮が期待される。
 さて、青海省の森林について、最も重要なポイントといえば、何といっても、中国の二大大河である、長江及び黄河の双方の源流地域に当たっているということであろう。
 一方、青海省における砂漠化の進行は、造林等による森林の整備を上回るものであり、黄河の流水減少はいうまでもなく、長江の水量についても楽観が許されないともいわれていることから、今後における青海省の森林造成や整備の促進の意味の重さを感じ取ることができよう。
 また、青海省の地域は、目下中国のナショナルプロジェクトである西部大開発の実行現地の一つであり、至る所で高速道路の建設をはじめ土木工事が展開している。
 工事現場は農村、山間地を問わず展開しているが、ブルドーザーなどの重機の活動とともにスコップ等を振るう男女大勢の作業者の参加が見られるのが特徴で、これらの工事の進展が農村部等に現金収入をもたらしているものと推察される。
 なお農村部の造林現地を訪問する機会を得たが、ここでは中国の森林政策として推進されている、退耕還林の有様を見聞することが可能である。
 退耕還林工程は一定以上の傾斜度を持つ斜面での農耕を禁じ、その地に森林を造成する事業である。
 青海省では、退耕農民に対し五年間の米や金銭の支給を行いつつ森林の整備を行っている。このような政策が環境改善上必要であることは農民が良く理解しているとの説明があった。
 各地域における道路工事とあたかもバランスをとるかのように、造林や岩石地の播種緑化が並行的に進められている様子を随所で見ることが可能である。
 青海省は未だ決して裕福な状況にあるとは言えない。そのことは観光地で、小さな子供達が、カシミール山羊を抱えてきて、幾ばくかの金銭と引き替えに観光客に山羊を抱いたポーズで写真を撮るようにせがむ光景からも推察されるところであるが、決して暗い雰囲気はなく、大人も子供も観光的事業に参加しているとの積極的な姿勢も感じられた。

 
 雲南省

 中国も雲南省まで南下すると、森林も豊富となり、また熱帯性の樹種が多いことから景観も大きく変わる。 
 中国雲南省でも最南部に位置するシーサンパンナタイ族自治州を訪問することができたがこの州は全体が風景区となっており州都の景洪市を中心にエコ・ツーリズムの拠点が展開している。
 特徴は一万九千平方キロメートルの総面積の60パーセントを占める熱帯林の豊富な動植物で種の数は二万種といわれる。
 熱帯植物園、野生の象が生息する保護林など多数の保護区が設定されており、キャノピーを観察できるスカイウォークやゴンドラの施設整備が進んでいる。
 また樹上旅館と称する、地上6,7メートルくらいの高さがあろうかと思われる、樹木の幹を利用して設置された木造ロッジがあり、テレビ付き一泊の宿泊料金が示されているなど珍しい光景も見られる。
 総じてエコ・ツーリズムにかける積極姿勢が明確で、植物園等の入口では、色彩豊かな民族衣装を着けたガイド担当の女性が立ち並び入場者を銅鑼などで歓迎する光景等参考になるところが見られる。
 林業的な面では、木材はミャンマー、ラオスから輸入を行っているとの説明があったほか、収入面ではゴム林の造成及びゴム採取が盛んで産業としての地位が高い。なおゴムの樹種はインドゴムやアマゾンゴムとは異なるもので、雲南固有の品種であるとのことである。
 景洪市の曼聴公園には鉄刀木(タガヤサン)の大木が生い茂っている。黄色い花が美しい。タイ族はタガヤサンが萌芽性が強いことから、伝統的に薪として使っていたという。
 鉄刀木または黒心木ともいう。産地はパンナ全州にわたり、低中山山村のタイ族伝統的薪材であり、この地域ではたきぎ採取のため植えられてきた経緯があるという。熱帯林諸地域における燃料不足に対応する樹主選定にあたり、参考にすべき事項と考えられた。

 注、鉄刀木(タガヤサン、マメ科 Cassia siamea)は、東南アジアが原産でシタン、コクタンと並ぶ木とされている。乾燥地帯での造林の際、厳しい条件にも耐えるので、使われている。しかし、そのような場合には、どちらかというと、大きく育てるよりも小さいうちに燃料にされているといわれる。日本ではタガヤサンは、かつて銘木として用いられたことがある。
 
 中国の国際モデル森林(杭州臨安市)

 1992年の地球サミットの際、カナダ政府から提唱された、モデル森林の国際ネットワーク構想は現在世界各国に広がりを見せているが、中国においては、杭州臨安市に国際モデル森林が設置されている。
 位置的には上海市西方300キロメートル、高速道路を使い上海から3時間程度の行程である。
 臨安モデル森林の規模は10万ヘクタールとのことであり、カナダの国際モデル森林に比較してやや小規模の部類に属することになるが、一応の水準に達していると考えられる。
 臨安市林業局の中にモデル森林の事務局がおかれ担当スタッフが常駐している。なお上部指導機関は、北京所在の林業科学院が当たっている。
 国際モデル森林の重要なシステムとしての地域における幅広い利害関係グループの参加による意見交換の場の設定やパートナーシップの形成などは着実に行われており、国際モデル森林の基本的な理念は十分に取り入れられていることがうかがわれた。
 モデル森林の生産・経済活動の主力は、竹資源の活用及びクルミの生産販売である。
 竹については、竹を原料とする加工品生産及びタケノコの加工販売が盛んである。
 かなり規模の大きいタケノコの加工工場が稼働している。
 また個々の林家によるタケノコ、クルミ等の生産は活発に行われており、個別経営者の自宅も訪問したが、夫婦によるクルミ、キノコ等の生産が行われており、住居の規模も大きく裕福な状況がうかがわれた。
 また住居といえば、上海郊外から臨安に至る、高速道路沿線の農村地帯の住宅はかなり大型の3階建て住居が軒を連ねており、聞き取りでは、建坪100平方メートル程度ということであるから、総面積300平方メートル程度の大型住宅ということになる。
 このような住宅群は最近における中国の経済発展の状況を反映するもので注目すべきことである。
  


戻 る    トップページへ