林政総合調査研究所理事長、森とむらの会評議員 小澤普照
かつて下河辺淳先生の講演をお聞きした際、「過疎」と言う言葉は全総計画が発端とのことで、先生の造語ともいえよう。すなわち1969年策定の二全総(新全国総合開発計画)に、過密過疎など、地域格差の解消というキャッチフレーズが打ち出されて既に40年近くが経過した。さらに、高齢化、少子化などの諸問題が加わり、全総計画も、1998年策定の五全総において、多軸型国土構造形成をメインテーマとし、多自然型居住地域の創造を打ち出した。この多自然型居住地域とは、小都市,農山漁村、中山間地域などを包括する地域であり、ここでいう「森林・山村地域」と概ね重なるものであろう。
さて、多自然型居住地域の旗揚げからも、早十年、過疎・高齢化が解決したとの話は聞かない。地域の実態はどうなっているのかとの思いを抱いて、今年(2008年)の二月、三月にかけて、島根、会津、佐渡などの各地を訪た。
先ず島根県であるが「里山再生」に資するためということで、日頃、地域活性化に奮闘している益田市居住の県職員Aさんを介して、溝口善兵衛知事さんにお会いしたいとご連絡したところ、折り返し返事があり、県議会の合間をやりくりして何とか時間を頂けそうだというこになり、早春の出雲路に出かけた。オープンで明るい雰囲気の知事室で筆者から、モデルフォレスト運動、企業の森づくりなどに関する情報提供、また島根のすばらしい森林を活かしていくことについて、頑張ってほしいとエールを送り、知事さんからも、水と緑の森づくり税や企業の森の取り組みなどについての紹介や過疎化が進む島根においても、森林を守り育てていくことが中山間地域の活性化のため重要とのお話があった。
話を進める中で、考えさせられたのは、森林の価値すなわち、「森林力」の問題あるいは、「評価」の問題というべきであろうか、かつて、林野庁が、森林の公益機能を貨幣価値に換算し、PRも行ったが、現代では、より一歩踏み込み、知事さんなど為政者の方々が、座右において政策遂行に役立つような、都道府県ごと、あるいは流域ごとの森林力評価資料が必要ではないかということである。例えば、森林の成熟度、森林諸機能の評価、自給率分析、加工流通の実態、生物循環資源エネルギー供給の未来予測などなどが考えられる。このほか、森林力の低下要因に繋がる因子として、放置森林や不在村所有者の増加があり、解決策として、森林を出資して企業的な法人化することへの発想が出されたり、京都府では条例によって不在村所有者とNGOが協定を締結して森林の整備を推進する方策の芽生えも見られる。
これらについての資料等を提供していくことは、シンクタンクなどの重要な役割である。
なお、島根県では、「日本一の田舎づくり」をテーマとした検討も進められてきたが、実態認識で注目されるのは、お金の流れで、田舎で節約して生み出されたお金は、相続等の段階で、都会に住む相続人に流れていくケースが多いということである。この話は肯定される方が多いが、田舎の活性化に効果的な資金として還流させるには、どうしたらよいかが問われている。
広島県との県境に近いところに中山間地域研究センターがある。ロケーションは将来の道州制も視野に入れて設置したともいわれるが、中国地方全体を見渡すには標高の高い山地からの発想していくことも重要と感じた。
さらに飯南町では山碕英樹町長さんは、豊富な森林を活かした癒し効果の発揮にご熱心で、体験プログラムも2日間コースまでは出来たとお話を聞いた。帰京後、長野県信濃町の7日間コースのプログラムを参考までお送りした。
会津三島町は、桐の里づくり日本一を目指している。大抵の地域が桐植林から撤退した今日、桐の植林で町おこしを徹底的にやろうという齋藤茂樹町長さんの情熱は、雪をも融かす勢いである。町長さんと二人で町内を隈無く見学した。植林のみならず、桐の博物館、桐の不燃木材開発、木質エネルギー開発など視野は広い。人口二千人ほどの町で職員は四十人余と見受けたが、筆者の体験では同規模のフランスのコミュニティなら半分くらいの職員で運営しているのではなかろうか。何故そうなるのかなど話は尽きず後日の再会を約した。佐渡では、日本一の島づくりを目指す場合のテーマについて講演をし、島の識者の意見を聞いたところ、もてなしの島日本一より、自給自足の島日本一を目指す方が感覚に合うとのことであった。確かに自給自足の生活スタイルを身につけたいという都市居住者は多いようであるから、新しい連携が生まれれば、佐渡発のノウハウ提供は可能であり、佐渡島の活性化にも役立つと思う。
今の時代では、県は分権を主張し、国は地方に十分な遂行力はないという。市町村の立場となると国にストレートな財政支援を望む声もある。さらにNGO(NPO)は数、実力共に向上しつつ行動力・受注能力を高めている。企業も自治体やNGOとのパートナーシップの形成に意欲を示す例が増加している。
真に地域の活性化を願うならば、自己主張のみでは社会は不安定さを増すのみである。
今こそ必要なのは、国、県、市町村、NGO、企業などが、地域社会を共有しているとの理念の元に役割を明確にしながらネットワーク機能を高めること、すなわち地域間連携も含めて、真の「協働」を徹底していくことが、森林・山村地域における過疎、高齢、少子化などの困難な課題を解決する道に通じていると考える。(平成20年4月24日記)